「発達障害」は親の問題?長生きができない?犯罪も多い?

尾藤 克之

画像は筆者撮影による

近年注目されている「発達障害」。育てにくい、ほかの子ができることができない、問題行動が多く、つい怒ってしまう。もしかしたらウチの子もそうなのかも?と不安に思う親御さんは少なくない。ところが、「発達障害」に関する誤解や偏見が多いことも事実。まずは、「発達障害」の基礎知識について理解したい人に朗報がある。

今回は、『「ウチの子、発達障害かも?」と思ったら最初に読む本』(永岡書店)を紹介したい。著者は広瀬宏之医師(横須賀市療育相談センター所長。小児科医、小児精神科医、医学博士)。簡単に、広瀬医師の略歴を紹介したい。

東京大学医学部卒業。国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科、フィラデルフィア小児病院児童精神科を経て、2008年より、横須賀市療育相談センター所長、2015年より、放送大学客員准教授。主要著者に『「もしかして、アスペルガー?」と思ったら読む本』(永岡書店)、『自閉症のDIR治療プログラム』(創元社)など、論文多数。

特性に合わせた環境づくり

広瀬医師によれば、「お子さんのお困りポイントに応じて、周囲の環境を整えていきましょう」という話をすると、「もしかして、私の育て方が悪いのだろうか?」と自分を責めてしまう親御さんがいるとのこと。しかし決してそうではない。

「はじめからお子さんに合った環境を整えられる親御さんはほとんどいません。子どもは日々成長し、発達していくので、お子さんにとって常に完ぺきな環境を用意するのも簡単ではありません。親御さんに迷いが生じたり、何が正しいのかがわからなくなったりするのは、ごく自然なことだと思います。」(広瀬医師)

「親御さんが『環境を整えることが必要だと、心から理解した日がスタート地点』と思って、これから先のことをじっくりと考えていきましょう。また、育て方に関して、『テレビやパソコン、スマートフォンなどを見せていると発達障害になる』という都市伝説があります。電子メディアを与え続けると障害になるというものです。」(同)

広瀬医師は、「電子メディアに接する機会が増えると、人とのコミュニケーションをあまり必要としなくなるので、その意味で電子メディアが発達障害に及ぼす影響はゼロではありません。でも、それが発達障害の根本原因なのではない」と解説する。

「無理にお子さんから電子メディアを遠ざける必要はないでしょう。子育ての強力なサポートツールとして、適切に活用してください。根も葉もないウサ話、ネット情報、都市伝説に振り回されて、 ご自分の育て方を責めないでほしいと思います。」(広瀬医師)

長生きできない?犯罪を起こしやすい?

「発達障害の人は長生きできます。たしかに重い知的発達症や肢体不自由を抱えていると、寿命は短くなる傾向がありますが、自閉スペクトラム症、ADHD、限局性学習症、やや軽い知的発達症といった場合であれば、定型発達の人と寿命は変わりません。むしろ、発達障害の人のほうが健康だったりします。」(広瀬医師)

これは半世紀以上も自閉スペクトラム症の人を見つづけた医師から聞いた話ですが、自閉スペクトラム症の人たちは、少しでも具合が悪いとすぐ病院に行くそうです。『人よりこだわりが強い』『新しいことが苦手』『無理をしない』という自閉スペクトラム症の特性が、健康維持に役立つのです。」(同)

広瀬医師は、発達障害の人は、生きづらさを乗り越えると、とても落ちついた日々を過ごすことが多いと解説する。大人になって健康オタクになる傾向もあるようだ。ほかには、発達障害が犯罪を起こしやすいという都市伝説がある。果たしてどうなのか。

「よく聞かれる質問ですが、答えはNOです。発達障害だから、犯罪を起こしやすくなることはありません。『発達障害の人は犯罪を起こしやすい』という偏見があるとしたら、それは発達障害の人が1度でも犯罪を起こすとニュースになりやすく、世間に強烈な印象を与えてしまうからでしょう。」(広瀬医師)

「発達障害の人が犯罪を起こす可能性が高くなるのは、トラウマや逆境体験がある場合です。具体的には仲間はずれ、いじめ、虐待、性的な被害の経験を指します。これを、『発達障害プラスアルファ』といいます。犯罪は二次障害の行きついた先ですので、周囲の人との関係によって犯罪に走るはるか手前で予防をすることができます。」(同)

本書は、発達障害の入門書になる。障害についての基礎知識をやさしく説き、さまざまな症状や子育ての悩み、集団生活、二次障害に関する不安、専門機関での支援についての疑問などを丁寧に解説している。この機会に正しい理解をしておきたい。

尾藤克之
コラムニスト

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