小泉環境大臣が狙う「炭素税」はセクシーなのか?

2019年10月05日 11:31

メディア上で小泉環境大臣が国連記者会見で引用した「セクシー」という文言について、隣に座っていたクリスティーナ・フィゲレス前国連気候変動枠組条約事務局長の発言を引用したものとして擁護する声がある。筆者は正式な会議の場で大臣が使用する表現ではないと思うが、その表現自体はこの場で咎めるつもりはない。

環境省公式YouTubeより:編集部

しかし、記者会見時の「セクシー」という言葉を安易に引用して、フィゲレス女史に安易に媚を売る姿から見えてくる小泉環境大臣の政策的な危険性を国会討論が始まる前に今一度指摘しておきたい。

まず、最初にフィゲレス女史の言葉を引用した世界的に著名な人物を紹介したい。それは「トランプ大統領」である。トランプ大統領はパリ協定を離脱する演説の中で、下記のようにフィゲレス女史の言葉を引用した。

In 2015, the United Nation’s departing top climate officials reportedly described the $100 billion per year as “peanuts,” and stated that “the $100 billion is the tail that wags the dog.”

トランプ大統領は気候変動対応に関して先進国から途上国に対する支援に使用される「緑の気候基金」を演説中に槍玉にあげた。その際、上記のようにトランプ大統領はフィゲレス女史の拠出金・約10兆円の金額をピーナッツ(はした金)と表現した発言を引用して激高、更にそれが中長期的にも米国の納税者に著しい負担を与えるリスクを強烈に主張した。

2017年6月のパリ協定離脱演説(ホワイトハウスYouTube

トランプ大統領の演説内容の大半は米国の経済・雇用に対するパリ協定の悪影響、そして納税者負担を終始強調するものであり、自国中心と非難される向きもあるが国益を体現するものであった。

一方、日本政府はこの緑の気候基金を含む一連の計画に対して非常に積極的な姿勢を見せている。緑の気候基金は官民合わせて年間約10兆円の投資目標を掲げており、その設立時資金は各国の資金拠出で賄われた。その資金拠出の内訳では、米国のトランプ政権が資金拠出を拒否したことで、約1500億円を負担した日本政府が最大資金拠出国となっている。

また、平成27年度(2015年度)のCOP21において安倍首相は、年間約10兆円の目標に貢献するために「2020年に、現在の1.3倍、官民あわせて年間約1兆3千億円の気候変動対策の事業が、途上国で実施されるようにします」と国際公約として明言している。

そのため、小泉環境大臣の記者会見に同席したパリ協定等の立役者であるフィゲレス女史側が「一番のお得意さん国家」である日本の環境大臣(記者質問にろくに回答できない無能であっても)に恥をかかせないようにフォローを入れるのは当然だろう。小泉環境大臣は同女史が主導してきたプロジェクトに最も貢いでくれる国の担当大臣なのだから。

筆者も日本政府側の意図として諸々の計画に合わせてエネルギーインフラ輸出を目論んでいることは理解している。しかし、気候変動問題に更なる関与をしようとする小泉環境大臣の方向性には大増税への道筋が含まれていることを見逃すべきではない。

日本政府は今年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、カーボンプライシングに関して「国際的な動向や我が国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要である」と明記しており、環境省の2020年税制改正要望にも同様の内容を盛り込んだ。

カーボンプライシングとは、とどのつまり「炭素税」による大幅増税を意味する。日本でも炭素税同様の税制が既に導入されており、地球温暖化対策税の名目で約2600億円の負担が毎年発生している。欧州は炭素税として日本よりも遥かに高額な徴税を行っており、環境省は日本でも「炭素税」として大規模な税率引き上げを狙っているのだろう。

したがって、10月3日に浜田内閣参与が安倍首相に面談した際に、炭素税の導入を提言したことは急な話でもなく既定路線の出来事と言える。

消費税を10%以上に上げることは政治的に困難なので、消費税引き上げに近い増税額が見込める新税として炭素税に政府が目をつけるのは必然的なことだ。発信力がある小泉環境大臣の抜擢は炭素税議論を前に進める政府の意図があるとみなすべきだ。

冒頭に触れた通り、トランプ大統領は自国の経済・雇用を守るために、フィゲレス女史の言葉を痛烈に批判しながら、パリ協定や緑の気候基金に背を向ける決断を行った。エネルギー産業が盛んな米国事情もあるが、その背景にはエネルギーコストの引き下げによって製造業の雇用を守る意図が存在している。

一方、日本政府は気候変動の枠組みに歩調を合わせることによって何を得ようとしているのか。

それによって得られるものは、エネルギーコストに更なる負荷を加えることで、自国の製造業に決定的な打撃を与えて雇用を失わせることよりも重要なものなのか。フィゲレス女史におべっかで気に入られること(更に国民の炭素税を含む血税を国際プロジェクトに貢ぐこと)は、日本人の労働者の生活よりも大切なことなのか。

小泉環境大臣が安易に言い放った「セクシー」の言葉の先には「炭素税による大増税」が待っている。小泉大臣は自らの言葉である「セクシー」の意味について今一度国会の場で真摯に回答するべきだ。

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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