心臓移植体験者の告白「命をつなぐ責任」

2018年02月27日 06:00

宮城篤さん(左)と筆者(右)

日本では数少ない心臓移植の現状

心臓移植は、近年増加傾向にはあるものの、わが国では、まだあまり一般的な治療法とは言えません。2017年のわが国の心臓移植件数は56件(臓器移植ネットワーク)で、2010年に臓器移植法が改正されてから若干増えてはいますが、ここ数年でも依然として年間30-56件程度(臓器移植ネットワーク)とどまっています(日本心臓移植研究会)。

一方、アメリカでは、2012年の時点で心臓移植が2300例以上行われています(日本移植学会)。

日本で多く行われている移植手術は、生体腎移植で、次いで、肝硬変などで回復不可能になった肝臓を、健常者の肝臓を一部移植する生体肝移植となっています(日本移植学会)。生きたドナーからの提供が主であり、脳死や心臓死のドナーから提供される割合が少ないことが特徴です。

これまで画像診断を様々な施設で行い、小児の心臓手術後の画像などはそれなりに診てきたわたしでも、心臓移植後の患者の画像を見たことは数えるほどしかありません。日本では、心臓移植が可能な施設はごく限られています。医師であっても、移植という現実に向き合った患者さんたちが何を考え、どう感じ、いかなる困難の中で日々を過ごすのか、理解している人は非常に少ないのが現実です。

今回、移植当事者の方にお会いし、お話を伺い、はじめて、当事者の気持ちを身近なこととしてリアルに想像することができました。拘束型心筋症という稀な疾患で、アメリカで心臓移植をされた宮城篤さん(42歳)です。現在の楽しみはウォーキングをしたり、エスカレータを使わずに駅の階段を上ったりすることだそうで、こういったことも心臓移植のおかげでできるようになったとのことです。

移植の当事者が直面する葛藤とは

渡米して心臓移植を受ける直前は、心機能が悪く車椅子の生活でした。また、心機能の急激な悪化により車椅子の入院生活を余儀なくされる前は、車椅子は使用せずに日常生活を送られていたようですが、「見えない障がい」であるため、周囲からは健常者に見えてしまい、理解されずに苦しい思いをすることもありました。

藤沢市生まれの宮城さんは、幼少時より心疾患を指摘され、日常生活に関しては、思うように運動が出来ないなど、たびたび悔しい思いをしてきました。学生生活を終え、就職して社会人生活を送っていたある日、不整脈で緊急入院することになります。その後、社会復帰を目指していましたが、医師から、移植をしなければ心機能の回復が今後難しいことを知らされ、愕然となったそうです。

心臓移植を受けた人には、提供していただいた心臓を生涯大切にすること、決められた検査や治療をしっかりと受け、充実した人生を送る責任があるのです」と、宮城さんは語ります。移植には、特に渡航する場合には経済的負担が大きく、また、渡航・国内問わず家族の協力や理解も不可欠で、ざまざまな困難が伴いますが、それに加えて、当事者にしか実感できない特有の葛藤を抱えます。

心臓移植というのは、肝臓などの生体移植とは異なり、脳死臓器提供による移植であり、誰かが亡くなることで、臓器提供を受けることになります。宮城さんは渡米し、入院して移植を待つ間、複雑な気持ちになったと言います。「自分が移植を受けられるようになるということは、誰かの死を待つことではないのか?」という考えが脳裡をよぎったのです。決して提供者となる人の死を待っているわけではないのに、結果的にそのような帰結になることが、臓器移植を待つ人々に、命をつなぐ重みとしてのしかかります。

渡米しての手術へ。日本では考えられない社会の理解

また、移植を決断する前には、「自分などが移植を受けるに値するのだろうか。生きるに値するのだろうか」という罪悪感にも似た考えに苦しんだと言います。天寿をまっとうすることも運命であり、周囲に迷惑をかけることを心苦しく思う気持ちもあったとのことでした。また、心臓移植を行うために日本から渡米する患者は子どもであることが多く(小児の心臓移植はドナーの問題もあり特に待機期間が長い)、年齢的に若くはない自分がこのようなことにふみきっていいのかというためらいもあったといいます。

このような葛藤を抱えつつも、2016年10月、アメリカの病院にて無事心臓移植を受けるに至ります。渡航前の病院でも、家族を含めての度重なる面談で、術前術後のケアの問題をはじめとして、覚悟や家族全員の意思確認が入念に行われました。飛渡米の前には、一番の理解者であり、支えになってくれた妻と結婚をし、夫婦ともに大きな覚悟をしての渡米でした。移植後は、免疫抑制剤の服用を続けなければならないなどの制約を受けつつも、移植前には考えられなかった、通常の生活を送ることができるようになりました。

「アメリカでは、心臓移植というのは日本で考えられているよりもポピュラーな治療です。タクシーに乗ったときに心臓移植を受けた話をしたら、タクシーの運転手が、自分の知り合いもこの前受けたよ、と、話をしていて驚いたことがあります。アメリカでは、心臓移植は普通の人にとっても身近な治療になっています」

宮城さんはそう語り、日本でも、社会的な理解が進むように活動していきたい、と、付け加えました。

臓器移植で考える「命をつなぐ」こと

「臓器移植を受けると、性格が変わるんですか? と、きかれることがあります」と、宮城さん。
「私の場合は、変わりませんでしたし、移植を受けた知人にきいても、特に性格が変わったという事は聞いておりません」これまで、いくつかのノンフィクションや臓器移植当事者の本で、移植された臓器の影響を受けて性格が変わった、という体験談が語られてはいますが、宮城さんに関しては、あてはまることはなかったようです。また、筆者も、文献を探してみましたが、明らかなエビデンスはないようでした。

日本では、まだまだ少ない心臓移植。病院などの受け入れ体制の問題や、過去の臓器移植に対するいくつかの訴訟、日本人の死生観に基づく心理的障壁などが大きなハードルになっている可能性があります。また、日常生活の中で、そもそも移植について考える機会が全くない、学校でも教えられたりすることもなく、「自分には関係ない、遠いもの」と考えている人も多いでしょう。

ただ、移植が普及することで、救える命は多くあることもまた事実であり、例えばあなたの大切な人が万が一亡くなっても、その臓器が誰かの中で生き続ける、誰かを生かし続ける、また、その臓器が移植されたレシピエント(患者)によって生かされ続けてゆく、文字通り「命をつなぐ」ことは、あながち悪い想像ではなく、本稿を通じて、その重みを少しでも実感していただければ幸いです。

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松村 むつみ
放射線診断医、医療ジャーナリスト

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