ネットワーク時代に対応した著作権法改正が実現へ

中村 伊知哉

デジタル教科書を正規の教科書とする学校教育法等改正案と並び、著作権法改正法案も閣議決定がなされ、国会提出の運びとなりました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401718_001.pdf

著作権法改正案、注目は2点です。

1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
(第30条の4、第47条の4、第47条の5等関係)
ビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用を許諾なく行えるようにする。所在検索サービスや情報解析サービスなど現在許諾が必要な可能性がある行為の一部が無許諾で利用可能となる。

2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
(第35条等関係)
授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等を許諾なく行えるようにする。ワンストップの補償金支払のみを要する。

これらはぼくが座長を務める知財本部で方向性をつけたことが文化審議会で詳細議論され制度化に至ったものです。権利者、利用者、学界、政界が何年も議論を重ね、調整を重ね、ようやく閣議決定・国会提出です。文化庁はじめ関係のみなさまどうもおつかれさまです。

知財計画2017では「著作権法における柔軟性のある権利制限規定について、速やかな法案提出に向けて必要な措置を講ずる。」と明記。
教育情報化も「授業の過程における著作物等の公衆送信の円滑化について、新たに補償金請求権付の権利制限規定を整備するなど必要な措置を講ずる。」としていました。

なお、デジタル教科書に関しても知財計画は「公表された著作物の掲載が必要な限度で認められるよう必要な措置を講ずる。」としていましたが、こちらは学校教育法等改正案の中で手当されることとなり、前回ご報告のとおりこれも同時に閣議決定・国会提出となりました。

今回の改正は議論開始から国会提出まで何年もの時間を要しました。
最大の難関は権利者・利用者の調整でも学界の対立でもなく、政府内、内閣法制局でした。
その壁が崩せず、文化庁のかたがたは随分苦労されました。
ステイクホルダーが妥結したものを通さない法制局というメカニズムに疑問が残りました。

さて、無事これが国会で成立するとして(与野党のみなさまよろしくお願いします)、大事なのは知財計画が求める「ガイドライン」です。
「イノベーション促進に向けた権利制限規定等の検討:ガイドラインの策定などの必要な措置を講ずる。」

著作権法は大まかなことだけ法律で定め、解釈・運用は権利者・利用者に委ねられ、もめたら裁判という仕組みで、官庁が介入してくる度合いが低いので、判断が難しいグレーゾーンが広い。
特に今回の改正は、将来の事案にも柔軟に対応できるようある程度抽象的に定めることとしています。

なので、通説の解釈をガイドラインとして示しておくのが望ましい。
これを権利者・利用者、学界、行政・司法の関係者が集って定めておくのがよいと考えます。

関係者のみなさまよろしくお願いします。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。