クルドの独立を問う住民投票は周辺諸国への影響は必至

2017年09月15日 06:00

voltairenet.org:編集部

中東イラク北部に存在するクルド自治区で9月25日に独立を問う住民投票の実施が予定されている。

シリアそしてイラクでイスラム国との戦いが続く中で、クルド自治区が独立しようとする動きは中東を更に不安定にさせるとしてイスラエル以外の周辺諸国は反対している。勿論、イラク政府も反対の姿勢にある。

なぜ、周辺諸国が住民投票の実施に反対するのか?

クルド人は国家を持たない最大民族(2500-3000万人)と言われている。現在クルド人が居住している国は主に4カ国に跨って散在している。トルコに1300-2000万人のクルド人、イランに500-600万人、イラクに400-500万人そしてシリアに300万人となっている。

このように各国にクルド人が分散したのは、クルド民族が居住していたオスマン帝国が崩壊寸前に英国とフランスそれにロシアが加わって1915年にサイクス・ピコ協定が秘密裡に結ばれてオスマン帝国の領土がこの3か国の都合に添う形で分割されたからである。

イラクに存在しているクルド自治区が仮に独立すれば、その影響はクルド人が住んでいる周辺諸国にまで影響を及ぼすのは必至である。特に、トルコでは人口の凡そ2割を占めるクルド人の独立運動が盛んで、その運動を推進しているクルド労働者党(PKK)を勢いづけることになる。それがなくても、現在トルコ国内ではPKKが独立を求めてテロ活動が盛んである。PKKはトルコ政府と二度休戦協定を結んだが、長く続くことなく解消された。1974年に誕生したPKKであるが、トルコの軍と警察との戦いで1984年から2000年までに4万人の党員が犠牲者となっているという。

エルドアン大統領の報道官イブラヒム・カリムは「自治区による住民投票は問題の解決にはならない」「自治区とイラク政府の間に問題があることは理解している」「イラク政府が自治区を満足させるように歩むべきだ。そして我々がそれを仲介しよう」と述べた。

また、トルコのチャブシオール外相も「(自治区の)住民投票は問題を複雑にするだけだ。内戦を導く可能性もある」と述べている。

トルコはクルド独立問題を国内に抱えているが、イラクのクルド自治区とは良好な関係にあり、実際に同自治区に投資もしているし、輸出する原油はトルコの地中海に面したセイハン港に送られて、そこからイスラエルやヨーロッパに輸送されている。

エルドアン政権になってからトルコが国際舞台に顔を出したのはフランスのアラン・ジュペ(当時外相)がイラクとシリアにクルド族の国家を建国すると誘ったのが始まりであった。そこにトルコ国内で抱えているクルド人を移住させる狙いがあったのである。そして、この案にトルコ政府が協力すれば、いつもトルコのEU加盟に反対しているフランスが今度はトルコのEU加盟に協力すると約束したのである。ジュペが提案したこの原型となっていたのは米国のロビン・ライトが構築したクルド国家の建設案であった。

イラン政府は「クルド自治区の独立は情勢を不安定にさせようとする敵を有利にさせるだけだ」「イランのこの問題についての見解は明確だ。唯一、イラクの現在の統一を維持すべきだ」と同政府外務省のバラム・カセミ報道官が答えた。

イランはイラク、シリアそしてレバノンまで自国の勢力拡大を構築している。その過程の中で、反イランでイスラエルと欧米寄りのクルド自治区が独立国として誕生するのは都合が良くないのである。

クルド自治区はロシアとはイラクのサダム・フセイン政権が崩壊してから関係が進展している。ラブロフ外相は「クルド自治区の独立への望みは合法的そして平和的に、そして国際法の規定を尊重した上で具体化されるべきだ」と述べている。ロシアの見解は同国が支援しているイランとは異なりクルド自治区の独立を支持する姿勢にある。

ロシアの中東における外交は米国に代わって中東での覇権を構築することにある。その意味で、ロシアは中東で敵をつくりたくないのである。

米国は国防情報局(DIA)の将軍で長官のヴィンセント・スチュアートが指摘しているように「クルド自治区の独立は避けられないことである。あとは時間の問題だ」と語っている。しかし、「DIAは情報を分析解明するだけで、米国の外交を決める機関ではない」と指摘した。

米国政府の方針については、ティラーソン国務長官が自治区のバルザニ議長と電話会談をしてイスラム国との戦いが分散してしまう恐れから住民投票を延期するように促したという。それに対して、バルザニ議長は9月25日の予定に変更なしたと回答したそうだ。

米国はイラクそしてシリア紛争を早急に終わらせることには内心関心が薄いとされている。特に、シリア紛争が解決すれば、イランはヒズボラを伴ってゴラン高原の奪還からイスラエルへの攻撃を強めるようになるのは必至で、イスラエルと新たな問題となる。また、中国が計画している新シルクロードのルートにシリアも入っている。シリア紛争が続く限り、新シルクロードのプランは前進させることが出来ない。それを米国は望んでいるのである。

そして、クルド自治区が独立すれば米国にとってロシアとイランの連合の前に劣勢となっている状態にくさびを打ち込むことができる。

イスラエル政府はイランやトルコからの反発を敬遠して公にはクルド自治区の独立についての公式見解は曖昧なものにしている。しかし、ネタニャフ首相は自ら「クルド自治区の独立を支援せねばならない」と表明した。

イスラエルもトルコと同様にクルド自治区から多量の原油を輸入している。日毎30万から35万バレルの原油を主にトルコ経由で輸入し第三国に輸出しているという。

クルド自治区のバルザニ議長の父親の代からイスラエルの諜報機関モサドに協力していたという関係からイスラエルとの絆は強い。バルザニ議長もモサドとの関係は維持していると推察されている。

1960年代には当時のイラク政府からクルド自治区に対して「中東で第二のイスラエルを建国しようとしている」と揶揄されたほどであった。

イスラエルにとってクルド自治区の独立はアゼルバイジャンの後に続くイランの勢力拡大を阻止できる盾のような役目を果たしてくれることを期待している。

しかし、ひとつ問題が生まれている。クルド自治区の独立に反対してイランとトルコが軍事協力を結んだことである。

自治区のバルザニ議長は事態が容易ではないということを知ってか、イラク政府が提供する条件次第では住民投票を延期しても良いという表明をしている。しかし、既にイラク政府とクルド自治区だけの問題ではなくなって、中東全域が絡む様相を呈している。

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