一人勝ちネット企業が存在する理由を考える

2017年05月11日 06:00

経済学では「完全競争市場で超過利潤はゼロになる」という原則があります。「超過利潤」を単に「利潤」と表記することが多いのですが、ここでは説明を単純化するために「超過利潤」という表現を用います。
ここでは「利潤」を、単純に「売上から経費を引いたもの」と定義します(会計上の「利益」と同じです)。

他の条件が同じである場合、Aという商品を販売する会社が100の「利潤」を上げる事ができるのに対し、B、C、D…という商品を販売する会社の「利潤」がすべて50であれば、Aを売る会社は他社の2倍の儲けを出すことができます。

「完全競争市場」なので誰もがAを販売することができます。だとすれば、当然のことながら儲けの大きいAを販売する会社が急増します。転業する会社もあれば、新たにAの販売を始める新会社が設立されるかもしれません。結果、Aは供給過剰になって値崩れを起こし、最終的にはAを販売している会社の「利潤」も他社同様50に落ち着きます。他社の2倍の儲けとなっていた「超過利潤」はゼロになるのです。

このように、美味しいボロ儲けできる分野があれば、別の会社等が次々と参入して競争関係に入るので、いずれは「超過利潤」(儲かりすぎ)はゼロになってしまうというのが経済学の理論です。

ところが、リアル世界では「完全競争市場」という前提を充たすことは不可能なのです。とりわけ、参入コスト、取引コストなどの摩擦コストの存在があるため、他の分野よりも「美味しいボロ儲け」を享受できる会社や業界が存在してしまうのです。

昔の銀行業界などはその典型で、貸出金利や預金金利にとどまらず、規模に関してまで大蔵省や日銀が決めていました。もちろん、銀行の新規設立は滅多に認められません。最も体力の弱い地方の小さな金融機関であっても、最も体力の強い全国規模の大銀行であっても同じ預金金利と貸出金利を適用するよう定められていました。そして、金利は最も体力の弱い小さな金融機関がきちんと営業できるように定められていたので、体力の強い大銀行は「美味しいボロ儲け」ができたのです。これが、かつての金融機関の「護送船団方式」というものです。

現在のリアルの世界でも、参入コスト、取引コストなどの摩擦コストは様々な業界で存在します。例えば、差別化が困難な商品を扱う小売店だと、先祖から受け継いだ好立地の店舗で営業している方が圧倒的に有利です。さばききれないくらいたくさんの顧客が存在しない限り、近くに店舗を借りて新たに設備を投じて新規参入してくる同業者はいないでしょう。

ところが、サイバー世界というのはリアル世界と違って極めて「完全競争市場」に極めて近い環境なのです。極端な話、スキルのある人であればノートパソコンひとつで「美味しいボロ儲け分野」に新規参入することできます。それは極端だとしても、リアル世界とは比較にならない小資本、少人数で新規参入が可能であることは間違いありません。

このように、「完全競争市場」に極めて近いサイバー世界においては、「美味しいボロ儲け分野」には小資本の新規参入がどっと流れ込み、あっという間に「超過利潤」はゼロになるはずです。

ところが、現実ではサイバー世界で一人勝ちをしているネット企業が現に存在し、新規参入が事実上困難な事態すら生じています。リアルな物流を扱うネット通販は、物流というリアル世界の果たす役割が大きいので納得がいきますが、メルカリやFacebookといったリアル世界との関係が極めて薄いネット企業が一人勝ちの様相を呈しているのは、一体どうしてでしょう?
システムや維持管理というハード面だけであれば、第二第三のメルカリやFacebookはいくらでも作れるはずです。だったら、なぜ経済原則通りに新規参入が急増して値崩れが起きていないのでしょうか?

実は私にも確たる理由は全くわかりませんが、顧客である参加者の「転居コスト」(私の造語です)が思いのほか高く、一度多数の参加者を取り込むことによって事実上の参入障壁を作ることができるからだと考えています。

私自身はメルカリを利用したことがないので、ネットオークションで一人勝ちをしていたヤフオクを例に出します。ヤフオクを何度か利用して相手から高い評価をもらうと信頼指数がどんどん上がって他の取引が容易になります。
他のオークションサイトを利用して信頼指数ゼロから再スタートするのは明らかにコストがかかります。新しいサイトでは信頼指数がゼロなので、オークションに参加することすら出来ない場合もあります。

もちろん、ヤフオクに出品されていない商品でどうしても欲しいというものが他のオークションサイトで出品されていれば別ですが、そのような経験は一度もありませんでした。

国内最大の参加者を擁していたため、他のオークションサイトでしか入手できない品物はありませんでした。
おそらくメルカリも参加者が桁違いに多く、商品数や種類が豊富で、取引実績に裏打ちされた評価の蓄積もあるでしょうから、参加者にとって他のサイトにゼロから転居するコストが極めて高いのではないでしょうか?

FacebookのようなSNSの持つ参入障壁も、同じく「転居コスト」だと私は考えています。同じSNSの中で友達ネットワークが広がれば広がるほど、実際の引っ越し以上に「転居コスト」が高くなるからです。Facebook内の友達と連絡を取るためには、(メールやLINE等でつながっていない限り)どうしてもFacebookを利用しなければならないからです。

このように、サイバー世界においては、最初に一人でも多くの参加者を抱え込んで「転居コスト」という参入障壁を作ってしまうことによって一人勝ちが可能になると私は考えています。まさに、「参加人数とネットワーク」こそがサイバー世界での参入障壁であり排他力と言えるのではないでしょうか?

一人勝ちで体力が付けば、斬新なサービスを提供する新規参入を力でねじ伏せることもできるようになります。FacebookのSnapchatに対する圧力がその典型でしょう。

今後も、サイバー世界では斬新なサービスがたくさん生まれてくるでしょう。アイテムがパソコンからスマホに変わったチャンスをメルカリが逃さなかったように、音声デバイスの登場によって生まれるチャンスを虎視眈々と狙っている企業もあるでしょう。

メルカリやFacebookのように、人と人とを繋ぐビジネスにおいては「参加人数とネットワーク」が最大の力となり一人勝ちが可能になったというのが、現時点での私の考えです。

しかし、新しいサービスやデバイスの登場によって、私の考えが全くの的外れだったと証明されるかもしれません。また、既に確たる知見をお持ちの方からは、是非ともご教授いただければ幸いです。

反対尋問の手法に学ぶ 嘘を見破る質問力 (ちくま文庫)
荘司雅彦
筑摩書房
2013-09-10

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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