「欧州最安」ライアン航空の商魂たくましい“補助金ビジネス”

ヨーロッパで最も安価な航空料金を提供していると自負し、その代わりお金が取れる対象になるものはそれが何であれ自社の収入に繋がるようにするというのがライアン航空だ。また、従業員の解雇も労働規約に忠実に従うことは稀だ。だから従業員からの愛社精神は育たない。

Victor/flickr 

利用客も料金が安いからということで利用するだけで、ライアン航空のファンはいない。それでも格安航空としてヨーロッパで最も利用客数の多い航空会社である。

そのライアン航空がスペインで最近目立って表明しているのが採算ベースに乗らない同航空の地上基地を廃止するということである。その狙いはその地上基地が存在している自治体から補助金をがっぽり貰うためである。

何しろ、ライアン航空を利用する客は多く、空港が潤うことになる。それが撤退すると空港の運営が一挙に赤字に転じるようになる。それは自治体にとってあらゆる意味でマイナスだと判断して自治体はライアン航空が撤退するのを引き留めようとして補助金を提供するということになる。

例えば、ガリシア地方の主要都市のひとつ人口30万人のビゴ市のラバコーリャ空港の場合はライアン航空の利用客は同空港の年間利用客のほぼ半分を占めることになるそうだ。ということで自治体が補助金を出してライアン航空に路線を維持して貰うことが当然となる。

例えば、今年7月まででスペイン市場でライアン航空の利用客は2510万人。昨年比6.8%の上昇。それに、F1ドライバーだったニキ・ラウダが創設した旧ラウダ航空がその後ラウダモーションとなり、現在ライアン航空が同社の株100%を所有している。この航空会社の現在までの利用客を加えると2677万人が利用したことになり、昨年比9.8%の上昇となるそうだ。

因みに、ライバルのイージージェットの昨年のスペイン市場での利用客は1024万人ということで、ライアン航空利用客の4割に相当する。(参照:elindependiente.com)。今年は現在までスペインで飛行機の利用客の増加は240万人となり、その40%をライアン航空が担ったことになるそうだ。

ライアン航空が最近良く口にするようになっているのがカナリア諸島のグラン・カナリア島とテネリフェ島にある二つの空港の基地を撤退させたいということである。理由は来年は機材が30機減るということと、採算効率が低いことから他のヨーロッパで成長している都市の空港に基地を移転させたいということなのである。(参照:rtvc.es

しかし、現地の同社の従業員の話だと飛行機は常に満席。時間的に十分に余裕をもってチケットを購入する必要があるということで、この二つの空港が採算率が低いとのは言い訳で、自治体からの補助金の増加を要求する為の戦術だと指摘している。実際、ライアン航空の人事部の責任者が「来年1月8日に閉鎖し中期的に再開する予定はないことを表明した上で、「閉鎖するという考えについては経済的な何か支援があれば変更は可能だ」と示唆したのである。

また、つい最近のトーマス・クックの倒産でカナリア諸島は同社のドル箱であったがトーマス・クック航空も飛べなくなった。そこでカナリア諸島ではライアン航空の基地撤退は是非とも食い止めたいとしている。同諸島の自治政府が補助金を加算する可能性も生まれている。

現在のライアン航空は欧州連合内にある214の空港の内52の空港についは自治体から補助金を受けているという。しかも、補助金を受けている空港の中で17の空港は利用客数は50万人以下だという。(参照:elespanol.com

ライアン航空の戦略のひとつは主要都市圏の周囲の第二都市間を繋ぐことだという。しかし、第二都市にある空港は十分な設備機能を備えていない。そこで自治体から支援金をもらって路線を維持するというものだ。このような場合の補助金は現行の欧州連合では違法とはされていない。ところが、欧州委員会はそれを受け取るための手段について違法性があるか調査を開始しているという。(参照:tourinews.es

ライアン航空が自治体から受け取っている補助金は平均して8000万ユーロ(96億円)だという。例えば、前述したビゴ市のラバコーリャ空港の場合、ライアン航空からビゴ市に補助金を3倍に増やすように要求して来たという。その根拠になったのはこの3年間で利用された飛行機の席の延べ数について1席当たり18ユーロ(2160円)にしてはじいた金額を補助金として要求したのである。

ビゴ市のアベル・カバリェロ市長は今年の選挙でも過半数にあまりあるほどの議席を獲得した市長で、彼の市政は市民から高く評価されている。そのカバリェロ市長はライアン航空からの要求は断固受け入れることは出来ないとして交渉は中断している。(参照:elespanol.com

ライアン航空ではカタルーニャのジロナ市の空港でも基地の撤退を仄めかすようになっているそうだ。しかし、地元紙によると、数か月前に同航空から離着陸の本数を増やす意向であることが同紙に伝えられたいうことで、撤退を仄めかしていることとは矛盾するとしている。またその自治体でも同航空からそれについて如何なる要望も届いていないとしている。ジロナのホテル業界の方はこの件について労働組合から知らされたそうだ。

ジロナ空港は2008年から2016年まで4500万ユーロ(54億円)を受領し、2012年にはカタルーニャ州政府から2016年まで毎年800万ユーロ(9億6000万円)の補助金を受け取っていた。今回の基地閉鎖を示唆しているのは新たに補助金の設定を要求する為の探りを入れているような感がする。(参照:elespanol.com)

ジロナ空港はライアン航空がスペイン市場開拓で最初の起点になった空港だった。ジロナ市は人口10万人であるが、バルセロナまで車で1時間半の距離だ。ジロナ空港はライアン航空にとって着陸税,停留税は非常に安く英国からの団体客をスペインまで連れて来るのにこの空港が良く利用されていた。それはバルセロナのプラッツ空港に基地を設ける以前であった。

またカナリア諸島の二つの空港とジロナ空港の基地を閉鎖するというライアン航空の意向には同航空の労働組合の中でこの3つの空港の組合がもっと影響力のある組合だということで経営者側ではそれを潰そうとする意向も含まれていると組合側では見ているという。(参照:elespanol.com

今年後半もライアン航空に絡む報道は尽きることがないであろう。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家