(更新9:00 編集部より:中谷氏が大幅に解説部分を加筆されましたのでアップデートします。心より感謝いたします)
貧困家庭の子どもの進学支援を柱とする改正生活保護法が1日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。生活保護受給世帯の子どもの大学や専門学校への進学時に一時金を支給する制度を創設。今月中にも申請を受け付ける。
生活保護制度では子どもが大学などに進学すると、親と同居していても別世帯として扱う「世帯分離」が行われ、保護費が減る。これが進学の妨げになっており、受給世帯の2016年度の大学などへの進学率は33.1%と、全世帯の73.2%を大きく下回る。
この法案について、衆議院本会議にて立憲民主党を代表して安倍首相と論戦を繰り広げました。
私の考えでは、与野党は政策を戦わせ合うライバル同士であったとしても嫌悪感を持ち合うような対象ではありません。
山の登り方は違えど、日本をより良くしたい。平和で豊かな国民生活を創り、次世代へ希望に溢れたバトンを繋ぎたいという想いは共通するものであると信じております。
そうした観点から私の質問は、否定論理ではなく、未来への展望を交えながら建設的な提案と質疑を行わせて頂きました。
私からは、政府案と野党案に対する質疑で冒頭、「自分自身が母子世帯の貧困家庭で育った原体験から、世の中の『貧困』と『暴力』を根絶したい。そして『平和』で『豊かな』社会がいつもいつまでも続く世の中を創りたい。そんな想いで政治の道を志した」とお伝えしました。
(1)総理は、今までの人生の中で、生活するお金がなくて困った経験はあるのか
国民生活に大きな影響を与える立場にある者が、生活者の声を聞くことなく、算盤だけを弾いて、実態を踏まえない、机上の空論で政策を作れば、苦しむのは国民です。
そうした考えのもと政府案に対し、子どもの貧困対策、貧困の連鎖解消に本気で取り組む立場から一人親世帯の相対的貧困率が50%に達することを説明。「本人の努力が足りないのではなく、社会的な構造に欠陥がある。政府提出法案には市民生活に対する想像力と、社会的弱者に対する共感力が足りない」と指摘し、総理は、今までの人生の中で、生活するお金がなくて困った経験はあるのかと問いました。
安倍晋三首相は答弁で、「私には生活するお金がなくて困った経験はない。想像力と共感力が欠如しているのではとの批判は、甘んじて受けなければならない」と理解を示されました。
(2)憲法で規定されている「健康で文化的な最低限度の生活」に対する認識
憲法で規定されている「健康で文化的な最低限度の生活」に対する認識
生活保護基準の見直しでは、生活保護費を総額で160億円カットし、子どもがいる世帯の約4割の生活扶助が切り下げられる内容となっており、看過することはできませんでしたので、生活保護は憲法で規定されている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、自立を助ける制度ですが、この「健康で文化的な最低限度の生活」というものはどういったものであるというご認識をお持ちであるのか、安倍総理ご自身の考え方を伺いました。
(3)生活保護受給者のみにジェネリック医薬品の使用を原則化することは人権侵害ではないか
後発医薬品の使用を原則とすることは、患者の医薬品を選択する権利を奪うという側面があります。
しかもこれが国民全世帯ではなく、生活保護受給者に対してのみ後発医薬品を原則とするのは、明らかな差別であり、人権侵害ではないかと危惧を致しました。
一般の患者に対する後発医薬品の原則化は行われていない中、生活保護受給者に対してのみ差別をし、後発医薬品の使用を原則化する理由について見解を問いました。
(4)生活保護基準の引き下げの撤回要求
保護基準の引き下げは、最低賃金、住民税非課税限度額、介護保険料、就学援助などの基準に直結し、国民生活に広汎な悪影響を与えます。今回の生活保護基準の引き下げは、「年収階級第1・十分位の世帯」即ち「所得下位10%層」と比較をして、生活扶助費が算定されております。こうした中、10年前と比較して「年収階級第1・十分位の世帯」の経済状況が悪化していることは明らかであり、その大部分がOECD基準の相対的貧困線以の水準です。これはアベノミクスと呼ばれた経済政策の失敗が、格差拡大の要因になっていると指摘せざるを得ませんし、政府の経済政策における失敗を社会的弱者に押し付けるような政策は断じて許すことはできません。
安倍首相は6割の人は増えるからよいではないかという趣旨で強弁をされますが、切り捨てられている4割の人に寄り添うような政策が必要なのではありませんか。
今回の引き下げは、貧困に苦しむ家庭、特に母子家庭や子育て家庭への悪影響が大きく、子どもの貧困対策、連鎖解消からは真っ向から反するものであり、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が脅かされるほど、受給者に厳しい内容です。生活保護基準は5年に1度見直しが行われることとなっておりますが、今後の見直しについては、もはや「所得下位10%層」との比較では、生活保護法の定める「必要な事情を考慮した最低限度の生活需要を満たすに十分なもの」にはならないと考えます。
安倍総理、今ならまだ間に合います。生活保護基準の引き下げは安倍総理のリーダーシップで何卒見直して頂き、切り下げをこの場で撤回して頂きたいと迫りましたが、総理が方針を変えることはありませんでした。
(5)法案提出にあたり生活困窮世帯の話を聞いたことがあるか
“Nothing About Us Without Us”
(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)。
この言葉は、政治的、社会的、経済的な機会から疎外されることに危惧を持つ方々が、国が政策を進める際にその政策を進めることで影響を受ける当事者の意見を踏まえずに政策決定のプロセスを進めるべきではないという想いを伝えるために用いられたスローガンです。
この言葉を引用した理由は、専門家から生活保護基準を検討する部会での資料は、統計的に基づく資料は使われているが、利用当事者や関連制度で影響を受ける人たちからの聴取が全くないというが指摘あり、まさか当事者の声を聞かずに、算盤だけを弾いて、実態を踏まえていない机上の空論で政策をしているのではないかと大変心配しているところであります。
2人の子どもがいるお母さんが毎月14万程度の生活扶助で暮らすことがどれだけ大変なことか、75歳以上のおじいちゃんおばあちゃんが6万円程度の生活扶助で暮らすことがどれだけ大変なことか、総理は本当に理解されているのか。少なくともこうした方々の声に耳を傾けている人間であれば、私はこんな政策決定はできないと思いました。
生活に困っている国民の人生に、さらに追い討ちをかけるような政策決定をするのであれば、その人たちの声をしっかりと聞くべきだと思いますが、総理はこの重要広範議案を国会へ提出するにあたっては、自らがこういった生活に困窮している世帯の方々の話を5人でも10人でも聞かれたことがあるのかと総理に問いただしたところ、厚生労働省が聞いているという趣旨の返答があり、ご自身が話を聞いたということを言明する事はありませんでした。
(6)しっかりと試算をした上で進学できるだけの準備金を給付すべき
親の経済的貧困が教育格差を産み、子どもが低学力・低学歴になった結果、就労状況が不安定になり、その子どもが親になった時にまた経済的貧困に陥るという貧困の世代間連鎖が起こる状況は、データが証明しています。
大阪府堺市の調査によると、市内の生活保護世帯のうち、過去に生活保護世帯で育った経験があるのは25.1%で、母子世帯では、その割合は40.6%に上ったという統計もあります。
安倍総理は以前から、「どんなに貧しい家庭で育っても、夢を叶えることができる。そのためには、誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。」と仰られ、今回の生活保護基準見直しにおいても総理は、「子どもたちへの教育予算を増やした」と自信満々に答えていらっしゃいますが、そもそも子供のいる世帯の4割の生活扶助費が引き下げられ、進学準備給付金も勿論ないよりは良いですが、大学等進学にかかわる金額全体からみれば微々たるものでありまして、これでは大学等に進学するのは難しいと指摘せざるを得ません。
全国大学生活協同組合連合会の調査によれば、受験や入学準備のための費用を合わせると、自宅生では約50万円、自宅外では約130万円程度かかります。これに対して総理が仰られている支援は、自宅生は10万円、自宅外生は30万円です。単純計算すれば、自宅生は40万円、自宅外生は100万円を自分たちで用意しなくてはなりません。
そもそも生活扶助を引き下げされて、月10数万円の給付で子育てをしながらギリギリの生活をしている生活保護世帯がどうやってこのお金を用意するのでしょうか。例をあげれば2級地の1に分類される地方の県庁所在地に住んでいる母子世帯の親と中学生、高校生の子供を持つ家庭に対しての給付額が、生活扶助本体、児童養育加算、母子加算を全て合わせても今回の新基準における見直し額では、18万2000円。これがもし自分の立場だったとしたら本当にこれで生活をしながら、子ども一人あたり40万円から100万円の進学準備にかかる費用を貯金できると思いますか。私は厳しいと思います。
政府が、子どもの貧困の連鎖を断ち切るための大学等への進学支援を本気で行うつもりがあるのであれば、政府として進学準備にかかる費用をしっかりと調査・試算をした上で、雀の涙ほどの給付から子どもたちがちゃんと大学等へ進学できるだけの準備金を給付すべきと提案しましたが、受け入れていただくことはできませんでした。
(7)教育費用の無償化を推進し、経済的な理由で進学を断念する子どもをゼロにする取り組みを進めるべき
子どもの貧困対策の必要性が大きく叫ばれている中で、0−3歳未満児の児童養育加算を月額5000円も引き下げようとしております。
また、学習支援費の実費支給への変更は、クラブ活動を諦めることにも繋がりかねない。また、特に小学生の学習支援費は、その上限も現行の支給額と比較して年額15000円以上も大幅に減額されることになっております。
そして母子加算も月平均1.7万円に引き下げられようとしております。
これらの政策はまさに子どもの貧困対策に逆行するものであり、延べ35万人の子どもが不利益を被るとされており、これで「生活保護世帯の子どもの貧困の連鎖を断ち切る」などと政府が法律案に口先だけのスローガンを掲げられていることは笑止千万であります。
子どもの貧困対策への支援や政策提言をしている「あすのば」が、小中学校に入る子どもがいる家庭などを対象に行っている「入学・新生活応援給付金」を受け取ったことのある子どもからこんな声が寄せられております。
「自分は野球部のマネージャーを勤めていました。けれど母子家庭ということもあり、下に2人妹と弟がいることもあり、部活動を辞めざるをえない状況になりました。(中略)母子家庭がこんなに辛くて、苦しくて、父親がいないなんてこんなに辛いことだと初めて気づきました。母は毎日死ぬ気で働いて朝もお昼のお弁当も夜ご飯も作ってくれて初めて母のありがたみがわかりました。(中略)もし部活動をやめたら家族のことを助けていこうと思います。」
この声を聞いて、どう思われますか。私は、子どもたちを貧困から救い、平等な教育環境を整備し、健全な成長を支えて、次世代へ送り出すことは、私たち当代を担う大人の責任であると思います。
安倍総理が、真に子どもたちの貧困対策を行うとされているのであれば、0−3歳未満児の児童養育加算、母子加算の引き下げ、学習支援費の実費支給への変更をこの場で撤回をして頂き、取りやめて頂きたいと考えますが、いかがでしょうか。また、こうした問題に起因する子どもの貧困実態などの調査を政府としてしっかりと行った上で、対策を実行すべきと考え提案を行いましたが、総理が方針を変えることはありませんでした。
(8)大学等の進学の妨げとなる世帯分離についての運用改善要求
現行制度においては、生活保護世帯の子どもが高校を卒業すると稼働能力を獲得するとの理由により、世帯分離が行われ、生活保護費の支給額が下がってしまうことから大学や専門学校等への進学の妨げとなっております。
私も専門学校に進学した際、平均して月500時間前後の時間を学業と労働関係の時間に費やしていたような環境でありました。
一般的に考えれば非常に厳しい生活環境であったと思います。
世帯分離についての運用改善を行うことは、教育格差の問題を是正する観点はもちろんのこと、経済的な意味合いでも子どもへの投資効果というのは非常に高く、逆に子どもへ投資をしない損失は計り知れません。
子どもへの投資の乗数効果(経済波及)は2.3(公共投資は1.1)という試算もあり、大学や専門学校等への進学をサポートすることは、稼働能力の付加価値向上に繋がり、結果として経済成長にも貢献し得ると考えます。
こうした観点から、高校卒業後も世帯分離をせず、世帯を単位とする保護を受けながら大学・専門学校等に通えるような運用改善を行うことが必要不可欠であります。
また、給付型の奨学金に関しても一部の優秀な生徒だけではなく、学ぶ意欲のある子どもたちには範囲を拡大して広く給付をして頂きたいと考えます。さらには、低所得者世帯への成績不問の給付型奨学金・授業料減免の大幅拡充及び、高校生への給付型奨学金の拡充、幼児教育から高校までの教育にかかる費用を無償化を推進するなど経済的な理由で進学を断念する子どもをゼロにするような取り組みを進めていただきたいと考え、政府が方針を変えることはありませんでした。
(9)野党提出の「子どもの生活底上げ法案」について
母子加算の減額阻止、大学等の進学の妨げとなる世帯分離の運用改善、児童扶養手当の支給対象の拡大、支給額の増額、毎月支払いの実現等、一人親世帯の子どもの生活支援を中心とした措置を講じることにより、「貧困の連鎖」を断ち切るとともに、貧困世帯の子どもの生活の安定を図るものとして、提出された「子どもの生活底上げ法案」について、提出者に見解を問いました。
提出者からは、「政府が行うとしている生活保護基準の引き下げについて、総理は6割の世帯は上がるから平気だと仰りますが、私たちは下がる4割の人々にこそ支援すべきだと考えます。底が下がっているからそこに合わせて下げるのではなく、底上げこそが必要。」という趣旨の説明がありました。
上記のようなことを安倍総理に迫り、見解をただしましたが、残念ながら政府が方針を変えることはありませんでした。
今後も諦めずに生活困窮者、子どもたちの生活を守るために、政府に対して意見提言を続けていきたいと思います。
より詳細につきましては、下記の動画をご覧ください。
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中谷 一馬 衆議院議員 立憲民主党
1983年生まれ。横浜市出身。IT企業「gumi」(現在、東証1部上場)創業参画を経て、2011年神奈川県議選(横浜市港北区)で民主党から出馬し初当選。2度目の国政選挑戦となった2017年10月の衆院選は立憲民主党推薦で神奈川7区から出馬、比例復活で初当選した。公式サイト