トランプ訪中…米中の緊密化と日中の希薄化

2017年11月09日 09:00

トランプ米大統領夫妻が8日、就任後初めて訪中した。中国メディアは数日前から、米中関係の緊密化をアピールし、習近平総書記夫妻はトランプ夫妻を北京・故宮に招いて親しく案内した。破格の扱いである。

ここ数日、米中と日中に関し、二つの象徴的なニュースに触れた。

第19回党大会で党中央組織部長に就任した陳希・党中央政治局員が3日、中央党校の卒業式に校長の肩書で参加した。党幹部を養成すると同時に、思想イデオロギー研究の要である中央党校のトップは、歴代、党常務委員クラスが就任してきた。胡錦濤や習近平も歴任した重要ポストである。陳希は習近平と清華大学の同窓で、個人的な親交が深いとは言え、異例の抜擢である。

陳希は清華大学を卒業後、修士課程を修了した。引き続き同大に在籍し続け、トップの書記まで務めた。注目すべきは1990年から2年間、米スタンフォード大に留学しており、最高指導部に目立ち始めた米国留学組の1人である。共産党の創設当初、イデオロギー部門をソ連留学組が占めていたことを思えば、隔世の感がある。米中における高位高官レベルでの人的関係が、ますます深まっていることを物語る。

また、香港メディアを通じて流れてきた日中関係にかかわるニュースがあった。5日、日中双方の研究で知られる米国人のエズラ・ヴォーゲル元ハーバード大教授が上海の華東師範大学で「中日関係と東アジアの未来」と題して講演し、中国の指導部に日本を深く知る人材が欠けていることを指摘したという。その指摘自体は目新しいものではないが、トランプ訪中前に、中国研究に傾く米国人学者が語った言葉として、印象深かった。

かつて、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)の著で知られたエズラ・ヴォーゲルだが、2012年には鄧小平研究の世界的ベストセラーを出版し、現在は胡耀邦の事績を熱心に調べている。講演では、戦争を経験した鄧小平、胡耀邦時代は日中の往来が盛んだったが、「その後継者たちは、たとえ日本を知っていても、『愛国的でない』との批判を恐れ口に出さなくなった」と述べる一方、政権基盤の安定した現在の日中指導者は「関係改善の好機を迎えている」と分析した。

確かに、新指導部の中で、最大の知日派は習近平本人である。国家副主席時代の2009年12月、天皇陛下との「特例会見」を含め、訪日歴は計6回以上にのぼる。特に福建省時代は、友好姉妹都市の訪問を兼ね、しばしば東京や沖縄、長崎を訪問している。浙江省党時代も、友好都市の静岡県からの訪問団としばしば会見している。習近平が天皇陛下と会見した際、鄧小平と胡耀邦らが道筋を立てた改革・開放政策の成功について、「この過程において、我々は日本国民の理解と支持を得ました」と感謝の言葉を述べたことは注目されてよい。

米中関係は貿易不均衡や人民元レート、さらには北朝鮮の核・ミサイル開発問題などの懸案を抱えながらも、毎年、定期的に閣僚クラスによる対話の場が設けられている。日本も1970年代、米国との激しい貿易摩擦によって、経済界ばかりでなくメディア、学術分野を巻き込んで、日米コミュニケーション・ギャップに関する猛省があった。だがその後、日米のギャップは完全に克服されたと言えるのだろうか。

一方、日中のギャップについても、かつての日米と同様の深刻さを認識してもよいのではないか。政府間はともかく、中国側は民間レベルで積極的に日本を知ろうとアプローチしている。だが、残念ながら日本側にはその熱意が欠けている。かつてあった熱意が冷めていると言った方がいいかも知れない。

難題が山積し、国民が様々な不安を抱えて暮らしている中、指導者同士がゴルフに興じる光景を、当たり前のように、有り難がって報じているメディアがある。たぶんトランプ訪中では、米中の対立や衝突ばかりを書きたてるのだろうが、目を向けるべき対象は自らの足元にあることにそろそろ気付くべきである。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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