カジノ法案から見える日本の劣化 --- 半場 憲二

2018年03月21日 06:00

昨年、二つの調査結果が発表された。パチンコやパチスロの依存が疑われる者は約40万人(公益財団法人・日工組社会安全研究財団調査、8月)、ギャンブル依存症の疑われる者が70万人(厚生労働省調査、9月)という驚きの数字であった。

私にとって、もう一つの驚きは、超党派「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」の数だ。2016年10月現在、衆参238名もの国会議員が名を連ね、その関心の高さが伺える。大阪府をはじめ推進自治体も押せ押せムード、同年12月15日「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」いわゆる「カジノ法案」は衆議院にて可決成立した。

担当職員からすれば「面倒な仕事を引き受けた」というのが本音ではないだろうか。というのは、先の公益財団法人の理事や評議員は元刑事局長、元警察局長、元警察大学校長、元内閣法制局長官等で構成されており、設立趣意書には「市民生活の安全と平穏を確保する上で(中略)安全問題に関する専門的、科学的な調査研究を積極的に推進し、関係機関・団体等に問題提起を行うとともに広く国民に普及を図る」とある。

国会議員の知見ではなく頭数に押され、政府が忖度しながらカジノを推進・実施せざるをえないなか、行政庁の認可を必要とする公益財団法人が、あえて負の側面を連想させる調査結果を公表したのだから。この一件を軽々しく見るべきではないと思う。悲しい哉、与党議員の中にも慎重論があるにはあるが、この空気を変える勢力になりえない。

言葉というのは人間の世界を忠実に表していて面白い。カジノ(casino)はイタリア語の賭博場、音楽やダンスを楽しむ娯楽場、もとは「小さな家、別荘」という意味で、金銭的な余裕のある者が日常から離れるための世界だ。gamblerの逆成から見れば賭博師が活躍する場であり、game(遊戯、楽しみ) +le(反復の意の動詞を作る)から成る造語から見れば「遊び+続ける」「楽しみ+続ける」となり、よほど自制心のある人間でなければ立ち入れそうにない。

収益金を社会貢献や公共事業に使うという考えもあるが、カジノ施設関係者が収益を第一に考えるなら顧客はカネを失うということだ。仮に大金を失っても余裕資金の一部で会社経営や家計に影響するものではない。そんな富裕層が日本国内にどれだけいるのだろうか。老子は「人に与えて、己いよいよ多し」と言ったが、カジノと社会貢献は別世界である。

首相官邸ホームページを見てみたい。関係大臣出席の「特定複合観光施設区域整備推進本部」の会議は平成29年に2回だったのに対し、「特定複合観光施設区域整備推進会議」は同内に10回も開催された。委員名簿には医師や精神保健福祉士等の専門家はいない(2017年4月6日配布資料1)。

参照リンク:特定複合観光施設区域整備推進本部

ギャンブル依存症対策推進関係閣僚会議の構成員は主要閣僚で、「会議には、必要に応じ、関係者の出席を求めることができる」(同資料5)とあるだけ。また依存症対策強化の論点整理を見ても課題は多岐にわたる(同資料6)。政策は机上の空論であってはならないし、政府の威信に関わるギャンブル依存症対策となるはずだから各省庁横断的な調整をみても半年や1年で出来る話ではない。

しかし、図の最下部には赤字で「(注)今後、具体的な対策やその実施方法について更に見当の上、本年夏を目処に取りまとめることとする」とある。主要閣僚が森友学園問題の対応に追われるなか、事務局への丸投げが続きそうである。

上記図の左下「公租公課等」「入場料」欄に「外国人旅行客以外の旅行客から入場料を徴収し、幅広く公益に活用」と本音で書かれているが、ターゲットは日本人である。それはさることながら入場料や納付金が「ギャンブル依存症対策に活用される」と決まったわけでないし、言えるわけがないのだ。

図の中上に「諸外国と比較して遜色ない世界最高水準のカジノ規制」とある。なんだか息苦しい日本型カジノから飛び出した各国の老若男女が酒を飲み、なけなしの金で春をひさぐ。コミュニケーション不足から暴力や窃盗などの違法行為に手を染める。こうしたカジノの周辺施設や周辺地域で起こる事件や事故の対策だが、カジノ施設関係者からすれば「施設外のことは自己責任」と言うのは目に見える。かかる治安維持対策費はどこの誰が支弁するか?税収増が聞いて呆れる。

昨年12月15日、パブリックコメントの結果が公表された。86ページに及ぶ354の意見分類に対する事務局の回答を読んでいくと、担当職員の涙ぐましい努力がわかる。カジノ議連の中でこれらの意見や問題点を共有し、解決策を見出した議員はどれくらいいるのだろう。

公営ギャンブル(中央競馬、地方競馬、競輪、競艇、オートレース)で足るを知らず、国民病とも言われて久しい「ギャンブル依存症」の対策はままならぬ。治安対策は考慮にさえ入らないまま、カジノ誘致は勢いを増す。こんな浮ついた風潮を推進・実施する「カジノ法案」とは何なのか?日本の劣化が進んでいる。

(参考)

公益財団法人 日工組社会安全研究財団 設立目的・趣意書

特定複合観光施設区域整備推進本部事務局パブリックコメント結果回答(2017年12月15日)

半場 憲二(はんばけんじ)
中国武漢市 武昌理工学院 教師

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