ゆうちょ銀行問題:人の仕事に「おかしい」「やめとけ」と警告は難しい

山口 利昭

産経新聞9月14日の朝刊に「不適切投信 『規定指導不足』 高齢者23万5000人調査へ」との見出しで、ゆうちょ銀行と日本郵便の社内調査の結果が報じられています。

Wikipediaより:編集部

日本郵政グループでの不適切販売といえば「かんぽ生命問題」が大きく報じられましたが、こちらの高齢者向けの不適切な投資信託の販売問題もかなりマズいです。

かんぽ生命の件は第三者委員会による調査が行われましたが、こちらは社内調査で終わるのでしょうか。本件は16日になって朝日新聞ニュースでも取り上げており、社内調査報告書だけでは済まないような気もしてきました。

70歳以上の高齢者に投信を販売する場合、社内ルールでは「勧誘前確認」と「契約前確認」が行われることになっていますが、この「勧誘前確認」は販売担当者とは別の管理者が行うことになっています。

しかし、実際には多くのケースで「勧誘前確認」が行われていなかった、とのこと。ゆうちょ銀行の担当者は「ノルマのプレッシャーが原因ではない」としたうえで(勧誘前確認作業という)「社員が手間をかけなくない」と安易に考えており、社員の認識不足が原因だったと説明しています。

これに対して前記朝日新聞は、社内関係者の話から「(販売ノルマに起因した)プレッシャーが原因」で確認する側も営業実績ほしさに黙認していたのではないか、と推測しています。

おそらく社内調査の結果から判明すると思いますが、ゆうちょ銀行としては「勧誘前確認」と「契約前確認」によって、担当者による勧誘や契約のどの程度の割合において販売業務が止まったのかを明らかにすれば良いと思います。

たしかに一定割合が「勧誘前確認」で止まっているのであれば、ゆうちょ銀行が説明しているとおり「ルールの趣旨を認識していない管理者が存在していた」との理由は真実に近いと思います。

しかし、ほとんど業務が止まっていなかった(勧誘前確認によって問題案件の契約が事前に阻止されてなかった)のであれば、そもそも「勧誘前確認」など形骸化していた、と言わざるを得ません。

ただ、認知症が重篤な疾患がなかったかどうかを調査するのが確認作業の趣旨だそうですが、別の担当者が熱心に勧誘をしたいと思っているところで、「ちょっとおかしいから、勧誘は控えるように」と、業務にストップをかけることはむずかしい。「たとえ営業成績が悪くなったとしても、高齢者に迷惑をかける契約はしてはならない」といった組織風土が明確にならないかぎり、契約前にストップをかけることは困難ではないかと。

ということで、本件は不適切な投信販売を事前に防止するための内部統制システムが有効に機能していなかったことが原因ではないかと思います。

そして、実際に契約を勧誘する現場担当者は、このシステムによって「勧誘にお墨付きをもらった」として堂々とノルマ達成に向けて営業ができるわけですから、機能していなかったが、現場の不適切勧誘を助長することになるので、かなりマズいシステムだといえそうです。

しかし、実際に多くのケースで勧誘前確認がなされていなかったとなりますと「なぜ日常の内部監査では(勧誘前確認がなされていないことを)見つけることができなかったのか」という重大な問題が残ります。

たしか金融機関の内部監査部門というのは、金融庁からの強い要望もあって「日本企業の中で最も優れた内部監査機能」をお持ちのはず。これこそゆうちょ銀行が再発防止のために徹底的に検証しなければならないはずであり、当該調査には利益相反的な要素が含まれている以上、第三者による徹底的な調査が必要になるものと考えます。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。