新聞業界には自浄の仕組みが必要だ

2019年08月26日 16:01

毎日新聞より:編集部

毎日新聞社は今年6月以来、国家戦略特区関連の虚偽報道を続けてきた。当事者の反論・抗議に対し、同社は何ら対応していない。

私は記事掲載のたびに反論を公開してきた。毎日新聞社への公開質問状も出したが(7月2日付、7月11日付)、実質的に無回答のままだ。

八田達夫・特区WG座長ら民間委員(私を除く)も共同で抗議声明を出した(7月17日付)。毎日新聞社はこれも全く無視し、さらに取材を続けた。このため、8月12日付で再度の抗議声明が出され、「毎日新聞社の行動は、もはや正当な取材活動ではなく、国家戦略特区の運営を妨害するための活動」との指摘までなされた。

私は毎日新聞社に名誉毀損訴訟も提起しており、8月27日が第一回期日だ。

ひょっとしたら、毎日新聞社は訴訟を考慮し(つまり、「うっかり反論を部分的にでも認めたら、訴訟で不利になる」などと考え)、反論・抗議を無視しているのかもしれない。もしそうならば、とんでもないことだ。

毎日新聞社にはもちろん、私の人権侵害の責任をとってもらわなければならない。これは訴訟で解決する。一方で、毎日新聞社は報道機関として、読者に事実を伝える責任を負っている。訴訟対策のために読者に事実を伝える責任を放棄しているならば、報道機関として自殺行為である。

対応しないばかりか、毎日新聞社はいまだに暴走を続けている。八田座長らの二度目の抗議声明のあとも尚、内閣府への取材、関係省への情報開示請求がなされている。同社の行動は、もはや「反論は一切無視し、ともかく妨害活動を続行する」との決意表明にしか思われない。

こうした妨害活動への対応に関係職員が追われ、本来業務がおろそかになることは、看過するわけにいかない。もはや正当な取材活動ではないから、関係職員の方々も対応しなければよいと思う。情報公開法に基づく開示請求に関しても、例えば内閣府の定める審査基準では、「行政機関の事務を混乱又は停滞させることを目的とする等開示請求権の本来の目的を著しく逸脱する開示請求」は、「権利の濫用」として不開示決定を行うことになっている。

本件で私がずっと問題にしてきたのは、報道の暴走を止める仕組みが働いているのかどうかだ。
当初、私は、毎日新聞社内で自浄作用が働くことを期待し、社長に対応を求めてきた。しかし、残念ながら対応いただけていない。

そこで次に、日本新聞協会に質問状(8月9日付)を送付して対応を求めた。日本新聞協会では「新聞倫理綱領」を定めており、毎日新聞社の一連の対応は明らかにこれに反するからだ。

これに対し、日本新聞協会から8月21日付で、「新聞倫理は各社の責任において自主的に実践されるべきもの」、「報道内容に関し紛争が生じた場合(中略)当事者間で解決が図られるべき」との趣旨の回答をいただいた(回答全文は文末に掲載)。

まず、毎日新聞社と違い、日本新聞協会には、質問に正面から回答いただいたことに感謝申し上げたい。

ただ、内容には満足できない。これでは、日本新聞協会の目的である「新聞の倫理水準の向上」は果たせないのでないかと思う。正直なところ、日本新聞協会の審査室は、新聞倫理綱領の遵守状況をチェックする役割を担ってきたのかと思っていたので、がっかりした。

今回の回答は、たとえていえば、欠陥製品で事故が起きたとの苦情に対し、「安全な製品を作るのは各メーカーだけの責任だ。事故が起きたら、消費者とメーカーで解決してほしい」と言っているようなものだ。ふつうの業界でこれはありえない。そんなことでは、消費者が安心して製品を購入できないから、多くの分野では法規制を設ける。また、業界の信頼性を高めるため、業界が自主的に安全マークや相談窓口の設置などに取り組む。

新聞の場合は、法規制を何ら受けていない。過去に人権擁護法案など一定の法規制を課そうとの議論もあったが、新聞業界が強く反対してはねのけてきた。

私は、権力の監視を担う新聞に法規制を課さないことに、基本的に賛成だ。一方で、その前提条件は、自由には責任が伴うことの認識だと思う。

新聞社は、虚偽報道や行き過ぎた取材などの暴走を繰り返しても、業務停止命令を受けない。だからこそ、暴走を止める仕組みを自ら用意しなければならない。自浄作用がないならば、自由を与えられる資格はない。

さらに、もし新聞各社の仕組みが機能せず、暴走を止められなかったときに備え、業界として止める仕組みも必要だ。それがなければ、新聞というメディア全体が、「社会の公器」として信頼を維持していけないと思う。

私は、日本新聞協会を槍玉にあげるつもりは毛頭ない。そうでなく、前向きな提案をしたい。ぜひ、新聞各社が暴走してしまったときに止める仕組みを、日本新聞協会として検討いただきたいと思う。

例えば、欧州各国では古くから、新聞各社が共同で自主規制組織(「新聞評議会」などと称される)を設け、苦情処理・審査を担ってきた例がある。英国では、政府の設けた委員会での検討を経て、2014年にIPSO(Independent Press Standards Organization)が発足した。日本でも放送の場合は、放送倫理・番組向上機構(BPO)の制度例がある。さらに近年は、インターネットメディアでのフェイクニュース対策の議論が国内外で活発であり、これも参考になるはずだ。

近いうちに具体的な提案をまとめ、日本新聞協会には改めてご連絡差し上げたい。


<日本新聞協会からの回答>

2019年8月22日
原 英史殿

一般社団法人日本新聞協会
専務理事・事務局長
西野 文章

「毎日新聞社の『新聞倫理綱領』違反に関する質問状」に関する件

貴台からの8月9日付質問状を受領いたしました。

新聞倫理綱領は、定款に基づき当協会が制定し、当協会に加盟する各社はこれを守ることを約束しております。新聞倫理は各社の責任において自主的に実践されるべきものです。

報道内容に関し紛争が生じた場合も、各社がその責任において対応し、当事者間で解決が図られるべきと考えます。
ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

以上


<日本新聞協会への質問状>

毎日新聞社の「新聞倫理綱領」違反に関する質問状

一般社団法人日本新聞協会
会長 山口寿一殿

毎日新聞社の「新聞倫理綱領」違反に関して質問状をお送りします。8月22日までに回答を書面でいただくようお願いします。

なお、本質問状は送付と同時に公開します。いただいた回答も当方にて公開しますので、ご承知おきください。

貴法人会員である毎日新聞社の発行する毎日新聞で、2019年6月11日以降、国家戦略特区に関する記事が繰り返し掲載されています。これら記事は、私および国家戦略特区の制度運用に関して、「原英史・特区WG委員が立場を利用して200万円の指導料を受領し、会食接待を受けた」「特区WGヒアリング開催が隠蔽された」など、数多くの虚偽を含み、私および国家戦略特区の制度運用を不当に貶める内容です。

私は記事に対し逐一、反論を公開してきました。また、毎日新聞社に対し、7月2日付および7月11日付で質問状を送付し、反論への回答を求めました。

しかし、残念ながら、毎日新聞社には、反論に対応いただけていません。毎日新聞社東京本社編集編成局長から7月8日付で、「特区制度の中立性や公平性、透明性への懸念を国民に抱かせかねないという問題意識で報道しています」との回答がありましたが、私の反論への回答は実質的になく、黙殺に等しい状態です。

(なお、私のみならず、特区諮問会議民間議員らも、記事に重大な誤りがあることを指摘し、共同抗議声明を送付・公開していますが、これも毎日新聞社は黙殺しています。)

<参考1>毎日新聞記事への反論一覧
<参考2>毎日新聞社への質問状と回答

毎日新聞社が、問題意識さえ正しければ報道内容が正確かは大した問題でない、との姿勢であるならば、「新聞」の名に値しないと考えます。

虚偽かどうかをいったん脇においても、報道内容に関し当事者が重大な間違いを指摘し反論しているのに対し、訂正もせず、再反論もせず、ただ黙殺する対応は、外形的に明らかに、貴法人の定める「新聞倫理綱領」の以下の規定に反します。
-「報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。」
-「新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する。」
-「報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相手の名誉を傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供するなど、適切な措置を講じる。」

以上に基づき、質問します。
1、毎日新聞社の一連の対応は、外形的に明らかに「新聞倫理綱領」に反します。これは、一部記者の非違行為といったレベルの問題ではなく、会社としての対応であり、根本的な報道姿勢・方針の問題です。貴法人として、毎日新聞社に対し、「新聞倫理綱領」を遵守するよう求めていただけますか。

2、仮にそれでもなお、毎日新聞社が「新聞倫理綱領」を遵守しない場合、貴法人定款第9条に基づく「除名」の要件に該当すると考えます。貴法人の見解を教えてください。

2019年8月9日
原  英史

原 英史
1966年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理などを務める。著書に『岩盤規制 ~誰が成長を阻むのか』(新潮新書)など。


編集部より:この記事は原英史氏がFacebookに投稿された毎日新聞に対する抗議文をベースに作成されました。原氏に賛同し、他にも掲載されているメディアもあります。記事が拡散され、アゴラでも関連の意見が投稿されるなど社会的な議論が広がりつつあります。

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原 英史
政策工房 代表取締役社長

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