日朝会談は実現するだろう:北のミサイル発射の思惑を読む

2019年05月08日 06:00

北朝鮮のミサイル発射について

北朝鮮は、4日午前9時頃から10時頃にかけて東海岸の「元山」付近から日本海へ向け、複数の多連装ロケット(MLRS)と短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射した。それぞれの飛翔(到達)距離は70kmから240kmと伝えられており、この最長飛翔距離の飛翔体が恐らくSRBMであったものと考えられる。5日の北朝鮮の報道などから、MLRSは240ミリ多連装ロケット及び300ミリ多連装ロケット(KN-09)、SRBMはロシアの「SS-26(9K72:イスカンデル)」をもとに北朝鮮が開発した新型のSRBMであったものと見られる。

ミサイル発射の現地指導を行った金正恩氏(朝鮮中央通信より:編集部)

この新型SRBMについては、昨年2月8日に北朝鮮で行われた軍事パレードで初めてその存在が確認されたものであり、発射が確認されたのは今回が初めてである。7日の韓国軍合同参謀本部の発表によると、最大距離である240㎞に到達した飛翔体(推定SRBM)は高度が60kmであったということであるから、(この軌道から)このSRBMは最大射程で発射された(ロフト軌道などの距離調整は実施していない発射形態であった)ものと考えられる。

当該ミサイルの原型と考えられる「イスカンデルE(輸出型)」の最大射程が280km以下あることやこのミサイルが固形燃料であることなどを考慮すると、北朝鮮の発表通り今回の発射が成功だとすれば、北朝鮮はこのミサイルの射程延伸に関わる改良は実施していないのかも知れない。

これら一連のミサイル等発射に関する北朝鮮の意図は、大きく二つ。一つは、「米朝交渉に関わる米国への揺さぶり」であり、もう一つは「新型短距離弾道ミサイル(SRBM)の発射試験」である。一つ目の意図については、3月17日に掲載された拙稿「北朝鮮、次に打つ手は」や4月27日の「金正恩の懐刀『金英哲』の去就」ですでに触れたところであるので、今回は省略する。

二つ目の意図については、今回の状況は2006年の弾道ミサイル発射時のパターンに酷似している。2006年7月5日、北朝鮮は未明の午前3時台から夕刻の午後5時にかけて日本海中部に向けて7発の弾道ミサイルを発射し、わが国を震撼させたが、この中で午前5時ごろに発射した3発目のミサイルは、テポドン2号の発射試験を企図したものであった。つまり、多数発の発射により示威行動という側面を強調し、この中に試験目的を組み込んでその企図を撹拌することを狙ったものと考えられる。

一方で、2006年の発射時と異なるのは、2006年の時が準中距離弾道ミサイル(MRBM)主体であったのに対し、今回は短距離弾道ミサイル(SRBM)と多連装ロケット(MLRS)という組み合わせであったことである。これは、最大射程距離の短いSRBMやMLRSという兵器の特性から、米国や日本を過度に刺激しないとの配慮が働いたものと受け止められる。

ちなみに、国連決議で北朝鮮が禁止されているのは、核実験や戦略兵器となり得る長距離弾道ミサイル(ICBM)の開発(発射試験等)であり、短距離弾道ミサイルなどの戦術ミサイルの発射などは該当しない。今回のミサイル発射後にポンペオ米国務長官が「(北朝鮮発射実験の)凍結は米国の脅威となるICBMシステムに焦点を合わせている」と発言し、北朝鮮との対話を継続する姿勢を示したのもこのような背景があるからである。

すなわち、今回北朝鮮は、現在の米朝協議の膠着状態を利用して、米国や日本が許容できるぎりぎりの範囲で示威行動を行うとともに、この1年半にわたり(米国への配慮から)実施できなかった新型SRBMの発射試験を行うという(緻密に計算された)一石二鳥の軍事行動を実行したということである。恐らく、この背後には(先日統一戦線部長を辞任した)「金英哲」が関わっているのであろう。

今後の北朝鮮の動向

朝鮮中央通信、官邸サイトより:編集部

さて、では次に北朝鮮はどう出てくるかということが何より重要でなのであるが、次なる主役は「外務省」、つまり外交手段を駆使する局面へと移行するものと考えられる。決して、北朝鮮の軍事的な強硬手段が今回のような控えめな示威行動には止まらないとは思えるものの、とりあえず暫くの間は外交手段に重点を置くのではないだろうか。

となると、現在のところ手詰まり感のぬぐえない北朝鮮の外交に、突破口として見えてくるのが長年にわたり停滞していた日朝協議である。安倍総理が今回「前提条件なしで」と日朝首脳会談のハードルを下げたのは、絶妙のタイミングだったように思える。北朝鮮にとっては「渡りに船」というのが本音のところかも知れない。

現在北朝鮮は、外務省を中心に日朝首脳会談に応じた場合の「メリットとデメリット」を計算するとともに、日本側の真意を見極めようとしているに違いない。日朝首脳会談が「今後の米朝協議に利益をもたらす」、より具体的に言えば「(部分的)制裁緩和や将来にわたる体制保証に繋がる」可能性があると金正恩委員長が判断すれば、3回目の米朝首脳会談に先駆けて日朝首脳会談が実現するかも知れない。

筆者は、金正恩は日本との交渉に賭けてくるのではないかと予想している。そうなれば、まさに安倍総理の外交手腕の見せ所ということになろう。今後の趨勢に注目したい。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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