ゴーン事件総括:20のポイント(特別寄稿)

2019年02月20日 16:00

日産公式サイト

①ゴーン事件報道の歪み

ゴーン事件についての報道は検察などからのリークと、日産という大広告主への忖度で著しく歪められている。本問題の処理を誤ることは、中国や韓国とのパワーバランスも含めた日本の外交的地位、日本経済への信頼を損ねるし、司法制度の非常識が知れ渡ることで、米軍との地位協定の改定などにも非常に大きな影響があると危惧される。

②外国人だから逮捕された印象

ゴーン逮捕の容疑は「法廷ではなく役員会で扱う問題のように見える」「(ゴーンの意見陳述は)検察が明らかにしている証拠よりも説得力があった」(ワシントンポスト)。金取法は粉飾決算などの防止が目的で報酬について日本人役員が問われた例はないし、特別背任は日本人なら時効(7年)になっているものでないか(外国滞在期間は時効が停止するがこれは海外逃亡を防ぐ趣旨のはず)。「外国に生活拠点があり逃亡の恐れがある」(勾留の理由として裁判長が上げる)というのもまずい。

③容疑はいずれも犯罪とはいえない

金取法違反の将来のコンサルタント料とか競合会社への就職回避への補償が確定したものとは言い難い。日本人社長なら第一線退いても面倒見てるからその代わり。約束自体は全く違法でなく、記載しななかったことなら西川社長にも同等の責任あり逮捕や起訴をしないことは企業内の抗争に司法が片方に肩入れしたことになる。中東での販売は飛躍的に伸びておりエージェントへの支払いが不当だったとはいえない。社宅や親族への支払いは不当性を立証できず起訴すらできなかった。

④西川社長の年俸は5~7億円!

経営者への高額給与や役得は英米では当然、日本では徐々に給与には甘く役得には厳しくなりつつあり、フランスでは社会的批判が高い。ゴーンはルノーからは得られず日産からヤミ給与的に引き出し、それに西川社長らは協力した。西川社長の2017年の給与は検査不正で5億円で平年ベースでは約7億円(トヨタのフランス人副社長10億円)。また、ゴーンはかつての日産幹部の役得の大きさを自分が廃止したと強調。

⑤ゴーンの日産再建は首切りで実現したものでない

ゴーンの経営者としての成果は、単なる首切りでのみ上がったものなどではなく前向きに選択と集中を実現させた模範的なものであるし(取引先の集約、グループ内での棲み分けが主たる手法)、再建期だけでなく、現在に至るまで世界的に非常に高く評価されている。一方、日産はかつての労組支配(塩路労組委員長が経営を壟断)や接待体質(銀座に本社があったことがすべてを象徴)など問題が多かったのをゴーンが横浜移転などで改善。

⑥ゴーンは欲は深いが合法性の確保には慎重

ゴーンは世界的基準での報酬が得られないことに不満。そこで実質報酬の拡大には熱心。しかし、合法性の確保には極めて慎重。技術屋なので浮利は追わず。生活はけたはずれに贅沢とはいえず。リオやベイルートは治安が悪いので迎賓施設を兼ねたレベルの高い社宅保有には一定の合理性があるし、しかも、南米や中東でビジネスをしており業績も伸びている。新しい妻を迎えて生活スタイルが変わってきたのは事実だが。

⑦フランス人としての意識はない

ゴーンはブラジル生まれのレバノン人で、レバノンとフランスで教育を受け、ブラジルとアメリカと日本とフランスで働いた。多文化や企業の個性を尊重することで評価されておりグローバリストではない。ルノー民営化の過程でアメリカ・ミシュラン社長からスカウトされる(国籍はもともとレバノンとブラジル。ルノー経営者就任時に便宜上フランス国籍も取得。フランスのエスタブリッシュメントではないし忠誠心もない)

⑧マクロンはアンチ・ゴーンだが日産には警戒

ゴーンは日産からヤミ給与もらって日産の利益を不当に図っていたというのが基本図式だからフランスは擁護はせず。ただ、ルノーでの法的責任には消極的。ベルサイユの結婚式は宮殿の請求忘れ、誕生日に合わせたパーティーは悪印象はあるが法的問題なし。退職金は「黄色いベスト運動」対策で減額。ただし、ゴーンをだしにして日産がルノーの利益を毀損することは絶対に許さないし、その範囲でゴーンの早期釈放を望む。

⑨ルノーが救済しなかったら日産は倒産していた

日産は良い車を作っていたものの、労組支配(塩路労組委員長が経営を壟断)や接待体質(銀座に本社があったことがすべてを象徴)で赤字をつづけ、ダイムラー・ベンツとの提携交渉も断られ、倒産寸前だったのをルノーのシュバイツェル会長の英断で地獄で仏チックに救済される。ゴーンは塙社長の指名で招聘された。(ダイムラーと提携した場合は子会社にならざるを得ずルノーだからこそ自主性が確保された)

⑩ゴーンは日産からの一種のヤミ給与でルノーの利益を毀損

その後、ゴーンはルノー会長も兼任するようになったが、日産を自分の砦としてルノーの最大株主であるフランス政府の意向にも従わずマクロンは任期延長に難色。結局、ポスト・ゴーンの三社連携が不安定にならないように①後継者を育てること②三社連合の形を整えることを要求。ゴーンは子会社化を避けるために持ち株会社方式を模索し昨年の春に西川社長にも相談。基本的に日産の独自性の守護神がゴーンである状況は変わらず。

⑪力勝負なら日本人役員は追い出されるのでは

ルノーの持ち分は43.7%だが、ほかに大きな株主はおらず第2位はチェースマンハッタン銀行の3.7%であって事実上、過半数の株主と同様。力勝負になれば常識的には日本人役員は追い出さる。ただ、それでは、会社の価値が毀損するのでフランス政府、ルノーは軟着陸を希望。西川社長がいかなる打開策を持っているのかは誰も理解できない。あるとしても「江川の空白の一日」的な脱法行為しかないが世界の笑い者になる。

⑫西川社長の動機の謎

西川社長の動機は、①経営統合に反対するためにあと先考えずにクーデター②ゴーンから業績不振の責任を問われてクビが危ないと思った(明智光秀的)③ゴーンが嫌いでぷっつんした(もとのダメな日産に戻りたいという社内の雰囲気もあり)④相談した法律事務所からそそのかされた(本件で利益を得るのは法律事務所だけ。検察にも工作できる)、⑤米国や中国など漁夫の利を得る第三者の工作−−−などしか考えにくい。

⑬日産は経営統合の内容について条件闘争をすべき時

つまるところ、①後継者を育てること②三社連合の形を整えるべきというマクロンの要求は正論で、その議論のなかでいかに日産や三菱の利益を最大限にするかをめざすべき。そのためには、検察に頼ったり、株式の取り合いをするよりは、政府間で大枠を取引するのが明らかに賢明。ところが、日本側はそれを嫌うのはまことに不可解(世耕=ルメール、安倍=マクロン)

⑭日仏ウィウィンの解決こそめざすべき

本来の争点は、持ち株会社の株式構成、役員の権限と人選方法、ブランドをどうするか(ルノー・日産ブランドに統一?)、英国や韓国などの工場を縮小・閉鎖して日本とフランスの雇用を増やすことを模索するなどが考えられるはずなのに、頑なに既存の制度での枠内での粘り腰で対処しているが力勝負に拘ると二度とクーデター騒ぎを起こさせないようにルノー完全支配にされる可能性が大きいし、企業イメージも低下。

⑮日本の司法の問題点が世界にしれわたる

ホリエモンや江副浩正氏と違ってゴーンは世界的有名人なので、日本の司法制度の問題点が世界に知れ渡る。「否認すれば初公判まで家族にも会えず拘禁」「三回もの逮捕」「長期拘留」「弁護士の同席なしの取り調べ」「弁護人以外との接見禁止」「通訳を専任できない」「詐欺や私的金融取引を行った前歴のない世界企業のトップにではなく、暴力団の構成員にこそふさわしいもの(WSJ)」「暖房もろくにない畳の部屋」。

⑯韓国を笑えなくなる非常識で「地位協定」改定にも悪影響

「それぞれの国の歴史と文化があって制度がある。他国の制度が違うからといってすぐに批判するのはいかがなものか」(東京地検の久木元伸・次席検事)….中国や韓国を批判できなくなる。各国の制度も国際的常識から批判の対象となるのは当然だし、有名人への扱いを機に批判が燃え上がることはよくある。日本は死刑があることだけでも韓国より野蛮な国とヨーロッパでは思われている。日米地位協定の改定などにも影響してくる。

⑰日本外交への重大な悪影響

日本にとって欧州の重要性は直接には感じにくいが、世界全体の中での比重はアメリカに匹敵する。アメリカが不安定な中で最大の味方。欧州は日本か中国か迷っている。ここ2、3年は日本に傾いていたのを台無しにする可能性。マクロンは日本に好意的なのに冷や水(軍事協力・革命記念日パレードの先頭で自衛隊が旭日旗とともに行進・皇太子殿下への厚遇)。レバノンやブラジルでも国民的英雄であるので対日感情悪化につながっている。

⑱国粋主義的排外主義の恥ずかしさ

「官民協力してフランスから主導権を取り戻す快挙」という受け取りが喧伝されることはまずい。「完全に黒というより、限りなくグレーな状況にも関わらず、このタイミングで検察が動いた背景に、何となく日本政府の影を感じる」「菅官房長官や経産省出身の今井秘書官、それに世耕経産大臣などの安倍総理周辺の強い意向が働いた気がしてならない」「(ゴーン氏が)日産に復帰する目途が立たなくなった時点で、裁判で黒になろうが白になろうが、本質的には彼らには関係がない」という論評が経済産業省OBからも出る始末。

⑲日本経済への不信につながる

「合弁企業の外国側取締役を逮捕して、その隙にクーデターを起こして後戻りできないようにするのは、ナチスが野党議員を逮捕して全権委任法を成立させたのと同じ」「投資した分は配当でもう回収したはずだから出て行けという人もいるが、中国人でもそこまで株主の権利をないがしろにした言い方はしない」「優秀な経営者が日本で企業再建に成功して恩人といわれながらこれでは、有能な経営者は日本に来なくなる、あるいはより高く、かつ、短期にベネフィットを回収するようになる」

⑳ルノー関係者抜きでのルノー関係者のみを対象とした調査や決定の不公正

ルノー側関係者抜きでの意思決定による巨額費用を使ったルノー関係者のみについての調査やルノーからのゴーン等に代わる取締役や会長抜きでの各種意思決定はフェアでないし協定違反や違法行為が含まれる可能性が強い。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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