「ストレスがあるとガンになる」という説はウソである

尾藤 克之

写真はwikipedia。タイのタバコ警告表示。

タバコの警告表示をご存知だろうか。これは、喫煙の危険性を広く知らしめるためのものである。日本では、たばこ規制枠組条約が発効した2005年より表示されているが、各国と比較すると差がある。写真入り警告表示を最初に導入したのはカナダだが、現在、「警告文・写真」の面積が最大なのはタイである。※記事の写真を参照いただきたい。

今回は、『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』(サンマーク出版)を紹介したい。著者は、川井治之(以下、川井医師)氏。ガンの予防から発見、退治までを行う呼吸器内科・腫瘍内科医として医療に従事してきた。これまで、肺ガン患者の生死を20年以上にわたって見つめてきた専門家としても知られている。

ストレスとガンの因果関係とは

――英国医師会雑誌に、仕事のストレスや緊張と、ガン発生についての関係を明らかにする大規模な研究結果が掲載されたことがある。仕事のストレスや緊張は、ガン発生リスクに影響を与えなかったのである。画期的な研究結果として話題になった(出典:Work stress and risk of cancer: meta-analysis of 5700 incident cancer events)。

「2013年に約12万人のヨーロッパ人のデータから『仕事のストレスは、ガンのリスクを高めない』ということが報告されました。対象となったガンは、大腸ガン、肺ガン、乳ガン、前立腺ガンです。何となくストレスと、ガンは関係が深いようなイメージがないでしょうか。その情報の出所はどこなのでしょう。」(川井医師)

「実は、タバコ会社が、巧妙に『ストレス』と『ガン』との関係があるかのような情報操作をしていたのです。」(同)

――ポジショントーク(Position Talk)という言葉がある。客観的や妥当性ではなく、自分の利害関係や損得勘定のみを重視して誘導的におこなうことである。このケースも同様に考えていいだろう。

「何のためだったのでしょうか。タバコの害を小さく見せるとともに、喫煙者にタバコよりもストレスのほうが体に悪いと思わせ、そのストレスを解消するためにタバコが必要だと信じさせるためだったのです。これは、『タバコを吸うことでストレスが解消できる』という認知のゆがみを利用した巧妙なわなでした。」(川井医師)

「ハンス・アイゼンク(Hans Jurgen Eysenck)の『たばこ・ストレス・性格のどれが健康を害するか 癌と心臓病の有効な予防法を探る』(星和書店)という本があります。その中で、アイゼンクは、ストレスが『ガン』をはじめとする疾病の原因になるという考えを示しました。」(同)

――アイゼンクは臨床心理学者として、多くの論文・著作を書いた心理学者として知られている。その数は、論文・主要著書、約350編にのぼる。

「アイゼンクは20世紀のもっとも著名な心理学者の1人でした。しかし、あることが露呈します。1996年に『インディペンデント』によって、タバコ会社から80万ポンドの研究資金をもらっていたことが明らかにされたのです。長年にわたってタバコ会社に有利な発言をしてきたのは、タバコ会社の意向に基づいたものでした。」(川井医師)

「ストレス=ガン」という間違った認識

――その後、ストレスが「ガン」をはじめとする疾病の原因になるという考えは、タバコ会社の援助を受けた医学者、心理学者によって広められていった。こうして、いつしか「ストレスとガン」が巧妙に結びつくようになったのである。

「ガンは、タバコ、排気ガス、放射性物質といった物質が体の中に入り、遺伝子を傷つけ異常を起こすことで生じます。ストレスが、ガンそのものをつくることはありません。日ごろから、私たちの体の中ではガン細胞ができていますが、正常な免疫力が保たれていれば免疫の力で殺すことができます。」(川井医師)

「たしかに、ストレスで免疫力が低下することにより、ガンを制御できなくなる可能性はあります。それは、あくまでも、ガンができてからの問題です。ガンの原因は、ほとんどがタバコなどの発がん物質が体の中に入ることにあります。タバコを吸わないことのほうが、はるかに大事だと思いませんか。」(同)

――ストレスを感じると気分はよくないが、気にしすぎることも本末転倒だろう。本書は、川井医師が700人以上の肺がん患者と向き合いながら、3年をかけてまとめたものである。すべての禁煙を考えている人に、手にとってもらいたい一冊である。さて、筆者も新しい本を上梓したので、関心のある方は手にとっていただきたい。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)。

尾藤克之
コラムニスト