今度は文科省キャリア!普通の人たちが使っている覚せい剤

田中 紀子

きのう(5月28日)の夜、今度は文科省のキャリアが、覚せい剤と大麻の所持で逮捕されたというニュースが入ってきました。

文科省キャリア官僚を逮捕 覚醒剤と大麻所持疑い(共同通信)

写真AC:編集部

覚せい剤と大麻を所持していたということは、覚せい剤で上がり過ぎたテンションを、大麻で落ち着かせていたのかな~と思い、なかなかの手だれではないかな?と感じました。

先月末には、経産省のキャリアが覚せい剤の密輸と所持で逮捕されたばかりです。

経産省職員を起訴 覚醒剤密輸・使用、東京地検 (日経新聞)

私たちのような依存症問題に関わっている人間からすると、別に官僚が使っていたとしても「そりゃ、そうだろうな…」と思うだけで驚きもしませんが、一般の方々から見ると、衝撃的な出来事のようでした。

特に経産省の方は、量の多さや、国際郵便、仮想通貨での決済など、現代のサービスを駆使した結果手に入れていたことがわかり、ネット上でもピエール瀧さんの事件と比較して、「こっちの方が大問題だろ!」という声もかなり多く聞こえました。

では、これらの事件から、まだ報道ベースでしかわかりませんが何が見えてくるでしょうか?

まずですね、日本は芸能人の覚せい剤使用について大騒ぎして、「覚せい剤なんか使うのは希有なバカな奴」「日本は、厳罰だから薬物問題が少ない!」と、何も分かってないワイドショーのコメンテーターが、いい加減なこと言ってますけど、ホントこういう意見ってお目出たいですよね。「いいなぁ~何も考えないで、感情論で大金貰えて」と羨ましくすらあります(嘘、単なる皮肉です)。

すでに日本は薬物問題なんか充分蔓延してますよね。
こうやって普通の人達、いやむしろ日本のエリートたちが使っている訳ですからね。

そりゃそうでしょ。
官僚なんてパワハラ、モラハラ渦巻く世界でですよ、非人間的な働き方させられてですよ、政治のドロドロした世界で、しかもいまや一強政権ですからね、納得できない政策や法律を作るなんてことも多いでしょう。
…薬だって使いたくなるよね…と同情しちゃいますね。

日本の薬物問題は「ない」訳じゃない。ちゃんとした調査が行われていないだけ。
しかもマスコミをはじめとする私的制裁が行き過ぎているので、調査などをしても本当のことを話せなくなってますよね。

実は、ちょうどタイムリーに、以前覚醒罪で逮捕された俳優の高知東生さんと、日本の薬物依存症治療の第一人者である、松本俊彦先生とyoutubeでこの問題について取り上げ、「世界は、対面調査じゃ本当のことなんか分かんないからさ、もっと科学的で画期的な方法で、国民の薬物問題の調査やってるよ!」という話をしていますから、是非こちらをご覧下さい。

私も聞いた時は大層驚いたのですが「なるほど!これ日本でも是非やるべきじゃん!?」と思った面白い方法です。

そして日本の薬物問題に対する厳罰主義と「ダメ絶対」教育、そして見せしめという吊るし上げ。
全然ウマくいってないないです。厳罰にしようが、いくらしつっこく「ダメ絶対」と言おうが、まして見せしめなんか効果ないですよね。だって、誰かが捕まったって、こうして短期間に次々捕まっているんですよ。

「あぁ、こんなに大騒ぎになって大変なことになる。僕も止めなきゃ!」なんて思ってないわけですよ。同じ官僚が捕まったって止めてない。

そもそも「自分だけは大丈夫!ちゃんと止められる。」そう思うのが依存症者ですからね。
そして「今日を最後にしよう。明日からは絶対にやらないぞ!」と何年も思うんです。

私も、毎日そう思ってましたからね。
私、最後は買い物依存で苦しみましたけど、末期症状の頃はですね、「今日が最後の買い物だから、ドカンと買おう!そして明日からきっぱり止めよう!」と毎日思ってですね、ついには15分で200万円とか使っていましたからね。

そして、注目は経産省の対応ですね。
記事の最後をみて頂くとお分かりのように「起訴休職処分」になっているんですよ。つまりいきなり解雇なんかされてない。

だってそりゃそうでしょ。裁判も終わってない訳ですし、有罪か無罪かもわからない訳ですから。
覚せい剤に限らず、公務員がギャンブルでの横領事件を起こした場合なんかもそうですよ。
速攻で解雇されたりなんかはしないです。但し、お給料は基本的に支払われません。

よく芸能人の逮捕を受けて「民間だったら即解雇だ!」なんて言う人いますけど、民間でも起訴休職制度があれば休職になりますし、公務員なんかホントなかなか解雇されないです。でもこれって必要な人権への配慮ですよね。「無罪の推定」は働くわけですから、逮捕されていきなり血祭りはないですよね。芸能界は、一般社会に悪影響をもたらさぬよう、独自の解釈で悪しき慣習を作らないで欲しいです。

そしてですね、初犯はまず執行猶予になりますから、そしたらまわりの方々には再起を支えて欲しいです。

執行猶予は謹慎期間などではなく、アルコールや薬物やギャンブルに頼らない健康的な生活を立て直す期間です。この執行猶予のあり方、ホント勘違いされてるんですよね。これも現在執行猶予期間中の高知さんが、ご自身の経験からメッセージを語っておられますから、是非こちらのYoutubeをご覧下さい。

高知さん「これなら刑務所行った方がマシじゃないかと思った!」ってよくおっしゃってますけど、私も、執行猶予期間中に起きる数々の人権侵害や理不尽な出来事を聞いて愕然としましたもんね。周囲の人達が再起を応援していくという、執行猶予に対する正しい理解がないと、現代のような追いつめ吊るし上げ社会では、日本はいずれ治安が著しく悪化すると思います。

日本の薬物政策はそれほどうまくなんかいっていないです。蓋をし、見えないようにしているだけなんですよね。
実際には、普通の人達にすでに蔓延しているのが現実なんです。感情論から脱却し、末端の使用者を追い詰めていないで、エビデンスを重視した対策を是非お願い致します。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト