小池の失政に小泉が泣く…姫路市の“クールビズ返上”成功が注目

新田 哲史

兵庫県姫路市がこの夏、市役所庁舎内の室内温度を25度に設定したところ、残業時間が減少するなど業務効率がアップしたことがネットで話題になっている。環境省が2005年から推進してきた「クールビズ」の室温目安28度の妥当性があったのか、疑念を膨らませてしまったからだ。

姫路市内(写真AC)

きっかけは7日に市長の定例記者会見で検証結果を明らかにしたもので、地元紙・神戸新聞の記事はヤフーニュースにも配信されて全国的な注目を集めつつある。

筆者が、このローカル記事の存在を知ったのは、姫路で高校時代を過ごした安積明子さんがFacebookで当該記事を紹介していたことによる全くの偶然だったのだが、よりによってと苦笑してしまった。言わずもがな、クールビズを始めた時の環境相は現東京都知事の小池百合子氏で、彼女の代表的な看板政策だ。

そして、現在の環境相は、迷言続きで組閣後の政治ニュースの炎上案件を一定に引き受け、早くも「これが最初で最後の大臣か?」と言う呼び声も聞こえ始めた小泉進次郎氏。小池氏と小泉氏、14年越しに「失政」の疑いが浮上したところで役者が揃ったわけだ。巷の政治ウォッチャーにとっては、N国・立花氏の埼玉補選参戦に匹敵する興味深い案件になるかもしれない。

政府サイトより

環境省が「クール」に受け流してきた国民の「暑苦しい」訴え

念のために重要な前提を書いておくと、クールビズで定める28度とはあくまで「室温」のことであり、空調の「設定温度」ではない。

それでも、国民の間で「28度はやっぱり暑苦しい」と怨嗟の声が起きたのも事実だ。三菱電機ビルテクノサービスが今年7月にビジネスパーソン1,000名に行った調査でも、「28℃設定は58.8%が暑いと感じていると回答したというから、机上の政策だった疑いが拭えない。

筆者自身、お役所の推奨を奇特にも守る民間企業だけでなく、国民に率先垂範せざるを得なかった公務員からそうしたボヤキをなんども聞いた。今回話題の姫路市でも、職員が8月時点の日経新聞の取材に対して、「暑すぎて作業効率が落ちる」と率直な本音を漏らし、3度下げた25度設定を始めた効果について「昨年までうちわであおぎながら仕事をしていたけれど、今年は快適で作業がはかどる」とも語っていたという。

ところが、環境省はまさにクールにそんな現場の声を受け流してきた。クールビズの認知・理解度調査を実施して、霞が関らしい「上から目線」で指摘。「40~50代の男性」の7割が室温と設定温度を勘違いしていると突き放している。しかも「日差しの当たり具合や周囲の環境で、1つの部屋の中でも温度に差が生じてしまいます」などと愚にもつかない“言い訳”をして、役員、管理職の多いこの世代にムダにケンカを売ってる素敵な官僚答弁に、国民は怨嗟、疑念を募らせるだけだった。

「何となく28度にした」の暴露騒動から2年

盛山氏(官邸サイト)

異変の兆しがあったのは2017年5月。国交省から出向して、クールビズ開始時の担当課長だった盛山正仁・法務副大臣(当時)が副大臣会議で「科学的知見をもって28度に決めたのではない。何となく28度という目安でスタートし、それが独り歩きしたのが正直なところだ」と暴露する珍事が勃発したのだ(出典:ハフポスト)。

毎日新聞も冷房28度設定に「異論相次ぐ」と閣僚の発言を報じるなど、炎上してクールビズの見直しにつながるのか注目されたが、その翌日、山本公一環境相(当時)が「根拠がある」と全力で否定。「クールビズ開始当時のオフィスの室温が平均26度で、ネクタイの有無で体感温度が2度変わるとの研究結果」(日経新聞)などの釈明に追われる騒ぎになった。

(環境省の主張する28度の根拠はこちら→「どうして「28℃」?」)

「リア充リベラル」の主張にヒント!?

しかし、今回、姫路市が「反旗」を翻してくれたおかげで、クールビズの“失政”を改めて追及する機会がやってきた。クールビズ開始当時の大臣が、豊洲問題でムダに騒ぎを作った小池百合子氏であり、その実績と手腕を再検証することができる。しかも現大臣が将来の首相候補としてもてはやされてきた小泉進次郎氏の大臣適性を試すこともできる千載一遇の機会だ。

…と煽ってみた一方で、小泉氏をこの1年酷評してきた筆者がいうのもなんだが、軌道修正のヒントは彼と親和性がある属性の人たちが握っている。それは「リア充リベラル」の有識者たち、具体的には、中室牧子氏、駒崎弘樹氏らが提唱しておなじみの「エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング」(EBPM)だ。

28度設定の根拠は、「働きやすさ」という視点からすれば、政策立案当時に検証した際に十分だったのかどうか。今こそクールビズの政策形成過程のEBPMを問い直す機会ではないのか。温暖化抑制のために科学的にそれなりに正しいと思える根拠でも、肝心の生活したり、働いたりする環境の不快指数が上がってしまう場合にどこまで許容するのかを検討したのかを知りたい。

テレポリティクス(テレビ政治)の達人、小池氏主導のイメージ先行の嫌いがあったクールビズ政策。いままた、テレビ人気が先行してきた現職環境相の小泉氏がEBPA的な手綱さばきを見せるかどうかが問われようとしている。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」