知財本部・新情報財委員会「はじめに」

さきごろとりまとめられた知財本部・新情報財委員会報告。ビッグデータとAIの知財問題。「はじめに」に、6段落にわたり重要なメッセージが込められています。ポイントを掲載し、コメントします。

1 大量に集積されたデジタルデータとAIの利活用によって、新たな付加価値と生活の質の向上をもたらす第4次産業革命・Society5.0の実現が期待されている。政府としては「日本再興戦略」において、IoT・ビッグデータ・AIによる産業構造・就業構造変革の検討を主要施策の一つとして
※政府がAIやIoTをトッププライオリティの政策と位置づけたのは正しい認識です。ここに乗り遅れると、失われた25年どころではない閉塞状況となります。

2 「第5期科学技術基本計画」において、・・『超スマート社会』の実現(Society 5.0)」として、AI・IoT等を活用した取り組みをものづくりだけでなく様々な分野に広げ、・・ 産学官・関係府省が連携・協働して研究開発を推進することを決定した。
※文科省、総務省、経産省などが連携して研究開発に力を入れるようになりました。ただし、国の予算でのR&Dはあくまで補助にすぎません。問題は民間の活動をどう刺激するかです。

3 こうした流れを受け、日本経済再生本部の未来投資会議においては、構造改革の総ざらいを行うとともにAI・IoT等の技術革新の社会実装・産業構造改革を促す取り組み等について検討が行われ、
※社会実装を促す。そう、日本はAI・IoTの生産・開発大国を目指す以上に、利用大国を目指すべきです。AI・IoTの産業化よりも、産業全体のAI・IoT化を促すことで、産業構造改革とイノベーションと競争力強化を図るのがよいと考えます。

4 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部)のデータ流通環境整備検討会においては、情報銀行を含め、ITを活用 した円滑なデータ流通・利活用環境の整備について検討が行われている。
※IT本部ではデータ流通・利活用のインフラ整備を進めています。IT政策と知財政策との連携・合体はこれまでも重要な課題でしたが、AI・IoTではますます大事になります。

5 知的財産戦略本部においては、平成27年度に次世代知財システム検討委員会を開催し、AIによる自律的な創作(AI創作物)や3Dデータ、創作性が認められにくいデータベースに焦点を当てて、主として著作権の観点から、知財制度上の在り方について検討を行った。
※昨年の委員会では、著作権法上の柔軟な權利制限規定の策定と、AI創作物の權利について突っ込んだ議論が行われました。骨の折れる委員会運営でしたが、世界に先駆けた重要な論点整理がなされました。

6 知的財産推進計画2016において、「AI創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財について、例えば市場に提供されることで生じた価値などに注目しつつ、知財保護の必要性や在り方について、具体的な検討を行う。」等とされた。
※「新しい情報財」に着目して知財政策を練ることになったのですが、これは従来の枠組みを超えて論点を整理する必要に迫られるものでした。これまで知財本部はコンテンツ系と産業財産權系とを別系統で論議し、最後にドッキングする手法だったのに対し、今回は最初から一体で取り組みました。

7 新しい情報財については、今後、その利活用が小説、音楽、絵画などのコンテンツ産業に限らず、その他の幅広い産業・・にも波及することが想定され、その基盤となる知財システムの構築を進めることが産業競争力強化の観点でますます重要になってきている。
※つまりコンテンツ=著作権と、その他の仕組み、特許や営業秘密、契約など知財システム全体を陸続きにとらえて検討することになったのです。

8 IoT等で大量に蓄積されるデジタルデータや、AI生成物とその生成に関する「学習用データ」及び「学習済みモデル」などの新たな情報財の知財制度上 の在り方について、・・新たな情報財検討委員会を開催し、著 作権・産業財産権・その他の知的財産全てを視野に入れて、精力的に検討を行った。

※ということです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。