就職人気で今年も全滅した新聞・民放

中村 仁

学生は読まない、見ない

社会の動きをいち早く察知、分析し、政治権力も監視する役割を持っているはずの新聞、テレビの就職人気がまた低下しています。日経新聞による新卒学生(19年予定)を対象にした調査結果は昨年に続き、上位100社に新聞、テレビ(NHKを除く)は入りませんでした。

あらゆる情報が雑踏のように交錯するネットが情報伝達の主力になっていくのでしょう。新聞、テレビの地盤沈下は新しいビジネスモデルを開発できず、自ら招いた結果でもあります。流動的な一過性の情報にどんどん社会が流されていくと、危機感を覚える人の声もかき消されていくのでしょう。

新聞社の人気のなさの直接的な原因は、学生が新聞を読まない、取らないほか、テレビもあまり見ず、ネット情報に依存していることにあると思います。ネットには新聞社経由の記事も多く、新聞が自分の首を絞めている結果を招いています。自縄自縛ですね。

日経は就職情報大手と協力し、4万3千人から集計しました。学生は待遇がよく、将来性もある有名企業や、日ごろ接しているサービス、製品を提供する企業などから就職先を選びます。ですから新聞は、就職希望の対象外なのでしょう。

新聞が持つ機能に代わるもの

こういう20代が社会の主流になり、さらに今の高齢者と世代交代していくにつれ、新聞の衰退は加速します。今の時代にどのような問題が潜んでいるのかを発掘する取材機能は社会にとって有益です。新聞社はそうした能力を育てる場でもありました。新聞社からネットの世界に転出する記者も増え、ある意味では人材の供給源となっています。

新聞が衰退した場合、ネット社会はどうやって人材を育てていくのか。ネット社会は人材は育てるものでなく、自然に育ってくるのを待つ。社会を見る能力を持った人材が流入してくる。これまで全く違うジャーナリズムが形をなしていくと考えるしかありません。

日経が24日付けで就職特集を掲載しました。調査は文系総合、理系総合、文系男子、文系女子などに分けており、伝統的メディアは、文系総合でNHKがかろうじて95位に顔をだしています。かつての常連だった全国紙、民放は見当たりません。地域別調査で北海道新聞、札幌テレビなどがどうにか登場しています。

新聞社が提供する大学講座で、私は講師を務めた経験があります。300人ほどの聴講生に新聞をとっているかどうかを質問しますと、ちらほら10人程度が挙手をしたにすぎません。退職後、教授などに就職したかつての同僚に聞いても、同じような傾向です。新聞を購読していない教授の方も多いようです。

紙の新聞は必需品ではない

特に紙に印刷した新聞は必需品ではなくなっています。紙の新聞は読まなくても、ネットで各新聞社が提供するニュース、解説は読む人はまだ多いでしょう。それなら、新聞社を就職先に選んでもよさそうなのに、そうではないのは、新聞社の将来性はない、すでに経営状態もよくない、新聞に最早、社会的役割を期待するのが無理、との考えからでしょうか。

ネット情報が主流になるにつれ、時代や社会の基本的な問題点に焦点を合わせるジャーナリズムが成立しにくくなっているのでしょう。日本の場合は特にそうです。国際報道とは名ばかりで、海外メディアの論評の翻訳版です。経済報道はどうか。経済の中心が米国、欧州、中国、アジアに移るにつれ、経済報道も主に海外報道の焼き直しが目立ちます。日本の新聞やテレビに頼る必要がなくなってきたのです。

国内政治は唯一、国産の報道と考えていましたら、新聞社の親政権、反政権という党派性が強まり、事実関係が歪められて伝わってきます。新聞の政治情報の価値は落ちています。新聞に社会的な役割、機能があるはずなのに、新しい時代に合わせ、それを再開発する努力を怠ってきたということでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。