「呉越同舟」のトランプ・共和党の対中強硬姿勢は続くのか(特別寄稿)

2018年06月26日 06:01

ホワイトハウスFacebookより:編集部

なぜトランプ政権は対中強硬姿勢を継続せざるを得ないのか

トランプ大統領による対中強硬姿勢が止まらない理由は中間選挙の上院改選州の情勢を有利に導くものだとする解釈が日本の既存メディアの解説でも主流になってきました。貿易戦争勃発後、米国側のメディアがそのように報道するケースが増えたため、その受け売りとして日本側の報道内容が変わってきたというところでしょう。筆者もトランプ大統領の行動は「選挙に勝つため」&「権力基盤を固める(≒共和党諸種派に配慮)」に特化していると再三指摘してきたため、当初全く的外れであった日本メディアのトランプ政権に関鵜する報道の方向性は妥当なものになってきたと思います。

しかし、トランプ政権の中国に対する一連の関税・制裁を理解するために十分に解像度が高い説明はあまり存在していないように思われます。そこで、今回は「なぜトランプ政権が対中強硬姿勢を継続させざるを得ないのかを解説していきます。

2つの動機、「呉越同舟」のトランプ大統領と米国共和党保守派

トランプ政権の対中強硬姿勢には2つの動機が存在しています。それはトランプ大統領の動機と米国共和党保守派の動機です。

トランプ大統領の動機は上記で挙げた「選挙に勝つ」ということで間違いありません。選挙前のこの時期に関税戦争を仕掛けることで、実際に物価上昇が生じて支持率が低下し始める前に中間選挙を終える予定であると思われます。現在のところ、トランプ大統領の愛国的な姿勢によって、一部のリバタリアンからの反旗を除いて関税の影響を受けて表面上は支持率が下がっているという現象はありません。

一方、共和党保守派は前々から主に「安全保障」の観点から、中国の「知財政策」「ハイテク投資」「台湾政策」などに強い関心を示してきています。これらの問題意識はトランプ政権の誕生以前から醸成されてきたものであり、現在に始まったものでもなく将来に渡っても続く根深いものだと捉えるべきです。ただし、共和党議員は一般的に関税には良い感情を持っておらず、自由貿易を推進してきた経緯があります。

この両者の動機が合わさった状況が現在のトランプ政権の対中貿易政策に反映していることになります。つまり、トランプが推進する「関税」を共和党保守派の「安全保障」を大義名分として「制裁」と絡めて推進する、という行為は、トランプ大統領と共和党保守派の間のロジックの妥協の産物と言えます。

共和党保守派は本音では自由貿易推進であるものの、自前の党の大統領が推進する関税をあからさまに否定するわけにもいかず、トランプ大統領も共和党側に配慮して自由貿易を否定するわけにもいきません。両者ともに相手を否定するのではなくお互いの主張に乗っかる形を選んでいるため、中国に対する極めて強硬な姿勢が政策上のアウトプットとして生まれてくることになります。トランプ大統領が「関税をかけない代わりに全ての関税の撤廃を要求する」という実現困難な主張を行う背景も同様です。

ZTEへの制裁継続に関する是非で露呈したトランプ・共和党の溝

ただし、両者の呉越同舟は必ずしも同じ方向に向けて船を漕いでいるわけではありません。

トランプ大統領は中国の通信機器大手ZTEに関して制裁を一度は実行しましたが、習近平国家主席から中国側が貿易問題で譲歩する提案を受けたことで制裁見直しに態度を変えています。一方、共和党側がZTEに対する制裁を安全保障上の懸念から継続することを含む国防権限法案を上院で可決したことで、両者は妥協案を模索せざるを得ない状況となっています。(上院は反トランプ系・非改選の共和党議員も多いことも背景にあります。)

ZTEを巡るやり取りを通じて、トランプ大統領は選挙に向けて貿易問題で果実を得ることで容易に政策態度を変更することが再確認されましたが、イデオロギーや安全保障問題にこだわる共和党側は中国に対する態度を安易に変更しないことも合わせて確認されました。

したがって、今後もトランプ大統領の動機に基づく政策は選挙・政局上の喉元を過ぎれば消え去る可能性があるものの、共和党側の動機に基づく政策は粘り強く継続されていくものと推測されます。

つまり、トランプ大統領が求める「関税」は中間選挙後にトーンダウンしたとしても、共和党が求める中国からのハイテク投資・中国企業の行動などに対する「制裁」は今後も度々実行されていくことが予測されるということです。

そして、トランプ大統領も中国政府に何かを求める際には、共和党側を納得させるために常に「安全保障上の懸念」という大義名分と「制裁」という手段を用いるものと思われます。(台湾の軍事演習参加等の政治的・軍事的支援も含めて)

トランプ政権の対外政策の見通しを予測する際に、それは「トランプ大統領の動機」「共和党保守派の動機」のいずれに基づくものであるかを詳細に検討するべきです。米国政治への解像度を高めていくことで「予測不能」とされるトランプ政権の方向性を推量することができます。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑