佐川氏、首相・首相夫人の影響を否定する証言の矛盾

2018年03月30日 19:00

参議院インターネット中継より:編集部

3月27日、森友学園に対する国有地売却の決裁文書改ざん問題に関して、当時の理財局長の佐川宣寿氏の証人喚問が、衆参両院で行われた。

佐川氏は、決裁文書の改ざんについての質問だけでなく、国会答弁の際に改ざん前の決裁文書を見たかどうかの質問についても、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由に証言を拒絶した。その一方で、財務省・安倍首相・首相夫人・首相官邸等の関与については、「国会からの資料要求に対しては、理財局の国有財産部局における個別案件なので理財局の中だけ対応をした。財務省の官房部局、総理官邸は関わっていない。国有地の貸付・売却について、安倍首相、首相夫人からも官邸からも指示はないし、影響も受けていない。」という趣旨の証言をした。

佐川氏の証言内容、証言拒否した事項は、次のように整理できる。

①決裁文書の改ざんへの関与については証言拒否

②改ざん前の決裁文書を見たか否か、その時期についても証言拒否

③財務省、財務大臣、首相官邸等の「改ざん」に関する指示については、「個別案件についての資料要求への対応などの国会対応は理財局内部で行うのが通例」という「一般論」で答える。

④自分自身への「指示」があったかどうかについては否定

⑤国有地の貸付・売却に関する政治家などからの「不当な働き掛け」の有無については「国会答弁中勉強して経緯を見た範囲」で否定

⑥国有地の貸付・売却に対する総理及び総理夫人の「影響」については、「勉強してずっと一連の書類を読んで、国会で相談した範囲」で否定

⑦「国会答弁が虚偽であったこと」は認めず、「財務省の文書管理規則」に基づいて答弁したことが「丁寧さを欠いた」として、謝罪するにとどめる

⑧答弁が「誤解を与えるものだったこと」について、その理由は、理財局が国会対応で多忙を極め、混乱し、余裕がなかったために「気付かなかった」で通す

⑨国有地の売却価格が適正だったか否かについては、「不動産鑑定に基づいて価格を決めているので適正と考えていた」で通す。

佐川氏は、与党議員の質問に対しても、野党議員の質問に対しても、終始、徹底して、①~⑨の方針での証言を貫いた。

このうち、①は、刑事訴追の対象となる可能性のある事実そのものであり、②も、それを認めれば、決裁文書改ざんへの関与を否定できなくなる可能性が高い。⑦の国会での虚偽答弁の否定は、それを認めれば、改ざんの動機を認めることにつながる。⑧、⑨も、虚偽答弁を否定するための証言と言える。これらは、刑事責任追及につながる事項についての証言拒否と言える。

一方、③、④、⑤、⑥は、いずれも、理財局以外の財務省、財務大臣、首相・首相夫人、首相官邸などの関与を否定する証言である。①、②で改ざんそのものに対する証言を拒否しているのであるから、普通に考えれば、それと矛盾しかねない証言になるが、それを敢えて積極的に行おうとしていることがわかる。

そのことが端的に表れているのが、⑥の証言をした最初の局面だ。

午前の参議院での最初の質問者の自民党丸川珠代議員が、

「安倍総理あるいは総理夫人から森友学園との国有地の貸し付け、売り払いについて何らかの指示がありましたか。」

と質問した。前任者の時代に指示があったか否か、佐川氏自身は直接知らないのだから、その旨答えるだけでよかったはずだ。ところが、佐川氏は、「当時、理財局にはおりません」と答えた後に、

「昨年の国会答弁を通じ」、「公的取得要望から始まって貸付契約で売り払い契約の経緯について勉強し」「局内でもいろいろ聞いて」「その過去のものを見て」、「その中では一切、総理や総理の夫人の影響というのがあったということは、まったく考えておりません」

と、「影響の有無」について、敢えて付け加えている。

その後、丸川議員は、「官邸関係者から指示の有無」「明確な指示ではなくても従わざるをえない何らかの圧力」に関して質問し、佐川氏は、「勉強した範囲」では「一切なかった」と答え、最後に、丸川議員が、

「森友学園への国有地の貸し付けならびに売り払いの取り引きに、総理そして総理夫人が関わったことはないと断言できるか」

と質問したのに対して、

「昨年勉強してずっと一連の書類を読んで、国会で相談させていただいた中で言えば」

とした上で、

「総理も総理夫人の影響もございませんでした」

と明確に影響を否定する証言をしている。

佐川氏は、丸川議員の質問の範囲を超えて、「首相・首相夫人の影響の有無」を先回りして証言し、その後に、実際に、丸川議員は、「影響の有無」について質問し、佐川氏が、同じ趣旨の答えを繰り返している。

佐川氏が、丸川議員から、「総理・総理夫人の影響の有無」について質問されることを想定し、あるいは質問事項が事前に提供されるなどして、証言内容を準備していたことは明らかだ。⑥の「総理・総理夫人の影響」を否定する証言について、佐川氏の強い意志が窺われる。

しかし、この⑥の証言で、「総理・総理夫人の影響」を否定する根拠について「昨年勉強してずっと一連の書類を読んで」と言っている点は、②の証言拒否と整合性がとれず、無理がある。

現時点で、土地の貸付や売却への「総理・総理夫人の影響」を疑う最大の根拠は、改ざん前の決裁文書に、安倍首相や昭恵夫人についての記載があり、それが削除されていることだ。佐川氏にとっては前任者時代のことで、直接経験していないのであるから、影響の有無を判断するためには、改ざん前の決裁文書から削除された記載について、それがどのようなことを意味するのかを「読んで勉強する」することは、最低限必要なはずだ。ところが、②の証言で、この改ざん前の決裁文書については、読んだか否かについても証言を拒否しているのである。結局、「総理・総理夫人の影響」を否定する⑥の証言は、実質的にほとんど根拠がないと言わざるを得ない。

質問者の丸川議員や、自民党二階俊博幹事長などが言うように、「今回の佐川氏の証人喚問で、総理はじめ政治家の関わりがなかったことが明らかになった」とすれば、「総理・総理夫人の影響」を否定する⑥の証言に何らかの根拠があるということだが、だとすると、改ざん前の決裁文書を含む「一連の文書」を「勉強」した結果、「総理・総理夫人の影響」がなかったと判断したということにならざるを得ない。そうなると一方で、②の改ざん前の決裁文書を見たかどうかについての証言拒絶をすることは許されないはずだ。

このように、佐川氏は、自己の刑事責任に関わる質問を広範囲に証言拒否する一方、理財局以外の財務省、財務大臣、首相・首相夫人、首相官邸などの関与を否定する証言は、本来なら証言できないようなことまで積極的に行うというものだった。

証人喚問の前日に出したブログ記事【佐川氏は、証言拒否で身を守れるのか】では、

佐川氏が、ほとんどの質問に対して証言を拒否すれば、世の中の批判が佐川氏に集中することになるのは必至だ。「刑事訴追のおそれ」を理由として証言を拒絶することで、その「刑事訴追」が現実化することを求める社会的なプレッシャーが高まることになる。それを受けて、検察当局が、常識的には無理筋とも思える、決裁文書に関する文書犯罪で強制捜査に着手し、場合によっては佐川氏を任意聴取した上逮捕することも考えられないではない。

と述べたが、実際の証人喚問で佐川氏がとった姿勢は、それ以上のものだった。「刑事訴追のおそれ」を理由に、決裁文書の改ざんに関連する質問に対して証言を拒絶する一方、安倍首相・昭恵夫人の関わりなどを、根拠もなく無理に否定することで、政権側に媚を売る姿勢が、佐川氏に対する批判をさらに高めることになる。検察が、佐川氏を含め、決裁文書改ざん問題を丸ごと刑事事件化していく方向での追い風になることは否定できない。

決裁文書改ざんに関して、もし、検察が、組織として、虚偽公文書作成罪などの犯罪が成立すると判断し、マスコミや世論を味方につけて、本格的捜査に着手すれば、裁判所が、それを否定する方向で判断を行うことは困難だ。

決裁文書改ざん問題について、証人喚問において国民の前で真相を語ることと、取調べという密室で検察官に供述するという二つの選択肢の中で、後者を選び、検察の判断に委ねる姿勢をとったことは、佐川氏個人にとって禍根を残すことになりかねない。それは、日本の社会にとっても、決して良い結果にはつながらないように思う。

佐川氏には、証人喚問で、国民に対して真実を語ってもらいたかったが、それが果たされなかった現状においては、決裁文書改ざんの「直接の被害者」である国会が主導して、公正に、かつ効率的に真相解明を行っていくことが何より重要である。

決裁文書改ざん問題表面化直後から主張しているように(【森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき】)、財務省で行われている調査とは別に、国会が、独立かつ中立的な調査委員会を設置し、徹底調査を行っていくべきである。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2018年3月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。

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