東京が5日連続の真夏日となった6月29日、気象庁は関東甲信地方の梅雨明けを発表した。史上初6月中の梅雨明けとなった。これからの季節、レジャーで「海」に出かける人も多くなる。しかし、海にはサメがいる。1975年にジョーズが公開されて以降、サメは恐怖の象徴となっている。海でもっとも遭遇したくない相手ではないか。
ここにサメを恐れない女性がいる。世界唯一の「シャークジャーナリスト」として活動している、沼口麻子さん。今回は、『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)を紹介したい。
サメとイルカを見分ける方法
沼口さんは、「水面から出ているヒレだけを見て、イルカかサメか判断することはできますか?」。よく、こんな質問を受けるそうだ。
「その答えはYES。見分けるポイントは、尾ビレです。サメは尾ビレが体に対して垂直になっているのに対し、イルカの尾ビレは水平。サメが海面近くを泳いでいると、背ビレと尾ビレの2つが見えますが、イルカの場合は背ビレしか見えません。イルカが尾ビレを上下にしならせて泳ぐ姿は『ドルフィンキック』と呼ばれます。」(沼口さん)
「哺乳類の骨格の構造からくるイルカのこの泳ぎ方は、尾ビレが水平なればこそ。魚類の骨格の構造から尾ビレがタテになっているサメの場合は、上下ではなく左右に体をくねらせて泳ぎます。ヒレのつき方も違えば、泳ぎ方も違うのです。」(同)
ちなみに、クジラもシャチも、尾ビレのつき方も泳ぎ方もイルカと同じとのこと。クジラもイルカもシャチも、みな同じクジラの仲間になる。
「世界中にドルフィンスイムを楽しめるスポットは数多くあります。国内でもっとも有名なのは、伊豆諸島の御蔵島でしょう。野生のイルカの群れと一緒に泳げるなんて、ダイバーならずとも心が躍ります。わたしがサメを研究するために滞在していた小笠原諸島の父島周辺にもミナミハンドウイルカがたくさんいます。」(沼口さん)
「学生時代はダイビングの合間にも、よくイルカを目にしたものです。船の上から野生のイルカを見つけて、船で近づき、音をたてないように静かに海に入り、素潜りでイルカと泳ぐのです。イルカの群れをよく観察してみると、群れの最後に、ヒレが2つ、ひよこっと水面から出ていることがあります。」(同)
沼口さんによれば、イルカはドルフィンスイムの途中でシャークスイムもできるそうだ。ドルフィンスイムに夢中になっていると、なかなか気がつかない。
「シャークジャーナリスト」とは
沼口さんは、「シャークジャーナリスト」として、テレビ番組でサメの解説をしたり、専門学校でサメの講義をしている。サメだけに特化した情報発信を生業にしている。
「この、肩書(シャークジャーナリスト)はわたしのオリジナルで、世界に1人しかいません。サメの面白さを世の中に広めたいと思い、サメに特化した情報発信をするようになりました。進学した大学が、海洋学部という海を学ぶ学部だったことから、海の中の大型生物のサメを研究しようと決めました。」(沼口さん)
「サメは警戒心の強い生きものです。自然界でサメに近づくことも難しければ、サメと遭遇しても何もしなければ、まず襲われることはありません。わたしは、サメの撮影をするため、スキューバダイビングで海に潜りますが、たいていの場合、サメは人間を見ると一目散に逃げていき撮影すらできません。」(同)
これまで、多くのサメと対峙してきたが、怖い目に遭ったことはないそうだ。実際には多くの映画やテレビ番組でサメは危険生物として描かれている。
「国際自然保護連合(IUCN)は、野生生物の絶滅のおそれを評価し、その程度に応じて分類しています。それを『レッドリスト』と呼び、500を超えるサメの種のうち476種がの評価対象になっています。このうち、IUCNの定義で『絶滅危惧』に該当するサメは74種、評価対象の15.5%にのぼります。」(沼口さん)
「そのなかには、ホホジロザメや、水族館で人気のジンベエザメ、ハンマーヘッドの愛称でファンも多いシュモクザメの仲間も含まれます。これらの原因は人間による『サメ退治』の影響を抜きにしては語れません。」(同)
サメの真実を世の中に伝えるべく、日々奮闘中の沼口さんが、地球上の海を旅して見たり食べたりの体当たり図鑑。ぜひご覧いただきたい。皆さま、よろシャーク!
尾藤克之
コラムニスト