動く列車内は、犯罪にとって“白昼の死角”か?

去る6月9日、東海道新幹線の車内で、乗客の男女3人が殺傷されるという痛ましい事件が起こった。

容疑者は最初から無差別殺傷を行うつもりで新幹線に乗り込んだのだろうか?
もし計画的に乗り込んだとしたら、容疑者は、逃げ場が限られたうえ警察官が急行できない「動く密室のような車内」で、思い通り殺傷計画を成功させたことになる。

奇しくも、6月8日は池田小学校事件と秋葉原事件が起きたのと同じ日だ。
その翌日に新幹線の車内で惨劇が起こるとは、誰が想像できただろう?

池田小学校事件後、学校は部外者の侵入を防ぐための施策を講じた。
秋葉原事件後、おそらく警察組織は路上での凶行を想定して監視を強化していただろう。
いずれも尊い犠牲の上に築かれた防犯体制だと思うと、被害者の方々や遺族や家族の方々の悲しみが改めて伝わってくる。

新幹線では、以前、自殺的な放火事件があった。
しかしながら、刃物を用いての凶行は初めてだ。

刃物は簡単に車内に持ち込むことができるし、逃げ場が限られ迅速な対処が不可能な車内なので、乗客の何人かを確実に殺傷することができる。動いている列車の中は、刃物による凶行にとって、犯行が最も容易な“白昼の死角”であることが判明した。

新幹線でなくとも、在来線の特急列車や(場合によっては)次の駅までの時間が比較的長い中央線快速の車内でも、同様の凶行は可能だ。

小学校の校舎の押し入る、歩行者天国の路上の人々を襲う、そして、列車内の人々を襲う。
いずれも、現実に事件が起きるまでは、私たちにとって想定外の出来事だ。

小学校は警備を厳重にすることでかなりの確率で犯行を防ぐことができる。
それに比べ、暴走車が歩行者を襲うテロが他国で多発したように、路上での対応は難しい。
しかしながら、人の集まる場所での警備を厳重にすれば、被害の拡大を防ぐことはある程度までは可能だ。

では、今回のような車両内での凶行はどうやって防げばいいのか?
数分間隔で発着する新幹線で「所持品検査」を行うことは極めて困難だ。

仮に新幹線で可能になっても、他の特急列車や次の駅で扉が開くまで時間のかかる列車内での凶行をどうやって防げばいいのか?

「法と経済学」の世界では、検挙率を上げて罰則を重くすれば、合理的人間は犯罪行動を控えると考えている。

しかし、「誰でも良かった」「死にたい」などと考える犯人に、この理は通じない。
先走るようだが、被害者らの無念を考えると、本件加害者の刑事裁判において、心神喪失での無罪や心神耗弱での減刑は決してあってはならないと思っている。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。