建国70年迎えるイスラエルと「中東」

長谷川 良

イランの無人機の破片を示すイスラエルのネタニヤフ首相(2018年2月18日、独ミュンヘンの安全保障会議で、独連邦国防省公式サイトから)

独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)の最終日(18日)、イスラエルのネタニヤフ首相が演説し、イランを激しく批判した。それだけではない。イスラエル軍が今月10日、同国空域に侵入したイランの無人機を破壊したが、その破片を檀上で示し、会場にいるイランのザリフ外相に向かって、「これは君のものだよ。イスラエルを試みる馬鹿げたことはするなと暴君に伝えたまえ」と述べた。その後、壇上に立ったイランのザリフ外相は、「イスラエル空軍こそ連日、シリアを空爆している。シリア空域に侵入したイスラエル戦闘機が先日、撃墜された。イスラエル軍の無敵神話はこれで消滅したよ」とやり返した。

国際会議の場でイスラエル代表とイラン代表が激しくやり合うシーンは珍しいことではないが、両者の舌戦は通常レベルを越えていただけに、会場にいたドイツのウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相ら欧米諸国の政治家たちは驚いた表情をしていたほどだ。

イスラエルは、イランがシリアでロシアと連携してアサド政権を支援し、レバノンではヒスボラを軍事支援し、対イスラエル攻撃を後押し、イラクではアバーディー政権(シーア派)と連携していることに強い警戒心を持っている。

その一方、イスラエルはここに来て、これまで関係が薄かったサウジアラビアに接近中だ。スンニ派の盟主サウジはシーア派の大国イランの中東での影響力拡大に神経質となっていることもあって、イスラエルとの関係強化には問題がないと受け取られている。

一方、イランはシリア、イエメン、レバノン、イラクなどに軍事支援を行い、イスラエルの包囲網を作る一方、中東で戦略的拠点を構築し、政治的影響力の拡大を狙うロシアのプーチン大統領との連携を深めてきた。

中東和平の調停役を演じてきた米国はトランプ政権が発足して以来、イスラエル寄りを鮮明にしてきた。 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明したが、中東アラブ・イスラム諸国から強い反発の声が挙がっている。トランプ大統領はイランとの核合意協定の破棄を示唆し、イランの弾道ミサイル開発に強い危機感を感じ出している。

ちなみに、イランの核問題は2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に一応の終止符を打った。

ところで、イスラエルは今年5月14日、建国70年目を迎える。世界のディアスポラ(離散)だったユダヤ人が1948年、パレスチナでイスラエル国の独立宣言をした(イスラエルが失った国を再建する時、イエスが再臨する時期に入るという予言が聖書関係者で囁かれてきた)。

世界の情勢は混沌とし、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の世界3大唯一神教の発祥の地・中東は再び一触即発の状況となってきた。ネタニヤフ首相はミュンヘンのMSCで、「わが国は必要ならばイランを攻撃することに何も躊躇しない」と言明しているほどだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。