かつての防衛省技術研究本部は組織改編で防衛装備庁に吸収された形になりました。
ですが、装備の開発調達は旧態然で、全く進歩していません。これでは仮想敵国である中国にはまったく勝てないでしょう。
中国が後進国だったのはかつての話であり、今や急速に開発力と実力をつけています。
例えば装備庁は対UAVレーザー砲を開発しようとしていますが完全に周回遅れです。
防衛省、高出力レーザー兵器開発へ=ドローン、迫撃砲対策(時事通信)
防衛省は2019年から、低空を飛来する攻撃・偵察型ドローン(小型無人機)や迫撃砲弾の迎撃を目的に、高出力の軍事用レーザー兵器の研究を本格化させる。今年度予算には開発費として87億円を計上。年明けに陸上配備型の研究試作機製作の入札を行い、23年度までに技術的検証を終えたい考えだ。
防衛省は、最大50キロワットのレーザー発生装置を開発しているが、迎撃には100キロワット程度の出力が必要になる。将来的には長距離巡航ミサイルや戦闘機などの迎撃に使用することを目標に研究開発を進める。
高出力のものは既にラインメタルやMBDAなどがかなり先行しています。
そして、例によってレーザーシステムだけを研究するのでしょう。迫撃砲やロケット弾の迎撃まで行うのであれば、アイアンドームやスカイシールドなど、ミサイルや機関砲を使ったシステムが既にありますが、そういうノウハウの蓄積あるいは研究が必要です。それには防大なカネと時間がかなりますが、そんな予算は出さないでしょう。
単なる技術屋のマスターベーションで終わるでしょう。
レーザーによる迎撃にしても中国にかなわないでしょう。
中国のポーリー社は既にAAD2016で商品として紹介しています。
出力は5〜30kwで、出力5kw時の射程は200〜800m、10kw時で200〜2000m、30kw時で200〜3000m。レーザーは目標の追尾にも利用できる。
ポーリー・ディフェンス、レーザー防衛システム「サイレントハンター」をIDEXに出展#IDEX2029 #ポーリー・ディフェンス #レーザー #中国https://t.co/AzUA7Jbn5z pic.twitter.com/F2CGAMzXlw
— tokyo-dar (@TokyoDAR) 2019年3月3日
今回のIDEX2019にも出展していまましたが、輸出を通じてスパイラル的に能力を高めていくでしょう。2016年に登場したということはその数年前から開発していたことうことです。
装備庁が開発を終えてもそれが装備化されるかもわかりません。
技本時代からそうですが、防衛省の開発は単なる技術実証なのか、装備化を前提とした技術実証なのか、装備開発なのか非常に曖昧です。
東日本大震災のときの原子炉偵察も国産UAVは信頼性が低くて使い物にならず、後追いで研究していたUGVはとっくに量産、小型化が進んでたIロボット社のパックボットが投入されました。日立が主契約者となって開発されていたUGVは時間がかかっていただけで、小型化もできず、未だに装備化されていません。
多額の時間と血税を使って開発者のマスターベーションをしているわけです。
主契約企業がそもそもUGVを作ったこともない会社で、しかも開発の着地点も分からずに開発する。自衛隊以外の警察や海保などのユーザーすら想定していない。
そして開発時に法的なことが全く考えられません。
新しい装備を開発する際に法的な問題が起こることは多々あります。ですが、全て既存の法律枠内でやろうとします。ですからどんなに装甲車両が重たくなっても横幅は2.5メートルとか眠たいことをいっているわけです。
レーザーでUGVや迫撃砲弾を撃ち落とすとして、その副次被害をどうするのか?全く考えていないでしょう。仮に装備化されてもFFRSなどと同じで演習場専用のおもちゃとなるでしょう。
最近でもこういうことがありました。
自衛隊、離島で電子戦訓練できず 携帯電話と混信恐れ、総務省が認めず(産経新聞)
自衛隊が電磁波を使う電子戦の訓練をめぐり、沖縄県の離島への中国の侵攻を想定した電波妨害訓練を行えず、支障が生じていることが26日、分かった。訓練で活用する電波の周波数について総務省の承認を得られない状態が続いているためだ。携帯電話の通信の送受信に使う電波と混信する可能性があるのが理由で、国防と民需で電波の争奪戦が激しくなっている。
現行通信規格の第4世代(4G)では電波周波数は極超短波(UHF)の2ギガ(ギガは10億)ヘルツや800メガ(メガは100万)ヘルツの周辺が使われている。
東日本大震災の時には陸自の無線が通じなくて大混乱になりました。それは何世代のもの無線機の混在も理由でしたが、本来軍用無線にふさわしくない周波数帯が自衛隊に割り当てられているからです。
ぼくはこの点を震災以前から指摘していましたし、自衛隊内でも震災の教訓の分析で当然出ている話です。
ところが何の変更もせず、総務省と話し合いもしていません。
陸幕はNECがつくった、現場では全く通じねぇと非難轟々の広域多目的無線機を導入して涼しい顔をしています。
要は法律を変えたくない、他の省庁と面倒くさい交渉はしたくない、できるだけ楽をしたいというのが防衛省と自衛隊のスタンスでしょう。
次に大震災が起きたり、戦争が起きて国民が死傷すればその責任は歴代の防衛大臣、防衛官僚と、自衛隊首脳、総務省の責任ということになります。
仮想敵の中国よりも、悪質な敵が防衛省、自衛隊と総務省です。
かつての防衛庁は内閣の外局であり、自衛隊の管理だけがお仕事だったでしょう。ですが既に省に昇格して何年ですか。そんなに政策官庁の仕事が嫌ならば、また防衛庁に戻すべきです。
例えば富士フィルムだってデジカメ時代に即して、商売を変えています。延々と写真用フィルム作っていれば楽だったでしょうが倒産していたでしょう。潰れない会社はいいですよね。まあ、そのつけは我々国民が税金と血で支払うことになるのですが。
ネットワークが中心の時代に、ネットワークが通じないのでは軍隊として終わっています。そんな状態でサイバー戦がどうのと防衛大綱に書いても諸外国から鼻で笑われるだけです。
いい歳した大人が、他人の納めた血税で遊ぶのはいい加減にして欲しいと思います。
こんなことで中国の兵器開発には勝てません。
海外の主要な見本市に3年ぐらい通ってみればそれがよく実感できるかと思います。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年3月28日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。