通信・放送融合2.0

2018年06月07日 11:30

規制改革会議投資WGに呼ばれ、放送改革に関する議論をしてまいりました。
ぼくは「通信・放送融合2.0」と題しプレゼンしました。
その概略を共有しておきます。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/toushi/20180207/180207toushi01-2.pdf

2006年総務省「竹中懇」で通信放送法制度の抜本見直しが論議されました。
当時ぼくは、通信放送は縦横に入り組んだ約10本の規制法があったのに対し、コンテンツ・サービス・ネットワークのレイヤ別に規制を再編して情報通信法という1本に集約する提案を行いました。

抜本見直しのときにしかできない規制緩和、特に電波の規制緩和を行うのが趣旨でした。
これにより、通信放送横断のサービス提供、放送のハード・ソフト分離の選択肢や通信放送の両用免許などを実現しよう、というものでした。

その後、議論・調整を経て、法律が4本に整理され、2011年に施行されました。
ハード・ソフト分離や両用免許など世界に先駆けて法律上の枠組みが整いました。
しかし、その後これが実事業として適用されるケースは乏しい状況が続いています。実態として進んだとは言えません。

その間、放送は地デジを整備しました。
地デジの目的は以下の3点ありました。

1) きれい:高精細化
これはHD化で達成しました。

2) べんり:高機能化。
しかし、デジタル=コンピュータの高機能メリットを活かす役割はスマホ+ネット=通信が担いました。

3) 電波の土地区画整理
デジタルのUHF帯への引っ越しは完了しました。一方、空いたV帯の更地化・再開発は、Vlowは新サービス=マルチメディア放送が始まったが、VhighはNOTTVで一旦頓挫、その間の公共利用空間は未整備です。

つまり地デジはまだ完成途上なのです。

通信・放送融合の現状はどうか。
映像サービスの主な展開は、1)融合、2)スマホ、3)大画面。
通信放送融合サービスの展開、スマホ1st、4K8KのサイネージやPV、の3方向です。

1)融合サービスとしての放送局の取組例、「radiko」は大阪のラジオ局がNTTと組み、ぼくら慶應大学との産学実験として始まり、全国に広がったものです。

地デジの電波を通信に使う取組として、放送の電波にIPを乗せるIPDCを普及させるコンソーシアム「IPDCフォーラム」を2009年から主催しています。
TFMグループがIPDCを使い、V-low周波数帯にてマルチメディア放送として実サービス「i-dio」を2016年から提供。放送波を使った通信的サービスの始まりです。

2)主戦場はスマホに移行しました。
主要デバイスがTVからスマホに移るスマホファーストが顕著になっています。Abamaのように放送局がIT企業と連携した例もありますが、例外的。多くは通信側が進めるサービスです。

昨年から、NetflixやAmazonなど海外のOTTと呼ばれるネット配信が本格化しています。
コンテンツ制作に巨額の資金を投じ、テレビ中心の業界構造が変わる兆しが現れています。
吉本興業の「火花」が世界190か国に配信され、その後NHK地上波でオンエアされたのが典型です。

3)4K8Kの超高精細で大画面のディスプレイが町に展開されるデジタルサイネージやパブリックビューイング。
「デジタルサイネージコンソーシアム」設立から10年、ビジネスとして本格化してまいりました。

全国に4K8Kのパブリックビューイング場を作る「映像配信高度化機構」も昨年立ち上がりました。総務省、NHK、NTTらと協働し、2020年には100ヶ所を整備する計画です。
4K8Kは通信が先行です。

海外事例も3点押さえておく必要があります。

1)オールIP、オールクラウド
アマゾンはAMSクラウドインフラの上にプラットフォームを作り、マルチネットワーク・マルチデバイスへの配信システムを構築。既に世界の多くの放送局が利用を開始しています。放送システムを全部クラウドシステムに移管することを検討する放送局もあります。

2)イギリスのプラットフォーム
BBCと民放事業者がYouViewやFreeviewPlayといった共通プラットフォームを構成しています。NetflixやAmazonなどアメリカのOTTへの対抗策でもあります。

3)アメリカの政策対応
アメリカでは制度対応として電波オークションとネットワーク中立性が要注意です。FCCが2016年、テレビ局が使わなくなった電波を通信事業者に譲渡、テレビ局各社に合計105億ドル(1兆円)を支払いました。地方局の設備統合や携帯事業の設備投資を促すことが目的です。
また、昨年末、FCCがネット中立性を廃止しました。AT&Tなどの通信会社がGoogleやAmazonなどへの競争優位を復活させ、産業構造に変化が起こり得ます。日本に波及すれば、NTTなどの通信会社が映像配信への勢いを増すことが想定されます。

放送側の課題は「非成長性」でしょう。
この20年、ネットとスマホで通信は大きく伸びました。トラフィックの増加もほとんどが通信です。
放送は1chの電波に1chのコンテンツを乗せて広告を取るビジネスから脱していません。
コンテンツ価値の拡大は通信メディアで実現する一方、電波を有効利用して価値を高める動きはほとんど見られません。

東京キー局の時価総額の総計は1.8兆円。一方、昨年度のNTTの営業利益が1.5兆円。1年の利益でほぼ全局を買収できるわけです。それだけの投資体力差がある中で、放送だけで成長戦略は描けません。効率化、集約、外部資金の獲得などの経営力が必要です。

個別には1)ビジネス面、2)技術面、3)制度面の課題が考えられます。

1) ビジネス面
ネットとの向き合い方。同時配信がまだ行われず、広告費ビジネスからの脱却が見えない。視聴履歴の利用も進んでいない。著作権処理も課題のまま。ネットではビッグデータやAIの分野へと進化しているのに、です。

2) 技術面
地上波の限界が露わになっています。1chのデジタル波を分割して1スロットを1セグに使う工夫はありましたが、それも下火。マルチデバイス向けの有効活用はできていません。次のトレンドである4K8Kは地上波に出番がありません。

3) 制度面
融合サービスやハード・ソフト分離を可能とする法律はできたが、それを活用する例は乏しい。放送波で新聞などを配信する通信サービスや、IoT放送など新しいビジネスは想定はされるものの実態が発生していないので詳細の制度ができていません。
同様に、放送に課せられた番組紀律、マスメディア集中排除、県域放送などの縛りを解くことも考えられるが、これは制度問題というより、それを望む事業者のニーズが乏しいと考えます。つまり制度問題というより、それ以前のビジネスの意志の問題かと。

方向性を示す事例として、1)TV版radiko、2)大阪チャンネル、3)FLATCASTの3件を挙げます。

1) TV版radiko
IPベースで電波・ケーブルのマルチネットワーク展開し、編集・配信のコストを格段に下げる。放送局の共同プラットフォームを形成する。視聴履歴のビッグデータをAIも回して視聴行動を導く。

2) 大阪チャンネル
昨年4月に吉本興業とNTTぷららがスタートしたスマホ向け配信サービス。主に吉本興業がからんだ大阪の地上波民放局の番組が配信されている。オリジナル作品も配信される。月400円の定額サービス。テレビのプラットフォームをプロダクションと通信会社が作っているというモデル。

3) FLATCAST
光NWを活用した高品質映像の配信実証。放送映像を東京、大阪等からIpV6マルチキャストで4Kを含むマルチデバイスへ配信、ブロックチェーン等セキュアな技術も導入しています。慶應義塾大学 SFC研究所が主導し、放送事業者、通信事業者、広告会社、IT事業者等が協力しています。

これらに限りませんが、個別放送局では難しい大きなビジネスデザインが必要。通信会社や外資を含む技術実証と、必要な規制緩和が欲しい。ただ、技術面や制度面を動かす前に、これらを進める放送業界のマインドセットやアントレプレナーシップが欲しい。しかしこれは簡単なことではありません。

大きく業界やメディア構造が変わる融合2.0に対応する、2020年に向けて、改めてメディアのビジョンを描き、その上で必要な大胆な規制緩和の措置をデザインするのがよいと考えます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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