放送改革は議論からアクションへ

中村 伊知哉

規制改革会議が放送制度改革も含めた7分野計120項目の第三次答申を安倍総理に対して行いました。
新たなプラットフォームの構築、新規参入促進、ローカル局の経営基盤などが柱となっています。
年末から今春にかけて、放送法4条の撤廃やハード・ソフト分離の強制といった「噂」が流れ、関係業界が騒然としていたのですが、妥当な線で落ち着きました。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/p_index.html

その後、総務省にて放送諸課題検討会・放送未来像分科会の報告書がとりまとめられました。
規制改革会議と並行しつつ、より掘り下げた検討をしてきたものです。
ぼくは双方の会議に関わり、特に放送・通信融合に関する展望と対策について意見具申してきました。
結果、よい方向に議論が進んだととらえています。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000530308.pdf

ぼくとしては12年前に通信・放送の抜本的な法体系見直しを論じたいわゆる「竹中懇談会」や地デジ整備に向けた「ダビング10」問題に携わって以来の放送政策への参加でした。
でも当時としてはあまり政策テーマは変わっていません。そこが課題であります。
総務省会議の報告では、以下のような施策が並んでいます。

1. 周波数有効活用の技術的対応
・ホワイトスペースの利用拡大、V-Highの融合サービス検討

2. ネットワーク変革
・放送、通信インフラ、クラウド等の関係者による協議の場の設置

3. サービス多様化・高度化、ネット連携
・コンテンツ産業活性化(人材育成、制作支援、海外展開支援、権利処理円滑化)
・融合サービス推進(視聴データ活用、新映像配信実現)

4. 情報提供体制の確保
・ローカル局経営基盤強化の検討 など
おおむね妥当だと考えます。
とりまとめに当たり、ぼくは3点コメントしました。

1) 放送通信融合サービスの本格展開と、コンテンツ海外展開、この2点が今後も重点事項。
これらはサービス、ビジネスの展開であり、民間の問題。
こうしたことにプロアクティブに取り組むプレーヤーを後押しすることが政策の役割と考えます。

2) 融合サービス推進について、視聴データと映像配信の2点が掲げられいることに同意します。
特にデータは、通信や放送との最も本質的な違いとなりつつあります。
通信はデータを使ったAIの学習が蓄積され、それが競争力を左右します。
一方、放送は全国民をユーザとしながらデータを使えていません。
すべての産業がデータ主導に構造が変わる中で、放送のデータ利用は重要なテーマとなります。

(この点に関し報告書は、ビッグデータを利活用促進するため、実証実験やルールの策定を施策として掲げています。是非進めていただきたい。)

3) 先ごろKDDIとネットフリックスが提携してセット料金を発表しました。
ただ米Tモバイルが導入したようなデータ無制限のプランは導入しませんでした。
それは「ネットワーク中立性の観点で日本はグレーだから」、とKDDI高橋誠社長が述べたとされています。
となると、トランプ政権による昨年末のネット中立性撤廃が日本にも波及すれば、通信による映像配信が大きく進む可能性があります。
通信政策によって放送のありようが大きく左右されます。
放送通信融合を考える場合、放送政策と通信政策との融合、コンテンツ政策とICT政策の融合が非常に重要になっています。
政府にはぜひその認識をお持ちいただきたい。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。