五輪向けサマータイムは結局、廃案か

2018年09月08日 06:00

日本中心の軽率な思い付き

2020年夏の東京五輪向けに、安倍首相が自民党に指示したサマータイムの導入検討は、無理が多く、撤回されると考えたほうがいいでしょう。この夏の猛暑に驚いた森大会組織委員会(IOC)会長と安倍首相がだれかの思い付きに乗せられたのでしょう。「面白いそうだ」というスローガンに飛びつき、関係部署に指示を出したがる安倍政権の軽率さによるのでしょうか。

首相官邸サイトより:編集部

自民党総裁選が7日に告示され、20日の投開票ですから、安倍首相は出したばかりの指示を引っ込めるには、タイミングが悪い時期です。北海道が地震で全道停電、死者と行く方不明35人という時にサマータイム案の撤回発表でもありますまい。10日に延期された所見発表、候補者記者会見あたりで、撤回を匂わすか、「検討継続」とかいって、結局、断念という流れになるのでしょうか。

日本を代表するコンピュター・エレクトロニクス企業の元役員で、工学博士号を持つ知人が一刀両断です。「検討にも値しないくらいくだらない案だ」と主張します。コンピュターには時間が組み込まれています。人間の生活時間を2時間、早めるだけでいいという単純な話ではありません。コンピュータの専門家の意見が必須なのに、五輪組織委がかれらの意見を事前によく聞いたとは思えません。

私の知人の意見はこうです。「サマータイムは世界で廃止の方向です。これから日本がやることは時代の逆行です」、「20年ほど前に、通産省(当時)が検討し、デメリットが大きいとの結論だ」。実際に、欧州連合(EU)では廃止論が高まり、「経済効果は疑問、健康に悪影響」と分析しています。

2時間のサマータイムは論外

さらに重要なのは、「世界のサマータイムは繰り上げ1時間でシステムができ上っている。森提案では繰り上げ2時間。世界のサマータイム基準を利用できない。日本だけで新システムを開発しなければならない」。マラソンのスタートを午前5時に繰り上げるために、繰り上げ2時間という変則的な案です。

日本人も5時に起こしてテレビを見させ、あるいはチケットを売り切るには、生活時間も繰り上げる。競技時間だけ涼しい早朝に設定しても、チケットを買う観客がこなければ、売れ残る。いっそのこと、サマータイムの導入すれば、全て解決すると、思ったのですかね。

いかにも思い付きと思わせるのは、さらに「五輪が終わると、その2年後にサマータイムを元に戻す。ナンセンスきわまりない」と、知人は指摘します。コンピューターが世界中でネットワークで接続され、1日24時間に2時間をプラスマイナスし、1日22時間の日と26時間の日を設定し、金利、給与なども計算します。航空機や鉄道のダイヤの変更も必要です。

日本だけいじっても、サマータイムは導入できないのです。「日本の夏は暑いから、マラソンは午前5時のスタートにしよう。だから頼む」では通らないのです。しかも、19年から試行するといいます。そのためには、秋の臨時国会に法案を提出し、成立後、準備に残されている期間は半年しかない。

コンピューターが鍵握る

マイクロソフト社は、「夏時間へのシステム変更は1年以上、準備に時間をかけるように」と、いっています。グローバル化の時代です。森、安倍両氏は、世界に日本がつながっていることは念頭にないのですかね。こんな意識で、他の重要問題にも対処しているのではないかと疑いたくなります。

五輪の開催時期、競技の放映時間ついては、米国のテレビ業界が決定権を握っています。かれらの最も儲かる日程、時間帯に競技を設定する。日本が急に「サマータイムの導入で、競技時間を2時間、繰り上げる」と通告すれば、IOCもテレビ業界も「分かった」といってくれるのでしょうか。

問題の発端は、五輪の開催時期を猛暑の7,8月に設定したことです。米国における放映時間の都合で決めたのでしょう。日本が応募するなら、10月あたりに時期をずらすことを条件にしておくべきでした。少なくともそういう事前交渉をしておくべきでした。五輪開催を熱望するあまり、国も都も拙速でしたね。そのつけが回ってきているということでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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