在日問題を知らないで「弱者の味方」を演じる人々

池田 信夫

ネットメディアにも、間違いだらけの「在日」の話が出てきた。

この記事では「在日コリアン3世」と自称する匿名の女性が「私たちはいま、生きるか死ぬかの瀬戸際にいると思っています」とか「連れ出されて殺されるってことも想像しています」などと妄想を語っているが、その具体的な根拠は何もない。

これを書いている記者も「どこの国にルーツを持つか、自分で変えることはできない」と書いているが、変えることはできる。帰化すれば、日本国籍をもつ日本人になれるのだ。「先祖が朝鮮半島から渡ってきた人は日本人じゃない」とでもいうのか。

問題をややこしくしているのは、日本国籍がないのに選挙権を求める韓国人である。憲法によって選挙権は「日本国民の固有の権利」であり、外国人に与えることはできない。選挙権を行使したければ、韓国で行使すればいいのだ。

こういう問題が起こるのは、在日外国人の中でも韓国人だけである。その原因は、朝鮮人が強制連行で日本に来たとか、日本政府が朝鮮人の国籍を剥奪して強制送還したという都市伝説を、朝鮮総連や在日韓国民団が運動に利用してきたからだ。

1945年に戦争が終わったとき、国内にいた朝鮮人はすべて日本国籍だった。 しかし1952年にサンフランシスコ条約が発効したとき、民事局長通達で朝鮮人の国籍を一律に抹消したため、当時日本にいた朝鮮人60万人は無国籍になってしまった。

この原因は、朝鮮人の多くが北朝鮮への帰国を望んだため、韓国政府が朝鮮人をすべて韓国籍とするよう求めたことだ。それにはGHQが反対し、日本政府は国交のない北朝鮮と韓国の国民には日本国籍を認めなかったので、国籍選択権を与えないことで日韓政府が合意した。

このとき日本に住んでいた韓国人にも反対はなかった。 彼らは敗戦国日本の国民ではなく、独立した母国に帰国することを望んでいたので、日本でも外国人として処遇されることを求めた。

しかし日本が急速に復興する一方、韓国は朝鮮戦争で疲弊し、軍事政権が続いた。このため当初は日本国籍を拒否していた民団が「韓国籍のまま日本人と同じ扱いをしろ」と求め、1965年の日韓地位協定で「協定永住資格」ができた。

この背景には、日本人の在日差別もあった。 韓国人は互いに助け合うために在日コミュニティに固まって住み、韓国籍をアイデンティティとして、帰化した韓国人を裏切り者として排除するようになったのだ。

しかし今そんな状況はなくなったので、もう在日コミュニティに固まって住む必要はない。日本に住む韓国人70万人のうち37万人は帰化し、在日(特別永住者)として残っているのは33万人である。

この記事の(自称)在日コリアン3世の「私たちは、日本人のみんなと同じように日本にいるだけです。移住はしたいけれど、そんな簡単にはできない」というのも間違いだ。いま日本に住んでいる韓国人が「移住」する必要はない。申請すれば半年以内に帰化できる。

このいびつな特別永住資格が、差別の原因だ。必要なのは特別永住資格を廃止し、届け出だけで帰化できるようにする制度改正だが、自民党からも野党からも反対が出て実現しない。在日のまま参政権を求めることが、野党の運動になってしまったからだ。

このバズフィードの記事は、そういう基本的知識もない在日コリアンの話を無知な記者が書き、それを元編集長が受け売りしている。複雑な在日の問題をこんなきれいごとで語るリベラルが、差別を再生産してきたのだ。