「ノンストップ」にみる薬物報道の現在

田中 紀子

12/18のサンスポさんにこのような記事が掲載され、同日午前中に放送されたフジテレビ「ノンストップ」という番組について触れられていました。

LiLiCo、清水良太郎被告は「完全なクズ」 井戸田潤も不快感露わ

この記事の件を含め、昨日の「ノンストップ」さんによる薬物報道のあり方は、最近のメディアによる薬物問題の取り上げ方をよく反映していたと思われますので、私なりに検証したいと思います。

尚、「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」が作成した、「薬物報道ガイドライン」はこちらに御座いますので、あわせてご覧下さい。薬物報道ガイドライン

今回のノンストップの報道は、旧態依然としている部分と、「これは良かった!」と思える、優れた点の2つにくっきりと分かれました。

まず、旧態依然としていた点は言わずもがな、記事にあるような、Lilicoさんと井戸田さんのコメントです。
これはそもそも清水良太郎さんが、違法カジノに出入りしていたことを反省するインタビューが流されていて、そのVTRをゲストと司会者が見つめていた際に発せられたコメントなのです。もちろん清水さんは「娘に申し訳ない」などと殊勝なことを言って再起を誓っている訳です。

ところがこのインタビュー中にも実は覚せい剤を使っていた・・・
ということで、この二枚舌ぶりに、Lilicoさんが思わず「完全なクズ」とつぶやき、井戸田さんが「娘がどうのこうの言っていながら腹の中で笑っているんですよね、信じられないです。」とコメントされたんですね。

はい、こういうのを見ると、依存症の素人のコメントなど、百害あって一利なしなので、こういうコメントはいらないです。局側も配慮して欲しいです。

依存症者にとって「嘘」は病気の症状の一つです。
腹の中で笑ったりしていません。苦しんでいます。
世間や自分をあざむいてまでやめられないことに、自分自身が一番失望し、そんな自分を恥じています。
私たちなら「依存症が発症したんだな」と、その嘘も含めて「苦しかったね」と丸ごと受け入れます。

「信じられない」と一般の人はいいますが、私たちはそもそもその人の病気の声を信じたりしません。私たちなら「依存症者なら十分嘘のコメントはありうるよね」と思います。

例えばもし私が「もう私は一生ギャンブルはやらない自信があります」と声を大にしていったとしたら、一般の人は「回復したんだな」と思われるかもしれません。でも、仲間たちだったら「そんな慢心したことを言うなんて怪しい。再発しているかもしれないな」と真っ先に思うでしょう。そして実際その時はおそらく私は再発していると思います。

けれども、もしそうなった時に仲間達が「大丈夫?」と聞いたところで、本当のことなど言いませんから、あえて聞きだしたりもしないでしょう。「いずれわかることだ。その時必要なら手助けしよう。」と考えるはずです。ですから依存症者の嘘に整合性を求めるのは、ど素人のやることなのです。

このど素人の「責め」が、依存症者を貶め、助けを求めにくくしていることを、少なくともコメンテーターとして活躍しようとする方々なら学んで欲しいです。

一方で、今回のノンストップの放送では、非常に優れた点もありました。
実は今回、裁判の過程で清水さんの薬物使用頻度が、週に1~2回、月に7回位ということが明らかにされのです。それに対して、裁判官が「薬物に依存していたのでは?」と尋ねると、清水さんは最初は否定するものの、結局「依存していました」と認められるのです。

そして、清水さんのお兄様が情状証人で出てこられて、「再犯防止策をとる」と証言されたのです。
その再犯防止策がこちら。

①携帯電話の番号を変更する
②財布を妻に管理して貰う
③移動の際は必ず連絡する
④薬物の検査キットを持つ

というもので、これは私たちから見ると、どこにも支援を求めていないご家族が、素人考えであみだす、よくある再犯防止策にすぎず、おそらく全く効果がないであろうことがわかるんですね。
実際どう考えたって自立した大人が隠してやろうと思ったら、いくらでもこんな対策突破できます。

今回「ノンストップ」さんの番組編成で画期的だったのは、この素人再犯防止策に対し、
元埼玉県警の薬物事犯を扱っていた専門家に
これは十分な対策ではない
専門家の治療プログラムが必要なのでは
とのコメントを引き出し締めくくったことです。

これは薬物問題に対するメディアの姿勢も、少しずつではありますが変化してきたことを物語っています。
ホンの少し前まで「治療」などという概念は全くなく、「自覚」「反省」「子供の事を考えろ」「強い意思を持て」「甘えるな」という道徳概念で締めくくられていました。

元県警のしかも薬物事犯にたけた方を選び、最後にビシっと、効果的かつ啓発となるコメントを放送して下さったことには、心から感謝を捧げたいと思います。

以上のような状況で、今回の「ノンストップ」さんの報道、私としては、複雑な想いがありますが、どちらかと言えば締めがよかったので、若干感謝の気持ちの方が上回っております。

こうしてみると一番残念なのは、サンスポさんですね。
これLilicoさんのコメントを切りとらずに、ご本人の再犯防止策のところを切りとって、「清水良太郎の再犯防止策は不十分!」と記事にしてくれたら、どれほど社会のためになったことでしょう。

ネットニュースに注目が集まるこの時代、記者さんの本質を見抜く眼力もこれからはチェックして参りたいと思います。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2017年12月19日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。