うるさい監査役はやっぱり必要:鉄道重大インシデント報告書に学ぶ

2019年03月29日 14:00

2017年12月11日に発生した新幹線台車亀裂事件に関する運輸安全委員会報告書が公表されました。私も関係会社の品質管理委員会委員を務めた関係上、報告書の原因調査に興味があり、早速読んでみました。

台車の損傷状況(運輸安全委員会報告書より:編集部)

興味深いのは、JR東海とJR西日本の「異常時における対応フロー」の違いです。JR東海は一定期間中(2017年4月1日~12月11日)、東海道新幹線区間で異音の申告が156件あり、そのうち車両保守担当社員が乗車して点検を行ったのが127件、つまり81.4%の申告事象について点検を行っています。

一方、JR西日本は同期間中に山陽新幹線区間で異音申告は101件あり、そのうち保守担当社員が乗車して点検を行ったのはわずか4件、つまり4%の申告事象しか点検を行っていない(その代わりJR西日本は列車の最終駅で点検していた)そうです。

各メディアでも報じられているように、コミュニケーションを図るべき担当社員らが、異音を感じたとしても正常性バイアスに基づいて「たいしたことではない」との思い込みがあり、また確証バイアスに基づいて、自分で「そうあってほしい」と望んでいることを裏付ける情報だけを入手していたことが、JR西日本の対応遅延につながったとされています。保守担当社員が(車両を止めて)点検をする確率が4%ということですから、止めるのはかなり勇気が必要なのでしょう。また止めないための理由を心のどこかで探そうとするのでしょうね。JR東海の場合は80%の割合で「ダイヤが乱れてもいいから止める」実態があるので、現場社員も正々堂々と「安全最優先」の行動規範を示すことが可能です。

事故車両と同型ののぞみ 700系(写真AC:編集部)

しかし、これはJR西日本固有の問題ではないと思います。不正や重大事故が発生した一般企業でも正常性バイアスが働いて「公表するほどたいしたことではない」と考えるのが通常です。また、経営者の不正が疑われても、これを指摘するだけの勇気がない自分を正当化するために「もう少し明確な証拠が見つかったら声を上げよう(いまはまだ明白ではない)」といいながら、経営者不正を裏付ける証拠から目を背けることは頻繁に見受けられます。

そもそも「バイアス」というのは種族保存本能に基づく脳のはたらきですから、バイアス自体は決して悪いものではありません。企業にたとえれば、持続的な成長を遂げるためには認知バイアスの働きは日常業務で必要です。

ただ、鉄道会社の安全品質のように、そのバイアスの短所が企業の存亡に関わるリスクを生むことも事実です。ダニエルカーネマンの「ファスト&スロー」にたとえれば、スローの思考が優先されるべき課題には、ファストに支配される経営執行部以外の思考過程が必要となる場面もあります。昨日のエントリーの続きのようですが「うるさい監査役は退任させよ」ということだと、このスローの思考過程が入り込む余地はなくなってしまいます。

監査役でも社外取締役でも良いのですが、「おかしいと思ったら声を上げてほしい。我々はいったん止めて点検する」といった社長の姿勢があれば、彼らのスキルは存分に発揮しうるでしょうし、また彼らのスキルが未熟であれば、自己責任として厳しく受け止めることになると思います。この運輸安全委員会報告書の示唆するところは、他社も大いに参考にすべきです。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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