働き方改革は外国人人材で実現するが、道のりは遠い --- 橋口 久

2019年01月19日 06:00

現在、大連発上海行きCZ6525便で空の上にいる。上海に着くまでの間、初めてとなるアゴラへの原稿を書いてみようと思う。

私は長崎県で保険代理業を営んでいるが、2013年から中国の保険ブローカー会社(仲立人)と協業で大連に拠点を構え、中国に進出した日系企業の企業保険仲介におけるコンサル業を行なっている。中国で働く中で感じる日本の「働き方改革」と「外国人人材」について私見を述べてみたい。

外国人労働者拡大の成否が問われる2019年(画像はイメージです:編集部)

中国人は残業を全くしないわけではないが、日本人と比較すると、気持ちいいくらいに定時にスパッと退社する。退社することを「下班(シャーバン)」と言うが、そんな気持ち良過ぎる下班のエピソードがある。中国で事業を始めて間もない頃だ。

ある日系企業の保険契約満期更新日、中国大手保険会社とメールと電話でやり取りをしていたところ、まだ保険更新手続きが成立しないまま、保険会社担当社員が退社してしまった。定時の17時半になったからだ。業務完了前の定時退社も驚いたが、それでこの国が回っていることの方に驚いてしまった。

例えばこのような中国人が来日し、日本企業で就職するとどうなるだろうか。自分の人生は仕事中心ではないと思いながらも泣き寝入りするか、「日本の働き方」に嫌気がさして帰国するかのどちらかだろう。

しかし、その日本企業の半数が中国人だったらどうなるだろうか。恐らく中国人社員で結託し、企業経営者に対し「働き方改革」のデモを起こしてくるだろう。つまり、「働き方改革」は、「わかっちゃいるけどやめられない」日本人だけでは難しく、「外国人社員の数の力」を借りることで、日本は抜本的な改革ができると期待している。

夏のノーネクタイも、政府指導でないとネクタイを外せなかった国民性である。通説として世に広まっているペリー黒船来航の歴史観で例えれば、日本の「働き方改革」は、黒船来航でやってくる(もちろん中国人だけではない)外国人の外的圧力により改革するのが一番効果的なのだ。

しかし、今回政府が打ち出した技能実習制度で来日する中国人は、いくら数の力があってもデモまでは発展せず、当然「働き方改革」にも至らない。今週、私は中国のある都市にある国営の技能実習生派遣企業を訪問し、日本への派遣前に3、4ヶ月の研修を受ける全寮制の施設を見学した。

施設に入ると20代から40代までの地方出身の中国人が立ち止まり、「(私は先生ではないが)先生、こんにちは!」と笑顔で元気に挨拶をしてくれた。比較的貧しい家庭環境にある者たちが、日本での就労で人生を変えようとする前向きさと、朝5時半の起床から22時の就寝まで、全て時間割が組まれた行き届いた教育体系。それがとても調和していて、清々しい気持ちとなった施設訪問だった。

しかし彼らがどれだけ来日しても、彼らに日本の「働き方改革」を後押しする力はない。それは、その派遣企業の総経理(社長)の言葉が全てを物語る。

彼らは最低賃金で働かせられますから、それなりの資金を貯めるには、残業をたくさんするしかないんですよ

私の前職は、東京にある日本語教育機関の事務長だった。事務長時代の大きな仕事の1つは、海外からの学生募集だった。2000年前後、主に東アジアを市場としていたが、中国は16都市を周りながら学生募集活動をしていた。当時の中国は国内の大学に入学できる数が限られていたため、国内の大学に入学できない若者は、海外留学で人生を変えるチャンスを掴もうとしていた。その中でも日本は魅力的な留学先だった。それは、他の留学先には珍しい「アルバイト(資格外活動)ができる国」として認知されていたからだった。

よって、日本を目指す若者の多くは、比較的貧しい家庭環境で育ち、両親も日本でのアルバイトで稼いだ仕送りを期待しているケースが多かった。特に中国東北部はそれが顕著だった。つまり、比較的裕福で学力も高い若者は欧米を留学先として選び、経済力も学力もそれに劣る若者が日本を目指す構図だった。

また、そのような現状を逆手に取り、高い仲介料取る悪徳留学斡旋ブローカーも横行した。仲介料には偽造書類作成費用も含まれていた。事実、2000年の頃だが、最終学歴が中卒の者が高卒と偽り日本に留学できた事例も把握している。

現在の技能実習生の斡旋業者の一部が、2000年前後に横行した悪徳留学斡旋ブローカーの再来とならないかと危惧している。中国には、実習生の募集面接の時だけテナントを借りる斡旋業者もいる。大連の私の事務所が入るビルにも、短期的に事務所の程をなして外部からの信用を取り繕う斡旋業者の入居がある。私が中国で留学斡旋業者を選定していた時は、初回訪問は必ず抜き打ちだった。実態を確認するためだ。

Facebookのプロフィールを経営者としていると、アジアの国から友達申請と共に、「人材は必要ありませんか」と流暢な日本語でメッセージが届く。そこで、性善説に立つ日本人経営者がその会社を通して人材を確保し、人材不足を解消させる。しかし、実習生の彼らが現地で高い手数料をブローカーに支払っていることを経営者は知らない。実習生たちは仕送りの他に、親族に借金をして払った手数料の返済のために残業して働く。

日本の「働き方改革」には、外圧から変革する黒船来航が効果的である。しかし、黒船に乗ってやってくる外国人人材が最低賃金と残業を求める人々ばかりでは、人材不足は解決しても、「働き方改革」と国益には繋がらない。世界から「選ばれる国」となる道のりは遠い。

橋口 久 地方中小企業経営者
都内の日本語教育機関勤務の後、2006年に長崎にUターンし、実家の保険代理業を継ぐ。2013年に中国の保険ブローカー会社と協業で大連に進出。日本と中国を行き来する中で、海を越えても共通する人の温かさに心を打たれ、海を越えるだけで大きく変わる人の価値観と行動に大きな刺激を受ける。

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