本当にあった「なんちゃって裁量労働制」

2018年02月25日 06:00

安倍総理が衆議院予算委員会で答弁を撤回したことから、にわかに注目があつまっている「裁量労働制」というキーワード。厚生労働省が答弁用に出したデータが不適切だったということであり、片山さつき議員は同省について「数字にこだわりない」と指摘する。

「厚労省に数字へのこだわりなし」(夕刊フジ)

一方、池田信夫氏は「温情主義」の同省は本音では規制緩和したくないのだろうと推察されている。

安倍政権の「働き方改革」はなぜ迷走するのか

真実がどこにあるのかわからないが、ともかく今、「裁量労働制」が沸騰ワードとなっていることは間違いない。

あまり一般的な働き方ではなく、一定条件のもとでしか認められていないこともあって、なんとなくマイナーな存在だと思っていたのだが、これをなんとか利用しようという経営者の目にも留まったよう。本当につい最近、驚くべき労働条件通知書と遭遇した。

一方的な賃金カット通告

関東圏域に6店舗を構える、あるレストランは、1店舗あたりシェフ1名に4~5名程度のスタッフを抱え、ランチからディナーまで通しで営業するスタイルで経営していた。

隠れ家的な雰囲気に加え、各店舗でシェフがオリジナルメニューを提供していることも受けて、6店舗それぞれに盛況であった。

しかし、前年の4月、Wシェフの店舗の近くに食べ放題のイタンリアンピザ&パスタの大型チェーン店が開店し、客足が鈍くなってしまった。Wシェフとしては、季節ごとにオリジナルメニューを企画&提供して、なんとか顧客離れを防ごうと格闘してきたものの、オーナーはこれを汲み取らず、売り上げ減を理由として賃金の25%カットを一方的に通告してきた。

本筋の話ではないが、賃金引下げなどの労働契約内容を変更する際には、「労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができる」という労働契約法にその根拠があり、経営者が一方的に賃金カットできないことになっているのだが、なかなか理解されていない経営者も多いのが実態だ。

労働条件通知書にあのワードが‼︎

オーナーの通告にシェフは強く反発したが、自身の年齢を考えてすぐに再就職できるか不安に感じ、結果、苦悶しつつも渋々同意した。しかし、再度、引下げされることを懸念して、今回の内容を書面で欲しいと要望した。顧みれば、これまで賃金額しか話し合いしておらず、休日の条件は勿論、もそもそも勤務時間さえ明確でなかった。

本来、労働契約を結ぶ際には、経営者側がその条件を書面で交付しなければならないことになっているが、なかなかこれも守られていないことが多々ある。なんだかんだと理由をつけて、書面交付をしてこなかったオーナーだったが、年の瀬になってようやくWシェフのもとに労働条件通知書が届いた。

契約期間の有無からはじまり、就業する場所、従事する業務内容に続き、勤務時間等を記載する欄の「裁量労働制」のところに〇印が付されていた。

厳格な条件と範囲が決められている裁量労働制

この「裁量労働制」とは、研究開発やソフトウェア開発、弁護士、税理士など専門分野で働く「専門業務型」と、企業の本社などにおいて企画、立案、調査などの部門で働く「企画業務型」の2種類がある。

労使協定の締結や労使委員会設置・決議など、厳格なルールが定められているがこれは至極当然のことであって、何でも「裁量で…」となれば、経営者側の時間管理が疎かになることは想像に難くない。

当然、今回のケースみたいなイタリアンレストランのシェフは該当しない。そもそも「この仕事を片付けたら1時間休もう」という具合に調整できる仕事ではないし、同店は通し営業でシェフは1人しかいないので、来客があれば常に対応しなくてはならない状況にあった。

つまり実態として10時〜21時の営業時間は勿論、仕込みと後片付けを含めれば、毎日13時間程度は拘束されており、そのほとんどが労働時間とカウントできるような状況にあったのである。休日も店休日である水曜日の1日のみであり、仮に毎日5時間の残業だったとすれば、月に100時間を超える過労死レベルの勤務だった。

これに抗弁するために、労働条件通知書に「裁量労働制。休憩180分」などと記載して労働基準法は順守してますよと取り繕ったのだろうと推認される。が、実に幼稚であり、言葉が悪いがまさに“素人の生兵法”だ。しかもご丁寧に労使協定まで添付されていた。勿論、労基署はこんなモノは受け取らないので、届け出はされていない。これは有印私文書偽造の犯罪となる可能性が高い悪質なものだ。

「裁量労働制」についての説明を求めて来社されたWシェフは、私の説明を聞き驚いていたが、先の賃金引下げに納得できないこともあって、店を辞める決意を固めた。まぁ、こんな手の込んだ偽装工作をするような会社に不信感を持つのは当然であろう。休みも少なく、過労死レベルで労働させられており、もっと早めに相談に来られていたら、私も即刻、辞職を勧めていたと思う。

しかし、1日の仕込みから閉店までを1人で仕切る働き方自体にシェフが納得していない訳ではなかった。1日の途中で誰かと交代することがあれば、それはそれで嫌なのだそうだ。このあたりは職人さんとしての矜持も考慮すれば、労基法が馴染まない職種もあると考えさせられるところだ。

首相官邸サイトより

安倍政権が目指す働き方改革

安倍総理は今年の施政方針演説で「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」を断行すると宣言し、同一労働同一賃金の実現、非正規社員の一掃、長時間労働の打破を宣言して、働き方改革について並々ならぬ意欲を示した。

第百九十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(首相官邸ホームページ)

今回は結果として労働時間を守るため(見せかけるため?)のレアなケースだと思うが、しかし、機械に置き換えられる仕事はさておき、対人業務などには、労働者の自由な裁量に任せる働き方というのは馴染まないし、拘束が長くなることはあり得る。長時間労働が健康上の問題になり得るのは理解できるが、全業種を一律の労働時間で規制することには疑問も感じる。

店舗などの営業時間にあわせ、例えば1日13時間拘束されることがあっても、その代わり休日を1週間に3日間取得させる…など、業種によってフレキシブルに労働時間が設定できることも働き方改革の一つでは無いだろうか?

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源田 裕久
社会保険労務士/産業心理カウンセラー アゴラ出版道場3期生

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