医療でのICT活用は患者のQoL向上のため

情報通信政策フォーラム(ICPF)では健康・医療・介護分野でのICT活用について連続セミナーを開催してきたが、先月末にまとめの会を開いて一段落した。最終回で強調したのは、ICT活用が患者・介護対象者・家族、そして医療・介護提供者の生活の質(QoL)に結びつくという点である。

健康な時期にスマートフォンアプリを通じてAI(人工知能)から生活指導を受けることは、生活習慣習慣病の発症などを予防する効果がある。将来、患者になる可能性が減る分だけ利用者のQoLは向上する。

近未来のAIホスピタルの構築

内閣府「AIホスピタルによる高度診断・治療システム推進委員会」より:編集部

生体センサで急な発症を検知する技術や、AIも活用して検査時間を短縮し心筋梗塞に急いで対応する技術が開発されている。これらも病状の進行を抑えて患者の日常生活への復帰を早める効果がある。

介護サービスは労働力に大きく依存するが、ICTを活用することで対象者の満足度は変えないままに労働力を削減でき、結果的に医療・介護提供者の生活も改善される。

ICT活用には医療コストや介護コストを削減する効果がある。医療や介護が必要となる時期を遅らせて人々が能動的に生活できる期間を長くしたり、医療・介護提供者の負担を軽減したりする効果もある。後者がQoL向上の側面である。

米国では21世紀医療法によって革新的な医療機器の認可が速くなった。Apple Watchが心電図計として利用され心房細動の早期発見が可能になったのは、この法律のおかげである。医療・医療機器の認可を担当する米国連邦政府食品医薬品局(US FDA)は「かねてより患者の視点を医薬品、生物学的製剤および機器の開発に取り入れるように努めてきたが、21世紀医療法によってその方向性はより明確になった」とサイトで表明している。

わが国でも『未来投資戦略2018』が「次世代ヘルスケア・システムの構築」を掲げた。具体策の一つが、個人の健診・診療・投薬情報を医療機関等の間で共有できる全国的な保健医療情報ネットワークであり、個人健康記録(PHR)のマイナポータルを通じての本人等への提供である。『未来投資戦略2018』の急激なスケジュールがその通りに進むか心配だが、これらの施策は患者等のQoL向上に直結するため期待したい。

マイナンバーカードを健康保険証として使用可能にする健保法改正案の閣議決定について、日本医師会は「マイナンバーと医療情報とが紐づけされるということはない」とくぎを刺している。マイナンバーに紐づけされた社会保障や税の情報と医療情報が相互に参照されるわけではないので、日本医師会のいうことも一理はある。

それでは、なぜ日本医師会は医療情報のオンライン照会に協力的なのだろうか。ネットを調べていたら、会長インタビューが見つかった。オンラインでの資格確認で「診療費の取りこぼしがないようにはしたい」と考えているそうだ。会長の主張するのは提供側の論理。医療における情報連携などのICTの活用は患者等のQoL向上につながるという側面が忘れられているのは残念だ。