海賊版対策10項目、なお審議中。

中村 伊知哉

知財本部 検証評価企画委員会にて海賊版対策の状況を議論しました。
政府・緊急対策の発表から1年。
タスクフォースでは意見とりまとめができなかったのですが、そこで話された事項をもとに事務局が総合対策メニューの案を提出しました。3層立てです。

1:できることから直ちに実施。
著作権教育・意識啓発、正規版流通の促進、対策組織の設置、国際連携・執行の強化、検索サイト対策、広告出稿対策、フィルタリング、アクセス警告方式。

2:導入・法案提出に向けて準備。
アクセス警告方式、リーチサイト対策、権利侵害静止画ダウンロード違法化。

3:他の取り組みの効果や被害状況等を見ながら検討
ブロッキング。

以上(ブロッキングを除く)10項目。

その上で、(ブロッキングを除く)10項目について、2019年度の前半・後半に実施する事項と担当省庁を明確にし、それを知財計画2019に反映させる、という段取りです。

リーチサイト対策と権利侵害静止画ダウンロード違法化を含む著作権法改正は、文化審議会も議論が紛糾し、自民党との調整もつかず、文化庁は法案提出を見送りました。これに関しては「国民の皆様の声を丁寧に伺いながら引き続き法案提出に向けた準備を進める」と記述されています。

これに関し竹宮恵子さんは、「大きな網かけ」の恐れを主張したのであって、法制化自体が問題なのではないとコメント。そうですね。著作権法改正に遅れが生ずるのは残念ですが、仕切り直して早急によい着地点に収めてもらいたい。

ブロッキングもダウンロード違法化も、高度な難問で、会議が意見が割れるのはまっとうなことだと考えます。行政の意向に立法が待ったをかけるのも民主主義として正統です。知財とITを巡る問題に、正規の解決手法へぼくらがまだ到達していない。しばし高速な試行錯誤を続ける、その覚悟が必要かと。

EUは昨年12月、悪質とされる海賊版のウォッチリストとして、クラウドフレア社を含む社名を公開。2月には教育目的でのデジタル利用の権利制限、プラットフォームのコンテンツ権利者からの許諾取得義務などを内容とする著作権指令案に合意。動きを高めていることを事務局が報告しました。重要です。

総務省からは、青少年インターネット環境整備法の改正に基づくフィルタリング対策について説明。ぼくが主査を務める青少年安心・安全ネットタスクフォースでも議論をしており、海賊版対策とも連携して進める予定です。また、通信業界と権利者との協力関係を築くよう働きかけていると報告がありました。

福井健策さんから、通信と出版の有志十数社が参加し、対策協議の場を立ち上げたという報告がありました。タスクフォースでヒビ割れを見せた関係を修復し前進できるか。民間の対応が求められています。この融和に汗をかく各位の努力に頭が下がります。これを総務省もバックアップするとのことです。

瀬尾太一さんは、タスクフォースでの議論が長引いたため文化庁は苦しかったと同情しつつ、出版業界がより危機感を表明し、マンガ家と出版社が連携すべきことを説きました。民間の対応へのハッパです。

アクセス警告方式は意見が割れました。マルウェア対策などの実績を踏まえ進めるべしとする林いづみさんに対し、川上量生さんは「法制度を前提としない仕組はネットの自由を侵す恐れがあるのに、ブロッキングが監視社会をもたらすと反対した総務省が推すのは不可解」と反対しました。

話は教育に及びます。宮島香澄さんは、根本は国民の意識であり、著作権教育を強化すべしと強調。堀義貴さんは、自分に被害がないものを教育するのは難しいが、音楽は不当コピーで産業規模が半減したのであり、海賊版を作る人だけでなく見る人が悪いということを明確に教育に入れるべき、としました。

コンテンツ海外流通促進機構CODA後藤代表理事から、一時的に海賊版サイトが閉鎖されたがセッションは上昇傾向に転じていて、アクセスの過半数が日本から行われているという事例や、日本の放送番組を無料で視聴できる不正ストリーミング機器の事例、5Gの危険性などを報告しました。

林さんは海賊版対策の現状を憂うべきだとします。結局、実効的な対策は進んだのか?あと何年かかるのか。議論でなく、いつまでに実効対策とするのかが重要だ、と。
同意します。合意できるところは握り、早急にアクションに移す。知財計画の策定に力を込めながらも、動ける案件は動いていきましょう。

瀬尾さんからは、タスクフォースで意見とりまとめがなされなかったことに改めて遺憾の表明がありました。制度化を進める上での正しい手順が壊れる危険があるとの表明です。
これに関しては座長への警鐘としても受け止め、まずは1年がかりの本件への答案を仕上げてまいります。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。