伊藤詩織事件を「慰安婦問題」に仕立てるBBC

BBCが28日夜、「日本の秘められた恥」と題する約1時間のドキュメンタリーを放送した。これは伊藤詩織氏を主人公にして、山口敬之氏を「加害者」と想定し、伊藤氏の立場から性犯罪として描くものだ。

内容はステレオタイプの「古い日本人」を一方的に糾弾するだけで、新事実が指摘されているわけではないが、この事件を日本のマスコミが取り上げなかったことを「日本の恥」と批判している。これは逆である。昔だったら、山口氏が容疑者になった段階でマスコミが犯人扱いして、大騒ぎになっただろう。

今回は、週刊誌は取り上げたが、全国紙やNHKは取り上げなかった。山口氏が不起訴処分になったからだ。検察審査会も不起訴にしたので、刑事事件としては消滅しており、今は民事事件として争われているが、これで山口氏に賠償責任が認められても、彼が犯罪者になるわけではない。

「ロス疑惑」で話題になった三浦和義は、逮捕される前から犯人扱いだったが、結局無罪となり、マスコミを相手に500件以上の名誉毀損訴訟を起こし、400件以上で勝った。これが重要な判例となり、有罪判決が確定するまでは犯人扱いしないのが日本の報道機関のルールだ。まして逮捕もされなかった山口氏を犯人扱いしたら、マスコミが確実に敗訴する。

この不起訴処分に疑問はある。去年の記事で私も書いたように、高輪署のとった逮捕状を警視庁(中村格刑事部長)が止めたのは、TBSとの取引(山口氏は当時ワシントン支局長)だった疑いが強く、警視庁とTBSの説明が必要だ。

しかし刑事事件の原則は「推定無罪」である。二度も証拠不十分で不起訴になった事件を、BBCが犯罪であるかのように世界に広めるのは人権侵害だ。さらに問題なのは、この事件は海外ではほとんど知られていないので、世界中に「性犯罪を許す日本人」という誤解が広がることだ。

昔の慰安婦問題と同じである。これも初期には大した問題ではなかったが、朝日新聞が嘘を繰り返し、それをNYタイムズが世界に広めたため、今では世界の常識になってしまった。今回の問題も、世界の他のメディアに「延焼」する前に、山口氏はBBCの番組審査機関に抗議し、今後の放送中止を求めるべきだ。