刑事免責は司法取引とどう違うか:証人喚問への刑事免責導入で期待できること

2018年04月05日 17:30

参議院インターネット中継より:編集部

財務省の決裁文書改ざん問題に関して行われた佐川宣寿氏の国会証人喚問について、先週末、BS局やネットテレビの番組に出演して、国会証人喚問への「刑事免責」の導入の必要性について発言し、月曜日には、【「刑事免責」導入で文書改ざん問題の真相解明を】と題するブログ記事で詳細に述べた。

ブログ記事は、BLOGOS、アゴラ、Huffington Postなどに転載されて、大きな反響を呼んでいる。野党の有力議員から、公の場での言及が行われており(【希望の党玉木代表定例会見】、【無所属の会原口一博元総務大臣の4月3日衆議院総務委員会での発言】)、与野党議員の間では、「刑事免責」の導入の必要性について、検討・議論を行う動きが始まっているようだ。

上記ブログ記事でも書いたように、刑事裁判での「刑事免責」制度が、2年前に成立し、今年6月に施行される刑事訴訟法改正法で導入されることから、国会証人喚問への「刑事免責」の導入も制度論として十分に可能であり、それが、決裁文書改ざん問題の真相解明のための唯一の実効的な方法だ。

「刑事免責」は、英米各国では、刑事裁判のみならず、議会での調査にも古くから活用されてきた歴史がある。ところが、日本では、ロッキード事件での嘱託証人尋問の際以外には、ほとんど注目されてこなかった。ネットで「刑事免責」を検索しても、海外の制度に関する日本語の紹介は殆どないし、改正刑訴法に導入される刑事免責についての解説も極めて少ない。同じ改正法で導入される「日本版司法取引」に対して社会的関心が高いのと異なり、「刑事免責」はこれまではほとんど注目されてこなかった。

私も、刑訴法改正の国会審議の際に、衆議院法務委員会に参考人として出席して意見陳述を行ったが、その際の議論は、もっぱら「司法取引の導入の是非」であり、その後、弁護士会や司法関係者によるシンポジウムの中でも、「刑事免責」はほとんど議題になっていなかったように思う。

それだけに、そのような「刑事免責」を国会証人喚問に導入することについて正確な理解を得ることは必ずしも容易ではない。

そこで、今回の刑訴法改正で日本の刑事裁判に導入される「刑事免責」とは、どのようなものなのか、海外の制度とどう異なるのか、それを国会の証人喚問に導入した場合、佐川氏の証人喚問について、どのようなことが可能で、どのようなことが期待できるのかなどについて、誤解されやすい点を中心に解説を行っておきたい。

 

まず第1に、「刑事免責」を「司法取引」と混同してはならないということだ。

日本で導入される「司法取引」は、捜査機関等に協力して「他人の犯罪事実」について供述を行う者に対して、自己の犯罪事実について不起訴にしたり、量刑を軽減したりするという「恩典」を与えるものだが、「刑事免責」は、当該証人尋問で証言を求められる事項について、その証言がどのように使われるか、それによって刑事訴追される可能性があるかどうかという問題である。

「刑事免責」は、その証言を行ったことで、証人が犯した犯罪について刑事訴追を免れさせてやる「恩恵」を与えることで証言をさせようとするものではない。「刑事免責」を認めることで、証人は、証言を拒否できなくなり、「証言拒絶」や「偽証」をすると刑事制裁が科される。それによって真実を証言させることが目的だ。

「司法取引」による供述については、その「恩典」を得ることを目的に、無実の「他人」を巻き込んでしまう可能性があることが問題にされているが、「刑事免責」による証言の方は、真実を証言している限り、刑事訴追という不利益を受けることはないというだけで、それ以上に「恩典」が与えられるわけではない。恩典を受けようとして「他人を巻き込むおそれ」があるわけではない。このような「刑事免責」と「司法取引」との違いを正しく理解する必要がある。

第2に、前回ブログ記事でも述べたように、刑事裁判に導入される「刑事免責」は、英米各国で導入されている事件免責(case immunity)、すなわち、「当該証人尋問で証言を求められる事項について証人が刑事訴追を受けるおそれがある場合に、その犯罪についての訴追自体を行えないようにする制度」ではない。日本で導入されるのは、使用免責(use immunity)であり、「当該証人尋問で証人が行った証言が、刑事訴訟手続の中で証人に不利益な証拠として使用されることがない」という制度だ。

いずれも、「当該証人尋問で、証人が供述拒否権を行使できないようにすること」を目的とするものだが、英米の制度が、当該証人尋問で、証言を求められる事項について「刑事責任自体を免責する制度」であるのに対して、日本で導入される「刑事免責」は、あくまで「当該証人尋問での証言を刑事訴追に使用することの制限」であり、当該証言やそれに基づいて得られた証拠「以外の」証拠によって起訴される可能性を失わせるものではない。

国会での証人喚問に刑事免責を導入するとしても、刑事裁判と同様に「使用免責」にとどまる。

もちろん、「使用免責」であっても、国会証人喚問と刑事手続との関係如何では、事実上、「事件免責」と同様の効果をもたらすことも考えられる。例えば、刑事事件にもなり得る問題が、発覚直後、捜査が開始される前に、国会証人喚問が行われ、証人が犯罪事実を全面的に認めた場合、国会での証言を刑事訴追に使えないだけではなく、それ以外の証拠も、国会での証言内容公表後に収集された証拠となって、「国会証言に基づいて得られた証拠」であることが否定できないとすると、その後、証人が、捜査当局の取調べに対して黙秘ないし否認した場合には、事実上、刑事訴追は困難になる。

このような場合以外は基本的には、国会での証言を刑事手続で不利な証拠として使用することについての制限に過ぎず、刑事訴追そのものが否定されるわけではない。

 

佐川氏の証人喚問に当てはめて考えると、今後、佐川氏の証人喚問で「刑事免責」が認められれば、刑事訴追の可能性があることを理由に証言を拒否することができなくなり、すべての質問に答えなくてはいけなくなる(証言拒否はできないので、拒否すれば、「証言拒否罪」で告発される可能性がある)。一方で、国会で、決裁文書改ざんに関与したことを認めたとしても、刑事処罰の手続きにおいて、その証言を証拠として使うことはできないし、捜査当局の取調べで黙秘ないし否認した場合に、捜査当局が、国会の証人喚問で改ざんに関与していることを認めていることを指摘して自白を迫ったりすることもできない。

しかし、再度の証人喚問が行われる前に、佐川氏が捜査当局の聴取を受けて供述した内容は、国会再喚問での証言とは無関係の証拠ということになるので、その供述に基づいて刑事訴追を受ける可能性は否定されないし、国会証人喚問とは無関係に、他の関係者の供述や他の証拠が得られていて、関与が認定されるのであれば、それによって刑事訴追される可能性はある、ということになる。

前回ブログ記事】でも述べたように、刑事訴訟法の改正で、刑事裁判の証人尋問に「刑事免責」の制度が導入されたことによって、国会証人喚問についても、「刑事免責」を導入して証言拒否権を失わせることに、立法技術上の困難性はほとんどなくなっている。「国権の最高機関」である国会(憲法41条)が、国政調査権に基づく証人喚問に関して、刑事裁判と同様の「刑事免責」を導入する立法を行うことを否定する理由はない。

実際に立法するに当たって問題になり得る点があるとすれば、「刑事免責を行って証人喚問を実施することの相当性の判断の手続き」についてどのように規定するかであろう。

導入するとしても、刑事訴訟法と同様の制度であれば、あくまで証言を「使用」することについての「免責」であり、刑事訴追の可能性が否定されるものではないが、上記のように、国会証人喚問のタイミングが捜査の進行より早い場合には、それが事実上の「事件免責」になる可能性もある。

「殺人」など、凶悪事件等の重大な個人犯罪について、国会が証人喚問での刑事免責によって捜査機関による捜査や起訴を妨害・介入することが許されないことは言うまでもなく、刑事免責を付与して証人喚問を行うべきか否かについては、「当該事項について国会で証言させることの重要性」と、「関係する犯罪の軽重及び性格」を比較考慮し、事件の性格が、国会の国政調査権による事実解明を優先するのが相当と考えられる場合に限定すべきだ。

国会の証人喚問に「刑事免責」を導入する場合、「刑事免責」を付与するかどうかは議院又は委員会の議決によって決することになるだろうが、それに加えて、例えば、「裁判所の承認」を免責決定の要件とするなど、判断の適正を担保する仕組みを設けることも考えられる。いずれにしても、議院証言法の改正によって「刑事免責」を導入することに、理論上も、制度の整合性という面でも全く問題がないことは明らかである。立法の経験の豊富な検察OB、現職検事等からも意見を聞いたが、同様の意見だった。

議院証言法改正により、国会証人喚問に刑事免責を導入することに向け、与野党の議員間の議論を深め、国会での議論に結び付けていくべきである。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2018年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。

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