新宿区の警察への個人情報提供は、記者会見も中身も問題だ --- 藤原 家康

2018年09月20日 06:00

8月23日、新宿区は、区内4警察署(新宿署、四谷署、牛込署、戸塚署)との間で、区が各警察署に、65歳以上の区民の情報(氏名、フリガナ、住所、生年)を提供する合意を締結し、また、プレスリリースを行った。

新宿区は、65歳以上の区民に通知を送付し、提供を拒否する場合は同年10月5日までにその旨を区に通知し、同日までに拒否の通知がない区民及び区からの通知が届かなかった区民を除いた区民の上記各個人情報を名簿に記載し、同年10月中旬に上記4警察署に提供するとしている。

警察は、65歳以上の区民宅の戸別訪問を行い、特殊詐欺被害を防止するため、注意喚起、電話機に関する留守番電話機能の設定、自動通話録音機の貸出をするとされている。

この個人情報の提供は、私生活における情報をみだりに開示するもので憲法上のプライバシー権を侵害し、また、新宿区個人情報保護条例12条2項(4) の「実施機関が特に必要があると認めたとき」の要件を満たさず違法であるものと考えられる(その理由は、8月18日の私の投稿「我が新宿区で『市民の自由』を侵害する2つの問題」のとおりである)。8月3日付けで自由人権協会が、また同月22日付けで第二東京弁護士会が、9月7日付けで東京弁護士会が、上記の侵害や違反を指摘し情報提供に反対する声明を出した。

私は、市民記者として、上記の合意の締結及びプレスリリースの取材をしたが、残念ながら、取材への対応を含め、区の対応には極めて疑問が多かった。

まず、取材についてである。

私が、事前に、フリーの記者の取材が可能かを、担当である区政情報課に確認したところ、直ちに回答が得られず、その後、フリーの記者の取材は可能であると述べつつ、記者会見があることをどのように知ったのかとの質問がなされた。当日、私が会見場に赴くと、区政情報課課長の村上京子氏が、やはり、記者会見があることをどのように知ったのか、と尋ねた。

村上氏は、この質問をする理由は、記者会見の日時は公にしておらず、フリーの記者が何百人も来ると困るからである、と述べた。しかし、当日、記者は、全部で約5〜6名であり、フリーの記者が何百人も来るなどということはおよそ具体的に想定されない。

さらに、村上氏は、フリーの取材は今回は特別に許すが、今後は許可しない、と述べた。新宿区は、いつから、このような閉鎖的な組織になってしまったのだろうか。また、このようにフリーの取材を頑なに拒む姿勢は、この情報提供によほどの問題があるということを区が認めるものであるとも解される。

村上氏から、締結と写真撮影が終わったら流れ解散であるとの説明があった。記者からの質問を受け付けない記者会見が、あり得るのだろうか?

吉住区長と4警察署長が入室し、吉住区長が締結の経緯につき説明し、また締結が行われた。締結後、別室に移動し、吉住区長と4署長(あと、ピーポ君らマスコット)での写真撮影が行われた。写真撮影の際、誰からも、一言もなかった。他の記者から、署長からも一言お願いします、との声があったが、同様であった。

撮影が終了し、村上氏から、「それでは終了です。お疲れ様でした」とのアナウンスがなされた。私は、記者からの質問の機会があるべきではないか、この情報提供には問題がある、と述べた。すると、しばしの静寂の後、区長が対応するという話になったが、4警察署長は退室し始めた。私は、署長にも質問がある、と述べたところ、村上氏は、時間の関係で対応できない、機会を改めて対応する、と述べ、私が、それではいつ対応可能なのかと尋ねたところ、回答はなかった。

そして、村上氏は、「フジテレビさんとの約束がありますので、質問はその後にお願いします」と述べた。記者によっては約束をして対応をしていることを伏せて、市民記者に質問をさせまいとしていたものと言わざるを得ない。

そして、情報提供についてである。

吉住区長は、オプトアウト(情報提供に拒否する意思表示をした人の情報は提供せず、その他の人の情報は提供する)で同意を得る、と述べていたが、これが誤りであることは、これまでも指摘されてきたとおりである。すなわち、同意は、オプトイン(情報提供を了承する意思表示をした人の情報を提供し、その他の人の情報は提供しない)で行われる必要がある。オプトアウトは、同意として上記条例においても定められておらず、オプトアウトを経たから同意があるということにはならない。

そもそも拒否の意思表示ができない場合もある。例えば、長期不在にしている場合、知的障害を有する場合が挙げられる。なお、民法上、成年被後見人は受領能力がなく、意思表示の送達は原則として成年被後見人に対抗できないが(民法97条)、今回の情報提供は、各人の能力によらず一律に対象者に発送するものであり、そもそも不合理である。

本件においては、オプトインで同意を得るのが本来であり、それを避ける理由はなく、かえって、オプトインで同意を得ないことは、対象者各人の意思を尊重せずに、また同意なく、区長の意思で対象者の情報を提供することを意味し、情報提供の問題を窺わせるものである。

そもそも、特殊詐欺被害にあいやすいとされる高齢者が必ずしも十分な判断能力がないことを前提として戸別訪問などの対策をするとしつつ、他方で、オプトアウトについては、戸別訪問せず郵送した書面のみで、拒否する場合には拒否の意思表示を明らかにする書面を出さない限り情報提供する、というのは、背理であるというべきである。

また、吉住区長は、警察官による戸別訪問、及び、留守番電話設定、自動通話録音という方法は、警察から特殊詐欺被害防止に有益であると聞き行うことにした、その資料も得ている、と述べた。しかし、これは、吉住区長が、警察からの話を十分な検証なく実現したことを窺わせ、このことからも、本人の同意なく個人情報を提供することが特殊詐欺被害を防止するために特に必要であるとはいえない。

加えて、吉住区長は、4警察署については情報流出のおそれはない旨を述べたが、これには何らの根拠がない。

新宿区と4警察署は、直ちに、合意を見直し、情報提供を取りやめるべきである。

弁護士 藤原家康

藤原 家康  (ふじわら・いえやす)弁護士
1976年生まれ。2001年弁護士登録(第二東京弁護士会)。出生から現在までの間の約30年、新宿区に居住。2013年、藤原家康法律事務所を開設(事務所サイト)。

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