北朝鮮を巡る“楽観報道” カエルとダチョウの楽園でいいのか(特別寄稿)

2017年05月27日 06:01

北朝鮮が打ち上げた「北極星2型」。北朝鮮政府の公式見解では「中・長距離ミサイル」だが、日本の報道は…(北朝鮮政府公式サイト日本語版より;編集部)

本当に「中距離ミサイル」なのか

テレビ番組などで「北朝鮮の新型ミサイル」と聞いても、どのミサイルを指しているのか、分からくなってきた。次から次へと「新型」が発射されるからである。

今年5月21日夕方、北朝鮮西部から弾道ミサイル「北極星2型」(KN−15)が発射された。同ミサイルの特長や脅威については、5月19日発売の拙著最新刊『安全保障は感情で動く』(文春新書)に詳述した。

なぜ、出版直後に発射されたミサイルの性能を事前に詳述できたのか。理由は簡単。北朝鮮は同じ型のミサイルを今年2月にも発射したからである。本来ならメディアは2月時点で詳しく報道すべきだったが、翌日以降、全マスコミともスルーした。金正男殺害事件が起きたからである。先月、当欄で指摘したとおり今年4月5日朝も「北朝鮮が弾道ミサイル『KN−15』1発を発射した」と速報されたが、その性能諸元はどの局も報じなかった。夜になってもNHK以下、的外れな解説に終止した。今回5月21日の発射関連報道を見ても、KN−15の性能諸元を的確に報じたメディアは少なかった。

5月14には「火星12型」(KN-17)が発射された。NHK以下マスコミは「ICBM(大陸間弾道ミサイル)ではない」(米太平洋軍)と伝え、最大射程を「約4000キロ」と報じた。しかし、高度が「2000キロ以上」(防衛省)に達し、30分間も飛行したミサイルの最大射程が4000キロに留まるはずがない。その後、韓国国防省の分析を受け、「射程は最大で5000キロに達する」(NHK)との報道も出始めたが、今なお「新型の中距離弾道ミサイル」(NHK)と報じている。つまり長距離(ICBM)の可能性を黙殺している。

他方、韓国メディアは公共放送KBS以下「新型中長距離弾道ミサイル」と報じている。つまり長距離の可能性を踏まえている。当の北朝鮮も「アメリカのハワイとアラスカが射程圏に入る新型中長距離弾道ミサイル」と主張する(5月22日・朝鮮中央通信)。本当に「アラスカが射程圏に入る」なら、ICBMということになってしまう。

実は、米軍もその可能性を懸念しているのではないか。5月24日、米軍はアラスカ州に迎撃ミサイル8基を年内に追加配備するなどしてミサイル防衛システムを強化していく方針を発表した。明らかにICBM対策であろう。現時点で「ICBMではない」と断定できる具体的な論拠は示されていない。いずれにせよICBMへの途上にあることは疑いない。マスコミ報道は楽観的に過ぎるのではないか。

ダチョウは危機が迫ると砂の中に頭を突っ込み、危険を見ないようにしてやり過ごすという。NHK以下マスコミが奏でる楽観報道は「ダチョウの平和」(という名の現実逃避)とも評し得よう。

北極星2号の発射を視察する金正恩委員長(北朝鮮政府公式サイト日本語版より:編集部)

「初の米艦防護」という嘘八百

他方、5月は自衛隊による「初の米艦防護」(NHK)を巡る報道も相次いだが、いずれも正しくない。任務付与された(と報道された)護衛艦「いずも」は米艦を防護できるに足る装備を搭載していない。海自はイージス艦などで同艦を護衛しながら運用する。護衛を必要とする艦船に、同盟国の米艦を「防護」させる軍事的な意義は乏しい。

みな「初の」と報じたが、いわゆる9.11同時多発テロ直後も、海自の護衛艦が米空母を護衛した。当時の政府はそれを「調査研究業務」と説明したが、それが平和安全法制(安保法制)で堂々と「警護」任務と言えるように変わったに過ぎない。武器使用の法的根拠も変わったが、実質的には「初の」ではない。NHKは「ニュース7」などでこう報じた。

正当防衛など必要最小限の範囲で武器の使用が認められています。武力攻撃に至らないいわゆるグレーゾーン事態や、平時の場合も行えるとされています。一方、憲法の規定に基づき、アメリカ軍などによる武力の行使と一体化しないよう、「現に戦闘が行われている現場」では行わないと定められています。(NHKニュース

これも間違い。平和安全法制下、武器は「防護するため必要であると認める相当の理由がある場合」に使用可能とされた。「必要最小限」ではない。NHKのいう「正当防衛など」は「武器の使用」要件ではなく、危害許容要件であり、両者は似て非なる概念である。

もし「そんな細かい法律論はどうでもいい」というなら、なおさら「初の」ではない。なにしろ法的根拠が変わっただけで、実際は以前と同じ活動なのだから…。

あえて細かい法律論を重ねるなら、「防護」は実際に武器使用する際の概念であり、正しくは「警護」である。もし「そんな法律論はどうでもいい」なら、NHK以下マスコミが報じた「現に戦闘が行われている現場では行わない」との規定もどうでもよくなるはずだが、それでいいのか。

読者にも考えてほしい。もし「戦闘」が行われたら、「憲法の規定に基づき、アメリカ軍などによる武力の行使と一体化しないよう」、防護も警護も止めるのか。

いま、そこにある危機を直視しないから、こんないい加減な報道になる。公共放送にして、この始末。これでは、カエルとダチョウの楽園ではないか。

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潮 匡人
評論家、航空自衛隊OB、アゴラ研究所フェロー

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