書評「45歳の教科書」

城 繁幸

人生100年時代にキャリアと人生をより豊かにするためには何をするべきか。著者の豊富な人生経験をベースに万人向けにわかりやすく解説したのが本書だ。

およそ1万時間で、人は一つの仕事に習熟するという。人にもよるがだいたい5年前後。そうして著者はまず20代のうちにキャリアの最初の軸足を固め、一歩目の足場を作れと説く。

そして30代でもう一つのキャリアの足場を固めれば、両足で安定的にライフラインを確保できるようになる。そのうえで40代以降に思い切って3歩目を踏み出し「キャリアの大三角形」を形作るというのが本書の基本戦略だ。

その大三角形がしっかり構築できれば、後半生は美学や志といった独自の物差しにそってキャリアを高めていけるようにもなるとする。

ちなみに著者自身の職歴でいうと以下のようになる。

私の場合、リクルート時代の最初の5年で営業とプレゼンの技術を磨いて「1歩目」の足場を確保した後、その後の10年でリクルート流のマネジメントをマスターし「2歩目」を固めました。この2つの掛け算で、1万人に1人の希少性は確保したことになります。この後私は会社を辞めて、自営業者としてリクルートとプロ契約を結びました。

ですがこのままでは、後から排出される若手たちによって、私の希少性はどんどん下がっていくだろうということも予想していました。そこで「営業とプレゼン」×「マネジメント」の式に、もう一つ、決定的にユニークなキャリアを掛け合わせようと考えたのです。

試行錯誤の結果、私は公教育の分野に踏み出し、教育分野の改革に取り組むことを選びました。そして東京とで義務教育初の民間校長となり、5年間の任期を務めたことで、1万人に1人から100万人に1人、オリンピックのメダリスト級の1人となれました。

おそらく転職を伴うであろう“3歩目”についてはためらう人も多いかもしれない。だが著者のアドバイスはシンプルで「取締役にまで上がれるならともかく、40代半ば以上からは『転職・独立』と『組織に留まること』のリスクはほぼ同じ」というものだ。

なぜならいよいよ大きく踏み出してキャリアの付加価値を高めるべきタイミングでそれを放棄し、会社に生殺与奪の権限を握られた状態でキャリア後半戦を過ごすことになるためだ。それを“安全”とはとても言えないだろう。

ちなみに筆者の経験上も、定年退職して一気に衰える人、ボケる人というのはたいてい役職定年などで10年ほどボーッと消化試合していた人で、65歳でリリースされる頃には抜け殻みたいになっている人だ。自分でやりがいのある仕事に移ったりコミュニティ立ち上げたりしている人でおかしくなっている人には会ったことがない。

本書も言うように、現在の終身雇用制度は「夏目漱石が49歳でぽっくり死んだように、40代で一仕事終えたらあとは余生」という時代の人生観を引きずったままだ。でも40代で出世競争にかたがついても、50代で役職離任させられても、人生はあと30年以上続くのが現実だ。その30年を実りある豊かなものにするには自分でなんとかする以外にない。

本書はタイミング的に40代半ばに差し掛かる団塊ジュニア世代にドンピシャのキャリア・人生指南書となっているが、誰でもいずれは通る道なので20代が読んでも大いに刺激となるだろう。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年9月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。