関西電力の事件は原発利権の問題とみると本質を見誤る

2019年10月09日 06:00

関西電力(以下「関電」)の幹部が高浜町の元助役から金品を受領した問題が世間を騒がせ、7日の衆議院本会議では立件民主党の枝野代表が代表質問で、原発利権の問題として追及したが、この問題を単純に原発利権の問題と見てしまうと、本質を見誤ってしまうのではなかろうか。

NHKニュースより:編集部

関電幹部に高浜町元助役から渡されたお金がどこから湧いてきたかというと、高浜町には多額の原発交付金が流れ込んでいるから、その工事を請け負った吉田開発から関電に支払われた可能性はある。それなら我々の税金が関電幹部の私腹を肥やすために使われたのだから、大問題だ。

しかしおそらくそうではなく、関電が自社の予算で各種の工事を吉田開発に発注し、その工事代金の一部を自分たちに還流させたのだろう。小さいとはいえ一応地方公共団体である高浜町の歳出入は細かいところまでは一般の目には触れないとしても、何かの拍子に(例えば開示請求があれば)表に出る危険性があるが、関電の決算は膨大な帳票に基づいて作成されるので、外部からはなかなか不正を見つけにくい。

関電の幹部が受け取ったのは菓子箱の底に隠した小判とか金杯などの金製品や1件50万円相当の高級スーツ仕立券などだが、これらはいずれも賄賂の受け渡しの定番商品ばかりだ。高級スーツの仕立券で1〜2着はスーツを作る人もいるかもしれないが、これを金券ショップに持ち込めばディスカウントにはなるが現金で買い取ってくれる。賄賂を贈る方も百貨店でその仕立券を買うのではなく、金券ショップで安く購入して関電側に渡したのだろう。仕立券は賄賂のお金を運ぶための容器に過ぎないのだ。

金製品も受け取った側は、銀行預金のように税務署に把握されにくく、贈収賄の痕跡が残りにくいという意味で、金丸元自民党副総裁の事件を引き合いに出すまでもなく、ダーティーマネーの隠匿手段の定番だ。

これを暴いた国税局は、私も一時期その職場にいたからわかるが、さすがに職人技だと言えよう。元助役が顧問をしていて裏金を元助役に渡した吉田開発が仮にその金を使途秘匿金として処理し、お金の行く先を黙秘していたら、国税局の調査もそこで止まってしまったかもしれない。おそらく吉田開発関係者が口を割ったか、地元では有名人だった元助役の身辺を調査して関電にお金が流れたことが分かったのだろう。

金品を受け取った関電側は、普通の社会人であれば、これらの金品が儀礼の範疇に入るどころか、賄賂を贈る際の定番商品だということぐらい知らないはずがない。会社の金を使って私腹を肥やしたのだから、普通の企業であれば即懲戒免職で刑事告発されているはずだ。それが第三者委員会を立ち上げて調査するという、この手の事件でよく使われる引き延ばし策が講じられること自体が、この業界の特殊性を表していると言えよう。

今回の事件は原発交付金にまみれた小さな町の助役と関電の一部の幹部の不正事件と捉えられがちだが、より広く電力業界共通のこうした不正が起きやすい体質が問題なのではなかろうか。

関電に限らず日本の電力会社は、日本中の各地域ごとに公共サービスを提供する企業として社会的責任を負う一方で優遇もされており、社長は地方の経営者団体のトップになり、一定の期間それを務め上げたら旭日大綬章をもらうのがお約束という、殿様企業の体質を令和の時代になっても色濃く残しているのだ。そしてその金力の源泉となるものは市場原理があまり働かない電気料金だ。

今回のことは関電だけの問題ではない。私自身が以前にゼネコンの幹部をした人から聞いた話だが、ある電力会社(ちなみに関電ではない)と酒席でこれから請け負おうとする工事の大まかな見積額を話したところ、電力会社側はその見積額をもっと高くするように要求したというのだ。

普通の会社であればいくら酒席でのこととはいえ工事代金を低くしろということは言っても、高くしろとは言わないはずだ。その疑問を素直に電力会社側にぶつけると、電力会社側は「今こうしてあなたたちとお酒を飲めるのはどうしてだか分かるか?」となぞかけをしてきたので、ゼネコンの人は事情を一瞬にしてすべて理解したそうだ。

今回の関電の事件が報道された際の街頭インタビューで「もう電気料金を払いたくなくなった」という意見が報じられたが、まさに今回の問題への国民の素直な反応だと思う。

関電の問題を単に原発の問題とか高浜町の助役と関電の一部幹部の問題だけと捉えるのでなく、電力業界の古い体質こそが問われるべきだ。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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