ネットメディアに“新聞協会”も“BPO”も要らない

2018年02月28日 16:00

まだ池田信夫とも細かい話をしたわけではないので、アゴラとして正式な見解を決めたわけではないことを前置きした上で私見を書くが、毎日新聞や大手の有名ネットメディアなどが中心となって「インターネットメディア協会」(JIMA)なるものを作ろうとする動きには、あまりにも「拙速」にしか思えない。

記者会見では資料が配られたそうだが、今後の方向性として、情報発信の参考となるガイドラインを作っていくことなどを示したようだ。しかし、記者会見に取材に行った人の感想も聞いても、上記ITmediaやヤフー個人で速報を書いていた藤代裕之氏などの記事を読んでも、総じて「ぼんやり」としている。そもそも論のプロジェクトの進め方として、この手の打ち上げ花火をやるなら、ガイドラインのたたき台くらいはあってもよかったのではないか。

発起人には毎日新聞の小川一取締役、スマートニュースの藤村厚夫社長から東洋経済オンライン、ハフポスト、バズフィードジャパンの各編集長など、記者会見に“業界の顔”が軒並みそろっているけれども、一部で指摘されているように、「ではなんでヤフーニュースが入ってないんだろう?」とか「朝日新聞や読売新聞はなんでいないんだろうか?」などといった疑問が、ほかの有力プレイヤーの関係者からも漏れ聞こえてきている。

この準備会の一報を聞いて、その後、業界関係者らと意見交換をするなかで感じた懸念が2つある。当事者からすれば「そこまで穿った見方をしなくても」と怪訝に思われるかもしれないが、1つにはビジネス的な思惑として、最初にレギュレーションを作って業界スタンダードを確保してしまおうというものがあるのかどうか。

ヤフーニュースには事前に打診して断られたのかもしれないが、日本最強のニュースプラットフォームが参加してないとなると、レギュレーション施行後の実効性に疑問がつくだけでなく、スマホニュース市場でヤフーから王座奪取を狙おうとするスマートニュースの囲い込み、あるいは毎日新聞が、新聞業界でのデジタルレギュレーションの主導権を、朝日、読売に先んじて握るというようなものがあるようにしかみえない。そういう見方をされたくなければ、それぞれもう1人ずつ発起人に入ってもよかったのではないかと思うわけで、拙速感が否めない。

「二重国籍」問題がフェイクニュース扱いされるリスク

2つ目は、フェイクニュース規制が「結果として言論統制」になるリスクだ。

発起人の一人、バズフィードの古田大輔編集長は「ネット上の警察になるのではない」と強調しているが、東洋経済オンラインの山田俊浩編集長は「公開停止のガイドラインもあり得る」と言及している。JIMA発足後、加盟する媒体が不始末をやらかしたときに、強制力を伴ったペナルティを課すところまであるのかどうかは、まだわからないが、強制力を伴わなくても、学校のクラスの中の風紀委員のように、ほかの加盟各社から「この媒体はガイドラインに違反しており、フェイクニュース媒体だ」と袋叩きにされるのは早晩目に見えている。

会見で挙げられていたDeNAの「WELQ(ウェルク)」のような先例であれば、フルボッコにされても当然だが、問題は、政治などで激しく対立するようなトピックが出た時、一方が「これフェイクニュースだろ」と決めつけ、JIMAのルールを振りかざしたり、あるいは記事の停止、サイトの公開停止の勧告といった介入につながったりしないのだろうか。

たとえば2年前に勃発した蓮舫氏の二重国籍問題は、厳しく追及したのはアゴラと産経新聞くらいで、今回の発起人に名を連ねている媒体のなかには、アゴラや産経の報道を批判したり、蓮舫氏を擁護的に取り上げたりしていた。マスコミの大半は、当初は報道すらしなかった。

しかしその後、蓮舫氏が二重国籍を認め、どちらが正しかったのかは言うまでもない。当時、フェイクニュースという言葉がもし社会的に定着していたら、おそらく蓮舫氏が認めるまでの間は、アゴラや産経の追及記事は、フェイクニュース呼ばわりされていたのは想像するに難くない。

この懸念は逆パターンもある。森友・加計学園問題は、リベラル系メディアや論客がいまなお追及しているが、保守系の論客のなかには「“モリカケ”はフェイクニュースだ」と断じる人もいる。

無策もダメだが、多様性を担保できるの?

政治的なイシューには、何がファクトなのか見抜くのが容易ではない激しい論争を伴うものはどうしても出てくる。二重国籍問題や“モリカケ”ほどメディアの左右の対立はなくても、過去には郵政民営化やTPPの是非を巡って真逆の言説がぶつかりあったこともあった。お互いに「これ、フェイクニュースだろ」と決めつけあいになって、収拾が付かず、不毛な論争に陥る懸念は大きいのではないか。

もちろん、アメリカ大統領選へのロシアの介入にみられるように、フェイクニュースが国家国民の重要な意思決定に影響を及ぼすリスクはある。政治以外にも、健康や医療情報など人の生き死にに関わる身近な脅威もある。業界としてフェイクニュースに無策でいると、公権力からなんらかの介入が将来的になされる懸念も理解できる。

実は、今週のアゴラジオの終盤でもこの問題を取り上げた。そうした介入への先手の必要から、宇佐美典也氏は、元官僚らしく一定の理解を示した。ただ、現時点での発起人の顔ぶれに“偏向”の懸念があることは筆者と同意した。

新聞業界でいうところの日本新聞協会、放送業界でいうところのBPOのようなポジションを取りにいくつもりであれば、幅広いプレイヤーが参加してもいいと思うだけの多様性を担保しなければならない。そもそもアゴラのような零細サイトに参加の要請があるのかすらも分からないが(苦笑)仮にほかの中小サイトを糾合していくのであれば、少なくてもいまの時点で筆者個人としては拙速な動きでしか見えないし、警戒の二文字が脳裏に浮かぶだけだ。

筆者のツイッターのフォロワーからも「ネットで情報発信するのも許認可制になっていくとか?」「気持ちが悪い」といった懸念の声が相次いでいる。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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