ViVi 炎上を“作る”左派メディア:自民党の広告だから槍玉に?

新田 哲史

講談社の女性向けファッション雑誌「ViVi」の電子版が、自民党とコラボした広告企画をしたことで「反安倍」のネット民たちから総スカンを食らって炎上。これに一部のメディアが乗っかって騒ぎ立てている。後述するようにプレゼントキャンペーンを巡る公選法の論点はあるものの、筆者から見ればただの「から騒ぎ」だ。

「ViVi」自民党広告サイトより

騒いでいるのは左派メディアくらい

「ViVi」の企画自体は10日にリリースされ、アンチ自民のネット民が騒ぎ出した。各メディアの報道が本格的になったのは翌11日になってからだが、面白いのは、騒ぎ立てているメディアの面々だ。グーグルニュースに「ViVi」「自民党」の2つのワードを打ち込んで検索上位に表示(11日23時現在)されている記事と媒体を見てみよう。

「ViVi」が自民党とコラボした理由は?講談社が説明「政治的な背景や意図はまったくない」(ハフポスト)

ファッション誌「ViVi」の自民党コラボ企画が物議、シンボルマーク入りTシャツに意見も(Fashionsnap.com)

「政治的意図はない」ViViと自民党がコラボ? その狙いは(バズフィードジャパン)

人気女性モデルと自民党のコラボ広告で公選法違反か 「ViVi」の政党ロゴ付きTシャツプレゼントが波紋(アエラドット)

ViVi、自民党とのネット広告で批判殺到 「機関誌になったのか」「Tシャツより年金を」(毎日新聞デジタル)

自民党「コラボ」、ViViだけでなくグノシーも 参加者には首相ビデオレター…「政治的な意図や背景ない」(J-castニュース)

Fashionsnap.comはファッション業界の専門メディアで、政治的な立場は不明だ。またJ-castニュースはもともとネット上の騒ぎを記事化する老舗で、右とか左とか関係なしにPVが取れそうな話題を取り上げているだけに過ぎまい。

この2媒体を除くと、ハフポストと、アエラドットは安倍政権とことごとく対立してきた朝日新聞系列。その朝日出身の記者が記事を書いているのがバズフィードジャパン。そして朝日と同じく反安倍路線の毎日新聞と、いわゆるリベラル・左派メディアばかりが並ぶ

講談社にあっさり論破される「反安倍」元NHK記者

さらにこれらのリンク下「すべて表示」をクリックし、ネット上の反響を加味した「重要な記事」として表示される記事の一つが、ヤフーニュース個人のこれだ。

ViViのキャンペーン!…実は自民党とのコラボ企画「若い女性の利用ではない」(相澤冬樹) – Y!ニュース

執筆者は元NHK記者の相澤冬樹氏。森友問題を機にNHKを退社に追い込まれたと主張し、現在は大阪のローカル紙で反安倍路線で発信している人物だ。リンク先をクリックせずとも中身は推して知るべし。一応読んでみて、講談社にも自民党にも取材はしていて、特に後者との質疑応答も載せているのを見たが、「安倍憎し」「自民憎し」の個人的な価値観がにじみ出ているようにしか思えない質問ぶりだ。

相澤氏も「若い女性を利用しているという批判もあります」などと、ネット民の意見を借りただけの、つまらない誘導尋問をしているが、自民党側には「タイアップ広告で、PRと表記もしていますので、利用ということにはあたらない」と、あっさり論破されている。

相澤氏はCMのないNHK出身なので、あまりウェブ広告記事のことが詳しくないのかもしれない。いずれにせよ、毎日新聞の取材に自民党側も認めているように、当事者はハレーションを想定済みだ。講談社側も「政治的な意図はない」と各社にコメントしているが、広告表示のルールにのっとってお金で媒体のコンテンツを売っただけのビジネスライクな関係だろう。

確かに、自民党がViViとコラボしたことはその意外さで良くも悪くも話題性のある企画になっているが、このこと自体、日経新聞が5月9日の時点で報道済みだ。

自民が広報戦略を刷新 参院選へ若者取り込み:日本経済新聞 

騒ぐメディアに「党派性」を感じてしまう理由

さらに、ネット選挙が解禁された6年前まで遡れば、ViViと同じ発行元の講談社の現代ビジネスだって、BLOGOS、JB Pressとの共同企画とはいえ、政権から転落して半年ほどの民主党の広告企画記事を掲載している。

なぜ民主党は政権を失ったのか。再び、民主党は国民の信頼を得ることができるのか。そのためには何をすべきなのか。

民主党(当時)の広告記事(現代ビジネスより)

この時、筆者は、民主党の広報委員長だった参議院議員の情報発信をサポートしていたが(記事の担当はしていない)、この記事が炎上したことなど聞いたことはなかった。

毎日新聞が今回取り上げているような「いつからViViが自民党の機関誌になったのか」といったネット上の非難の声はあったのかと言えば、その記事について「いつから現代ビジネスやBLOGOSは民主党の機関誌になったのか」といった意見はネットで見た記憶もない。あってもネトウヨが少し騒いだ程度だろう。少なくとも、この民主党の広告記事が主要メディアで問題視された記憶は全くない

そうした経緯から考えれば、講談社に「政治的意図」を聞き出そうとする左派メディアの魂胆に「党派性」を感じざるを得ない。仮に立憲民主党が同じように人気雑誌とコラボしたら、同じく槍玉に挙げるのだろうか。もし東京カレンダーと組んだら、むしろ「蓮舫さんと深夜の麻布十番の隠れ家的なお店で、秘密のデートをしているような素敵な写真!」などと持ち上げたりするのではないか

(そういや、広告ではないが、「Vogue」の編集企画で、ブランド服に身を固めて、国会内で規約違反の撮影をして=左記写真=、議運委員長に厳重注意を受けたことがあったが、その時のメディアは随分と甘かった)

一点だけ、自民党サイドが「揚げ足」を取られる可能性があったとすれば、一部で公選法違反が指摘されるプレゼントキャンペーンかもしれない。ただ、前述した通り、多少の炎上は想定内だろうから自民党本部がコンプラチェックをしなかったとは考えづらい。選挙を知らない左派メディアが、外から見ている以上に、自民党本部の選挙コンプラ体制は、議員事務所などへの指導は意外にうるさい。

また、その違法性を指摘している学者氏も一つの意見でしかなく、自民党議員の政治資金問題が起きた時にはやたらに厳しいことを言うコメンテイターでおなじみだ。アエラドットも書いているように、「候補者による寄付については細かく禁止規定があるが、政党による寄付については定義があいまい」とされ、こればかりは総務省の判断を最終的には仰ぐしかあるまい。しかし、自民党もそのあたり抜かっているようには思えないが、どうだろうか。

報道側が本当に注意すべき問題

ちなみに、保守サイドのほうはというと、読売新聞、産経新聞ともに11日23時現在、電子版では報道していない。もしかしたら12日以降の新聞紙面で掲載するかもしれないが、電子版でその日のうちに報道するほどのネタではないということだろう。

むしろ、今回、左派メディアがこうして槍玉に挙げることで、デジタルメディア側が合法的な政治広告にすら「萎縮」を産むのではないか。若い世代に対する政党による政治啓発の新たな可能性の芽を摘んでしまう。そもそも、ViViの読者層にも抜かりなく、政治的関心を高めようとする自民党の広報戦略はある種の「企業努力」の一つだ。それが気に食わないなら、野党も同じように斬新なアプローチで広告・広報戦略を考えればいいだけの話だ。

何よりも、組織ジャーナリズムが本当に注意すべきなのは、各政党のデジタルメディア戦略が高度化していくことで、世論形成にどのような影響があるのか、政党の世論誘導の思惑は何か、それをしっかり批判・検証するような取材・報道の視点やノウハウを持つべきだろう。首相嫌いのネット民の炎上騒ぎに乗ってガソリンを注ぐだけの報道スタンスなら、放火魔の共犯に過ぎない。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」