平成最大の過ちは金融財政危機の放置

2018年12月29日 06:00

泥沼の米欧も株価の乱高下

米国を震源地とする株価の急落で、日本では来年10月の消費税10%の先送り観測が早くも、流れています。先送りすれば、財政再建はさらに遠のきます。異次元緩和の出口も遠ざかります。安倍政権にとって試練の年明けになるのでしょうか。

12月20日、今年最後の月例経済報告に出席した安倍首相=官邸サイトより、編集部

19年度予算案をながめてみますと、歳出総額は過去最大の101兆円、社会保障費も最大の34兆円、防衛費も最大の5兆円、国・地方の借金残高は1122兆円でこれも最大、GDP(国内総生産)比は200%で先進国最悪という数字が並んでいます。

財政制度審議会が平成30年間の財政運営に対し、「受益の拡大と、負担の軽減・先送りを求める圧力にあらがえなかった時代」と、総括しています。与党からの圧力に財務省が抵抗力を失い、毎年、借金が積みあがってきました。

国債という借金の返済は主に次世代にのしかかってきます。日本という親子共同住宅、あるいは3世代住宅をローンで気前よく建て、その返済は子供らに任せるという構図でしょう。次世代も危機感に乏しい。野党も頼りにならないので、次世代も選挙で与党に投票をする。危機が破裂しないと、本当の危機感が生まれてこないという繰り返しです。

危機の深刻化を知りながら、政権の延命策と選挙対策を優先し、口先だけの「財政再建」を連呼し続けた責任は安倍政権にあります。欧米も財政金融危機の泥沼から足を抜けない。ですから安倍政権が「日本だけが急ぐことはなかろう。どこの国も政権の安定を優先している」と考えたとしても、責めるわけにはいかないというのも確かです。

抵抗力を失った財務省

安倍政権になって任命された日銀総裁のもとで、日銀が大量の国債を買い支え、財政危機を表面化させないことを実質的な任務にしてきました。財政審の警告にあるように、抵抗力を失った財務省も悪ければ、「2%物価上昇の実現まで異次元緩和を続ける」と、いい続けている黒田総裁にも責任があります。

「他国も泥沼だから」という妙な安心感に当事者がとらわれたとしても、日本の危機は欧米以上に深刻です。元財務官僚の野口悠紀雄氏(財政金融学者)が具体的に数字を挙げて、「日本の金融政策が正常化に向かえば、利払い費が急増し、財政破綻は免れない」と、批判しています。

野口氏らに対しては、「オオカミ少年のような言説だ」との反論が絶えません。「何度も同じような警告を発してきたのに、危機は表面化しなかった。危機対策より、今をしのぐことが先だ」の合唱に、正論はなかなか勝てません。

野口氏の試算をもとに、丸い数字で申し上げます。100兆円の予算総額に対し、現状では「国債費(利払い費と償還費)は24兆円。うち利払い費は9兆円、償還費(国債返済)は14兆円、平均利回り1%」です。日銀の超低金利政策によって、利払い費はこの程度で済んでいます。

金融正常化で利払い費は急増

米国すでに超低金利政策を転換し、欧州も時期を探っています。欧米に後れをとっている日本も、やっと首相が「異次元緩和政策を転換(出口)」を匂わせるようにはなりました。金融正常化で国債金利が3%上がったすると、「利払い費は23年度に現在の3倍の30兆円に跳ね上がる。国債の償還費14兆円を加えると、国債費は計44兆円。予算を組んでも、半分近くが利払い費と国債の返済で消える」。

社会保障費、防衛費、公共事業費もばっさり、切らなければならない。つまり財政破綻です。それが怖いから日銀は国債購入を止められない、超低金利政策をやめられない。どこかで止めなければ、日銀が破綻しかねない。理論的には分かっていても、危機が破裂しないと、危機に気がつかないのです。

「財政は政治に任せず、監視の独立機関を」(小林慶一郎・慶大教授)との提言が聞かれます。「英国では財政責任庁の創設、豪州では50年先までの財政見通しの公表」などの具体例をあげています。欧州連合(EU)は財政節度を守らせるルールを作っています。日本の政界はのんびりしたものです。

年末にきて、米国の株式市場が乱高下し、日本にも波及し2万円割れです。そのもとをたどれば、マネーの過剰な供給です。世界の債務残高(政府、企業、家計、金融機関)はリーマン・ショック(世界金融危機)後、10年で4割増え、250兆㌦に達しているそうです。

経済危機、株価暴落が起きると、財政や金融政策が発動される。落ち着いたら正常化を急ぐべきなのに、選挙に不利と考える政治がそれを許さない。危機の度にマネーが追加供給され、マネー市場に滞留する。悪材料がでると、過剰マネーが氾濫を起こす。危機対策のマネーがまた供給され、肥大化したマネーが新たな危機の震源地となるという繰り返しです。

日本では、消費税10%(19年10月)の先送り観測が浮上しています。先送りすれば、財政赤字の拡大に歯止めがかからない。異次元金融緩和の道に踏み込んでしまうと、戻るに戻れない。戻ろうとすると、経済危機が起きる。そういう警告は無視され続けてきました。安倍政権がまたしても、財政金融政策の正常化の先送りに追い込まれることがないよう願っています。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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