ビズリーチがM&A市場参入。資本も人も流動化という挑戦

2017年12月03日 06:00

先週(11月28日)、ビズリーチが転職サイトでの経験を生かしてM&A業界でも同じように、ネットを使ってマッチングサービスを行うと発表した。南壮一郎社長とはもう10年近いお付き合いになるのだが、知り合った創業時に2人だった同社の従業員数はいまや900人を超える。M&Aビジネスのイノベーションにも乗り出したことで、アゴラでも池田信夫が主張している「人と資本の流動化を進めることが日本復活への道」の実践に向け、 “第2創業”ともいえるチャレンジに期待したい。

以下は、長年の友誼というバイアスに関係なく、記者会見に出て率直に思ったことを書いてみよう。

深刻な事業継承問題をネットから解決する試み

新サイトでは、「ビズリーチ・サクシード(SUCCEED:成功、継承)」というネーミングに込められているように、日本社会の高齢化を象徴する事業継承の問題解決に取り組む。以前、モーニングCROSSの解説コーナーでも取り上げたが、

TOKYO MX「モーニングCROSS」より(クリックすると動画に飛びます)

ここ数年目立つ有名企業のお家騒動が他人事ではないのは、日本企業の多くは同族経営であり、資本金1億円未満の中小企業では97%が相当する(国税庁調べ)からだ。90年代半ばにはまだ40代だった経営者年齢のピークも近年は66歳になるなど、日本社会の高齢化をそのまま反映している。

小出宗昭氏資料より

特に地方では経営者の後継の成り手も見つからず、休廃業の件数は年間3万近くにのぼり、この16年で倍近い数字だ。しかも悲劇なのは、会見に同席していた地方創生界隈でおなじみの企業支援家・小出宗昭さんが指摘していたように、廃業する会社の半数近くが黒字経営だ。まだ可能性を残した企業の未来を閉じていることになり、このあたりが“資産稼働”しきれていない日本経済の非流動化を象徴している。

小出宗昭氏資料より

地場の中小企業が後継者を探す場合、多くは地元の付き合い先の地銀を頼るが、売り手の企業が金融機関に支払う手数料はバカにならない。しかも地銀が探す「後継者候補」は、自分たちの顧客企業から探すので、都市部でなければ商圏内に適当な経営者人材が見つからない場合が多い。その点、少なくともウェブなら都県境は関係ないし、場合によっては海外あたりの金を持った買い手がつく可能性も広がる。

M&A市場のゲームチェンジャーになるか?

ただ、ネットを使ったM&Aのマッチングサービス自体は、アゴラも付き合いのあるストライクなどの仲介業者が草分け的存在ですでに展開しており、ストライクは昨年6月に上場もしている。だから、プロ野球や転職業界でイノベーションを実現してきた南さんがどのようなサービスを打ち出してくるのか注目していたのだが、ビズリーチ・サクシードでは売り手企業は無料で登録できるので、事業継承の大きなネックの一つだった手数料の問題をクリアさせる。

ビズリーチ・サクシードより

この値段的な仕掛けは、求職者側に課金したビズリーチと同じく逆転の発想だが、さらに面白かったのは、地銀にしろ、M&A仲介業者にしろ、税理士法人にしろ、この新サービスで一見競合するように見えるアドバイザリー事業者も売り手側の企業と同じく登録して、買い手を探すことができる点だ。「戦う」のではなく、全く新しい市場を作って「吸収する」つもりなのだろう。

お世辞を抜きにビズリーチ・サクシードが「ゲームチェンジャー」になると思うのは、M&A業界のアドバイザリー事業者間に競争を促す効果も期待できるからだ。すでにビズリーチの出現で、大手企業が人材会社を使わずとも求職者とマッチングできるようになっており、それと並行してヘッドハンターらの眼力も問われるようになった。リクルートは逆にプロの目利きにこだわったエグゼグティブ転職サイトを立ち上げていたが、同じように適度な競争を促す効果をM&A市場にもたらすのではないだろうか。

人材と資本の流動化へ、政治が後押しする番

ビズリーチ資料より

そういえば、今年2月、ビズリーチは政府の日本ベンチャー大賞を受賞し、南さんが安倍総理と記念撮影をしていたが、雇用と市場の流動化を実践する民間事業者がビジネスの現場でそれなりに育ってきているわけだから、あとはマクロの政策からこれを後押しできるかどうかが政治・行政にも問われてくるところだ。それでなければ現場の事業者の創意工夫が空回りしてしまいかねない。

どこぞの電機メーカーみたいに昭和期に名を馳せただけのゾンビ企業がなかなか市場から退出せず、先進国でも最も厳格な解雇規制をそのままにしているために、成長分野にヒトが移転しない。安倍総理の現下の経済政策は、野党マーケットを潰す政略的な視点もあって、左派の人たちが慌てて逆ギレするほど“リベラル”なので期待できないが、2020年代になってさらに人口減少が加速していけば、誰が総理になっても、どの党が政権を担っても、遅かれ早かれ外科手術をしなければ日本経済は衰退死する。

解雇規制緩和はEUの“落ちこぼれ”と嘲笑されたイタリアですらできたわけで、“小泉進次郎総理”の時代になれば人材と資本の流動化政策は当たり前になっているだろうが、いつかその時が来るのを見据えながら、南さんには“アゴラノミクス”実現へ頑張っていただきたいと思います。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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