『潜入中国』で劇的に変化する中国を目撃せよ

2019年09月20日 06:00

「あなたの動きは完全に把握していますよ」

急激な中国の変化。国家の発達段階をすっ飛ばし、国際社会の先頭に躍り出るのではないか。実態の見えなさは対中警戒感につながるのだが、果たしてどこまでが本当のところなのか。

そんな疑問に答えるのが、朝日新聞記者・峯村健司『潜入中国―厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)である。

峯村健司氏ツイッターより:編集部

中国当局に20回以上も拘束される「ぎりぎりの取材」ルポ。「お前、怪しいな」と監視員に疑われながらなんとかしのぐ場面などは手に汗握る。「朝日新聞の記者でも、こんなに泥臭い取材をしているんだな……」と感心することしきりだ。「でも、朝日の記者じゃなあ……」と思う人にこそ、発見があること請け合いで、そうして敢行した取材で得た、主に中国軍に関する最新情報をコンパクトに届けてくれる。

サイバー、宇宙開発、空母、戦闘機。テクノロジーの進化を国防に全力で投じる中国。それを支えるのは、休みもなく、家族にもめったに会えない農村出身の出稼ぎ労働者。空母建設に携わる労働者は、それでも「国のために俺の力が必要とされている」との活気に溢れているという。

スパイ活動や国内治安の場でも、テクノロジーは欠かせない。筆者の峯村氏が「こうした潜入活動ができるのも最後だろう」と述べるのも無理はない。「ハイテク文革」ともいうべき監視カメラ網の広がりと、それによる取り締まりが強まるからだ。

「外国人も中国に入国した時点から、どこに行って誰と会っているか、完全に把握していますよ。もちろんあなたもね」

と、笑顔なのに目は笑っていない中国の元警察幹部の言葉は示唆的だ。

入れ替わってしまった米中の立ち位置

労働の現場にも変化は起きている。中国の変化をアメリカとの対比で浮き彫りにするのがNetflixの『アメリカン・ファクトリー』だ。

Netflix映画『アメリカン・ファクトリー』(Wikipediaより:編集部)

オハイオ州の自動車工場の閉鎖で多くの失業者を出していたところ、中国企業・福耀が買収して自動車用のガラス工場として再開。元の従業員を含む地元のアメリカ人を雇った。中国からは熟練工や幹部が派遣され、アメリカ人労働者が彼らをホームパーティに招くなど、交流も生まれるのだが……。

先の空母建設労働者と同様、1日12時間、月2日の休養、年1度の里帰りでも厭わずに働く中国人と、働く前から「こんな環境で働かせるのは危険だ」「こんなきつい仕事を一人で担当させるなんて」と労働環境の向上を求めるアメリカ人。当然、うまくいくはずはなく、アメリカ人従業員は労組の設立を求める。しかし福輝側は「労働効率が下がるだけの労組は認めない」の一点張りだ。

ワーク・ライフ・バランスの掛け声とブラックな企業の現場の間で揺れ動く日本の労働者としては、実に複雑な思いでこれを見守ったのだが、皆さんはどうだろうか。

ここで視聴者はあることに気づく。超のつく市場原理主義と思われるアメリカ側が労働者の福利厚生を求め、資本主義を一部受け入れたとはいえ共産主義の中国が、労働者よりも資本家(企業側…とはいえもちろん社内に共産党支部がある、変形国営企業でもあるわけだが)を重んじているのだ。個人の幸福を求めるリベラリズムと儲けのどちらを取るかで、米中の立ち位置が入れ替わってしまったようにも見える。

米中の職業カルチャーギャップ的な話はある面で人間味さえ感じさせるのだが、そんな気分を一掃するかのようなオチが、ラストには待っている。詳しくは番組をご覧いただきたいが、ここでもカギは「テクノロジー」なのだ。

「ハイテク文革」に例外なし

梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』 (NHK出版新書)によれば、中国人の90%がテクノロジーを信頼しているという。

一方で、ウイグルのように完全に自由を奪われるケースも紹介されている。「自分たちがいつ、ウイグルの側に回るかもしれない」可能性を、中国人はどこまで考えているのだろうか。

『潜入中国』が指摘する「ハイテク文革」の懸念を思えば、決して他人事ではないはずだ。「テクノロジーに色はない」が、使う側には相応の意図がある。

梶井 彩子

noteで「Netflix+書籍で知識を深めるシリーズ」公開中。また、安倍政権関連書籍を読みまくる「あべ本」レビューも随時公開しています。

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