裁量労働制の本質とは何か?社労士から見ても疑問な朝日報道

2018年03月07日 17:00

厚生労働省による調査データの不備が発覚し、働き方改革関連法案から分離されたことで鎮静化するかに思われた「裁量労働制」だが、朝日新聞が野村不動産の違法適用で社員が過労死したケースを報じて以降、また改めてクローズアップされている。

池田信夫氏は、同社について偽善と切り捨てる一方、労働市場を活性化して雇用を流動化する政策こそ政府に求めるべきだと提言されておられる。

裁量労働の朝日新聞が裁量労働制を批判する偽善

正社員というカテゴリーを変えるべきなのか、解雇規制を撤廃するほうが良いのか議論はあろうが、硬直化した労働環境の変革こそ、今まさに求められていることだ。

また、同社の報道姿勢について、アゴラの新田編集長が「安倍政権を叩きたいだけではないか?」と推察されておられるが、これも同感である。両者とも指摘されておられるが、交わらない軸の違う話を織り込んで報じる姿勢には、違和感というよりも打倒安倍政権という執念すら感じられ、得も言われぬ恐怖すら感じてしまうのは私だけではないだろう。

安倍叩きありき?朝日新聞の裁量労働「違法適用」報道

さて、脚光を浴びている「裁量労働制」だが、これは「みなし労働時間制」という大きなグループに属する一形態である。この「みなし労働時間制」とは、労働時間の算定が困難な業務、また業務の遂行方法を労働者自身の裁量に委ねる必要のある業務について、事前に取り決めした労働時間分を働いたものと“みなす”という制度であり、様々な条件が付されている特殊な働き方だ。

分類すれば、主に会社の外で働く人向けの「事業場外労働制」と、自らの裁量で働く人向けの「裁量労働制」に大別される。このうち裁量労働制は、更に限定列挙された専門業種(新聞や出版、研究開発、弁護士など)である専門型と企業内において企画や立案などを手掛ける企画業務型に細分化されている。

このうち事業場外労働は、営業マンなどを想定して設定されたが、ボケベルを持たされて以降、IT技術が発達した現代では、「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定し難い状態にある」と判断されることは皆無であろう。今ではほとんど形骸化しており、過去の遺物となりつつあると思われる。

長時間労働対策にはならない「裁量労働制」

しかし、裁量労働制は事情が違う。専門分野で保有する能力を発揮することは勿論、企業内で企画・立案する部門においては、時間=成果という概念が通じにくい部分は確かにあり得ることであり、本人の同意や労使委員会での決議、労基署への届出など、厳格な条件が付されてもなお、導入する企業はある。

ただし、これはあくまで「労働時間」を自ら管理するということであり、所定労働日に関する事前に取り決めた労働時間分を“働いたとみなす”だけなのだ。休日や深夜労働についてまで規律されるものではない。そしてこれは長時間労働の是正に資する制度ではない。

その意味で、新田編集長が指摘された朝日新聞報道の一文にもあったが、「今の制度でも過労死を招く乱用を防げていない実態が露呈した」という指摘はまったくもって的外れであり、どういう意図を持ってこういう報道がなされるのか、非常に疑問が残る。

そもそも裁量労働制の労働時間は正確に測れるのか?

確かに長く時間を掛けても成果が得られない場合もあろう。しかし、アイディアと創意工夫で短時間のうちに完遂できる場合もまたあるはずだ。その時、気分転換にと喫茶店に立ち寄り、アレコレと構想を練った時間は労働時間としてカウントするのか否か?元内閣参事官の高橋洋一氏は、ご自身の働き方を振り返って、「本人も分からないのではないか?」と疑問を呈されている。

裁量労働の労働時間は計れるか、本人も「分からない」のが実情(ZAKZAK)

私自身は、13年前に労働者側から経営者側にカテゴリーが移って以降、公私の区別は曖昧になり、仕事に従事する時間は格段に増加した。収入的には微増した実感はあるものの、休日という概念は完全に消え失せた。勿論、自分自身で選択した働き方であり、当然のことながら後悔などはしていないし、とても納得して働いている。(いや、働かせてもらっているというほうが正確かも知れない)

多様な働き方というのは、究極的には、労働時間や休憩・休日の取り方も含め、労働者自身が納得できるワークとライフがバランスした状態になることではないかと考えている。もし、目指すべき成果が短時間で得られたなら、規則だからと定時まで会社に拘束されず、さっさと帰宅してリフレッシュする時間を持つという選択肢があっても良いはずだ。

繰り返すが「裁量労働制」とは働き方の一形態であり、労働者にとってのワーク・ライフ・バランスを実現するための選択肢の一つになりえる手段である。それ以上でもそれ以下でもない。そういった働き方に魅力を感じないのであれば、選択しなければ良いだけだ。

厚生労働省の出したデータが単純にお粗末だったのか、はたまた深謀遠慮のことだったのか分からないが、殊更に労働時間の長さのデータに執着することにはまったく意味が感じられない。不毛な国会論議と報道が繰り返されることは、つくづく残念だ。

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源田 裕久
社会保険労務士/産業心理カウンセラー アゴラ出版道場3期生

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