文部科学省の局長が逮捕された事件は、まだ事実関係がはっきりしないが、「贈賄側」の東京医大の理事長と学長は、「入試の点数に加点した」ことを認めているようだ。賄賂は現金に限らず、職務上の地位が賄賂と認定された判例もあるらしいが、「裏口入学」が贈賄と認定されたら、私立大学は賄賂だらけになる。
日本のように裏口入学が犯罪扱いされる国は珍しい。図のように私立大学では一般入試は半分以下で、早稲田や慶応でも6割程度だ。半分以上は推薦やAOなどの「裏口」だから、情実入学は日常的に行われている。世界的にも一流大学は有力者や金持ちの子供が寄付金で入学するものというのが常識で、裏口入学は犯罪とは思われていない。
日本の(特に文系の)大学は、教育機関としての機能をほとんど果たしていないが、その取り柄は、すべての受験生が同じ条件で競争する大学入試によるシグナリングの客観性だった。非裁量的なペーパーテストが、労働者の質を示す情報生産機能を果たしていた。その点数が「人格」をあらわしている必要はない。
企業からみると、終身雇用で採用する労働者に専門知識は必要なく、常識と忍耐力が大事だ。一流大学の卒業生には天才はいなくても常識があり、退屈な受験勉強を長期間やる忍耐力がある。人格やコミュニケーション能力は面接でみるので、大学入試は学力(学習能力)だけをみればいいのだ。
ところが文科省の「改革」で入試が「人物本位」になり、面接のうまい学生が推薦で偏差値の高い私立大学に合格するようになった。彼らは人当たりがいいので営業には使えるが、学力がないので研究開発などのむずかしい仕事ができない。国公立大学は裏口が少ないので人事の評価が高いが、私立文系の大部分はもはや学歴の意味をなさない。
東京医大は旧制の医学専門学校で、かつては偏差値50前後だったが、今は早稲田の理工学部と同じランクだ。このように医学部の偏差値が異常に上がっている最近の傾向も、それ以外の学部は教育としても学歴としても役に立たない、と学生が(正しく)認識しているためかもしれない。