中国戦闘機による海自艦艇への模擬攻撃は訓練ではない

2019年08月20日 06:01

19日付の共同通信に以下のような記事が掲載された。

東シナ海の公海上で5月、中国軍の戦闘機が海上自衛隊の護衛艦を標的に見立てて攻撃訓練をしていた疑いの強いことが18日、分かった。複数の日本政府関係者が証言した。政府は不測の事態を招きかねない「極めて危険な軍事行動」と判断したが、自衛隊の情報探知、分析能力を秘匿するため、中国側に抗議せず、事案を公表していない。現場での偶発的軍事衝突の懸念があり、緊急時の危機回避に向けた仕組み作りが急がれる。

2014年、自衛隊機に異常接近した中国の戦闘機Su-27(防衛省サイトより)

これが事実であれば、極めて重大な問題と言わなければならない。それは、中国軍の行為もさることながら、これを軍事上の秘密として非公表としたわが国政府の判断についてである。情報に関わる能力の秘匿と国家の安全を秤(はかり)に掛ければ、国家の安全が重いに決まっている。今回の政府の判断は、本末転倒の誤認識による重大な過ちだと指摘しなければならない。

そもそも、軍事訓練というのは自国の軍隊同士が行うものであり、異なる国家間が相互に了解した上で共同訓練を実施するものでない限り、自国以外の軍隊に対して軍事的敵対行動を実施した場合、これは訓練とは全く異なる「軍事的挑発行為」以外の何ものでもない。

仮に、今回のような行為が訓練という位置づけで収まるのならば、「北朝鮮による日本領土越えの弾道ミサイル発射」や「韓国海軍の海自艦艇へのレーダー照射」なども訓練ということで済まされてしまうことになる。

もし、今回と同様な行為を北朝鮮が行ったとしたら、政府は大騒ぎしていたのではないか。こんなことは考えたくもないが、何か中国に対する政治的な配慮が働いたのではないかと勘繰ってしまいたくもなる。

実際のところ、現在の報道だけでは詳細が不明であり、どのような点が問題なのかは何とも言えない部分もあるので、何よりも中国軍の戦闘機が海自艦艇に対して具体的にどのような行動を実施したのかを明らかにすべきであろう。わが国がいかなる手段によって情報収集や分析を行ったかについては秘匿したうえで、中国軍の行動をある程度開示することは可能なはずである。

Wikipediaより

それによって、わが国の情報に関わる能力が致命的な影響を受けることもないであろう。というより、中国軍はこちらの情報収集能力をある程度把握しているからこそ、このような挑発行為を行ったのではないかと筆者は推測する。彼らは、こちらがそれに気づくことを承知しているはずだ。

このような行為を非公表にすれば、中国軍は自衛隊がどこまでかかる行為を許容するか試すために、さらに行動をエスカレートさせる可能性がある。これは極めて危険なことだ。

今回の事案非公表の決定が、いかなる判断のもとにどこで下されたものか、事実関係を明らかにして国民に説明すべきではないか。政府は国家の安全に関わることについて、入手した情報を可能な限り明らかにして国民に説明する義務があると考えるからである。

恐らく、当事者である海上自衛隊の隊員や情報収集や分析にあたった自衛隊員や関係者もそれを望んでいるであろう。なぜならば、このような行為を平気で行う(国際的軍事常識の欠落した)アンプロフェッショナルな中国人民解放軍という危険な存在を公のもとに晒すのが、これを知り得たものの責務と感じているに違いないからである。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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