今こそ移民開国の決断を:なし崩しでは禍根を残す --- 坂中 英徳

2018年12月08日 06:00

外国人材の受け入れ拡大に向けた出入国管理法改正案が8日未明、国会で成立した。

10月に改正案の骨子が示されて以降、政府が移民政策をとることを快く思わないメディアは、「単純労働に門戸開放」などと「単純労働」という言葉を使いつつ、反移民の世論を煽ってきた。

写真ACより:編集部

しかし私は、政府の新方針は、「熟練した技能を持つと認定された外国人に限って日本での永住を認め、家族の帯同を認める、事実上の移民政策への転換」と認識するのが正しい見方であると考えている。

政府が在留資格の創設を検討してきたのは、農業、介護、飲食料品製造業、建設、造船・舶用工業、宿泊、外食、漁業、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械産業、電子・電気機器関連産業、自動車整備、航空である。みな、専門知識・技能・技術を必要とする職業であり、いわゆる「単純労働」ではない。もちろん入管法の世界に単純労働という概念は存在しない。在留資格に該当する活動はすべて一定の知識や技術を要するものである。

産業史をさかのぼれば、狩猟採集時代・農業革命時代・産業革命時代のいずれの時代も、「単純労働」も「複雑労働」もなく、人類は知恵をしぼって最善の産業技術を駆使して生き延びてきたと私は認識している。「単純労働」という表現を用いる日本の新聞記者や知識人は、自分は専門知識を必要とする特別な職業に就いていると考えているのかもしれないが、農業・工業・商業などの実業に就いている人を見下す本音が出たのではないか。ひいてはそれは実業に就いている日本人の心を傷つける職業差別につながると指摘しておく。

今日、主要移民国家においては、さらなる移民の受け入れの是非が国を二分するほどの政治の争点になっている。しかし、国会で「移民開国」か「移民鎖国」かの議論さえ行なわれていないのは問題だ。政府はこの期に及んでも「移民政策はとらない」という立場を崩していない。政治家が移民問題に触れることをこれほど忌避するのは異常だ。

日本は、戦前は人口の過密や急速な近代化による農村の疲弊と過剰労働力などの事情を背景に、大量に移民を送り出す政策をとる一方で、永住を目的とする移民と、移民に結びつく可能性のある外国人労働者の入国を厳しく制限してきた歴史的経緯がある。戦後も同様に、移民と外国人労働者の入国を原則として認めない政策をとってきた。

しかし、最近の世論の動きを見ると、若い世代を中心に、移民受け入れに賛成する人が飛躍的に増えてきている。

国の基本方針の歴史的転換を行なう以上、その賛否については国民的議論が行なわれるべきである。それをせずに、なし崩し的に移民国家へ移行してしまっては、その正当性も問われるし、さまざまな摩擦や混乱など、日本の未来に禍根を残すことになる。建設的な議論を重ね、多くの国民の賛同を得て誕生する移民国家であれば、健やかに発展するであろう。

坂中 英徳(さかなか ひでのり)元東京入国管理局長、一般社団法人・移民政策研究所所長。
1945年生まれ。1970年、慶応義塾大学大学院法学研究科修士課程終了。同年法務省入省。東京入国管理局長などを歴任し、2005年3月退職。同年8月に外国人政策研究所(現・移民政策研究所)を設立。法務省在職時から現在まで、在日朝鮮人の処遇、人口減少社会の移民政策のあり方など一貫して移民政策の立案と取り組む。近年、50年間で1000万人の移民を受け入れる「日本型移民国家構想」、全人類が平和共存する「人類共同体構想」を提唱している。著書に「新版日本の移民国家ビジョン」(移民政策研究所)など。移民政策研究所サイト

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